098 賃金と消費 - 実質値での相関はあるか?

労働者への賃金の実質変化と、家計の最終消費支出の実質変化をマッピングする事で、両者の関係性を確認してみます。

1. GDPと賃金の関係

前回は、G7各国の分配面GDPについて、1人あたりの実質成長率について取り上げました。
1人あたりの実質成長率で見ても、多くの国で労働者(≒多くの国民)と企業、政府とである程度足並みを揃えて分配を増やしている事がわかりました。
変調しているのがイタリアと日本で、特に日本は労働者への分配が減少してきました。

労働者よりもむしろ企業や政府への分配を優先しているようにも見える推移でした。
今回は、労働者への分配である賃金と、国民(家計)の消費との関係を可視化してみたいと思います。
分配面の賃金と、支出面の家計最終消費支出、そしてGDPとの関係性を1つずつ見てみましょう。

まずは賃金とGDPの関係です。

賃金・GDP 1人あたり 実質値

図1 賃金-GDP 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図1が、1人あたりの実質値について、横軸に分配面の賃金、縦軸にGDPを取ったグラフです。
1997年の数値を1.0とした倍率の推移として表現しています。
賃金1.0、GDP1.0の原点が1997年で、そこからどのような関係で推移しているかが表現されています。
黒いラインが、賃金とGDPが同じ比率(1:1)で成長する事を示すラインです。

このグラフを見ていただいて明らかなように、各国とも黒いラインにある程度沿って推移しているのが分かりますね。
日本だけ、左上の領域でウロウロしています。。

賃金が上がれば、同じくらいの割合でGDPが成長する関係であることがわかると思います。
日本は賃金が左側の領域となりやや下がっていますが、GDPは実質成長しているという奇妙な関係性となっています。

2. GDPと消費の関係

つづいて、GDPと家計最終消費支出についての実質変化を確認してみましょう。

家計最終消費支出・GDP 1人あたり 実質値

図2 家計消費支出-GDP 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図2が、家計最終消費支出GDPとの関係を表現したグラフです。
やはり各国とも黒いラインに沿って推移しているのがわかります。

家計最終消費支出とGDPも密接に関係している事になります。
家計最終消費支出は各国とも支出面のGDPの50%以上を示す最大項目です。

日本は他国よりも伸び具合は大きくありませんが、家計最終消費支出とGDPは実質値でもプラス成長しています。

アメリカは家計最終消費支出の成長の方がGDPの成長よりもやや大きく、ドイツは逆に家計最終消費支出の成長よりもGDPの成長の方が大きいようです。

各国とも家計最終消費支出とGDPの相関が強く、ほぼ1:1の割合で成長している事がわかりますね。

3. 賃金と消費の関係

図1は分配面の賃金とGDPの相関、図2は支出面の家計最終消費支出とGDPの相関を表したものです。
当然ですが、どちらも正の相関(片方が上がればもう片方も上昇する関係)が確認できました。

それでは、賃金と消費の関係についても関係を見てみましょう。

賃金・家計最終消費支出 1人あたり 実質値

図3 賃金-家計消費支出 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図3が分配面の賃金を横軸、支出面の家計最終消費支出を縦軸にとったグラフです。

どちらも1人あたりの実質値(1997年を1.0とした倍率)で表現してあります。
日本以外のどの国も、ある程度黒い線に沿っていて強い関係性が確認できます。
アメリカが、やや賃金よりも家計最終消費支出の伸びの方が大きい特徴がありそうです。

ここで確認できるのは、分配面での賃金が増えると、支出面での家計最終消費支出が増えるという考えてみればあたり前のことです。
あるいは、消費が増えると結果的に賃金が増えると見てもよいかもしれません。
少なくとも両者には強い関係性(相関関係)があるという事ですね。

アメリカは賃金の上昇の割には消費の増大が大きいようですし、ドイツは賃金の成長度合の割には消費の増大が少なめです。
それぞれの国で特徴はありそうですが、基本的には賃金と消費が連動して増える関係です。

1国だけ傾向が異なるのが日本です。
左上の領域でウロウロしていますね。
日本の場合は賃金が減って、消費が増えるという不思議な関係となっています。

4. 賃金と消費の国際比較

賃金が増えれば消費が増える、というのは一見あたり前の事のように思いますが、現在の日本は異なるようです。
また、この関係は主要国に限った話でしょうか?

あるいは、実質値ではなく名目値の成長率についてはどうなのでしょうか?
他の先進国も含めたグラフで可視化してみましょう。

賃金・家計最終消費支出 名目値 2017年

図4 給与所得-家計最終消費支出 成長率
(OECD 統計データ より)

図4がOECD各国の賃金(横軸)と家計最終消費支出(縦軸)の関係をバブルチャートにしたものです。
1997年を1.0とした時の、2017年時点での名目成長率で表現しています。
円の大きさがGDPの大きさを表します。

やや賃金の増加の方が多い(角度が浅い)ながらも、強い関係が見て取れますね。
ほぼ黒い直線(1:1)上に乗っているのがわかると思います。

右上に属する高成長している国々の中で、ラトビア、エストニア、ハンガリー、リトアニア、ポーランドはいずれも人口が停滞もしくは減少している国です。

これらの国々は賃金も消費も(当然GDPも)、20年間で3倍以上に成長しています。
平均給与の水準が低く、人口も少ない小国が多いですが、人口が減少していても経済発展している国々ですね。
ただしこれら東欧諸国は、元々の水準が低かったためこの期間での成長率が高かったという事も考えられます。
今後の推移が気になるところです。

G7各国も1.5~2倍程度には成長しています。
日本はどちらも増えてなく、原点維持といった位置になります。

5. 賃金と消費の関係の特徴

今回は、分配面の賃金と支出面の消費が連動して増えるという関係を可視化してみました。
あたり前の事ではありますが、実際に可視化する事で再確認できたと思います。

1人あたりの実質値で見ると、日本だけは賃金が減少し、消費とGDPが微増しているという不思議な状況です。

名目値で見ると、賃金総額も家計消費も日本だけ増えていません。

また、消費支出の内訳を見ると、生活に必須な消費が増えている反面、レジャーや外食などより生活を豊かにする消費はむしろ減っているという指摘もあります。

賃金が増えていないのに、実質的な消費を増やさざるを得ないという事を表しているのではないでしょうか。
賃金が増えれば、もっと消費が増える余地があるようにも見えます。

皆さんはどのように考えますか?

参考:家計最終消費支出の変化

(2023年12月追記)

家計最終消費支出 名目・実質 変化量

図5 家計最終消費支出 名目・実質 変化量
(家計調査より)

図5が日本の家計最終消費支出について、名目(横軸)と実質(縦軸)の変化量を散布図で表現したものです。

住宅・電気・ガス・水道、情報・通信、個別ケア・社会保護、食料・非アルコール、保健・医療など生活に必須の支出が増えています。

一方で、娯楽・スポーツ・文化、被服・履物、アルコール飲料・たばこ、外食・宿泊サービスなど、どちらかと言えば生活をより豊かにするような支出が減っていますね。

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