104 所得水準と格差の関係 - バブルチャートによる国際比較
日本は比較的所得格差の小さい国ですが、所得水準そのものは先進国でも低い方になり、かつ1990年代よりも下がっています。バブルチャートで各国の関係性を整理する事で、日本の取り得る方向性が見えてくるかもしれません。
1. 所得格差と平均所得の成長率
前回は、OECD各国の所得格差と所得分布の関係をご紹介しました。
所得十分位数について、低所得側の格差と、高所得側の格差をプロットして各国の立ち位置がわかったのではないでしょうか。
アメリカや韓国はもともと大きい格差が、より広がる方向に推移しています。
ドイツやイギリスも少しずつ格差が大きくなる一方で、フランスやイタリアなど格差が縮小している主要先進国もあるようです。
日本は少しずつですが低所得層の割合が増えながらも格差が拡がっている状況だという事がわかりました。
所得の分布と経済成長は関係するのでしょうか。
少し興味のあるところでしたので、その関係を示すグラフを作ってみました。
図1 所得分布-平均所得 2018年
(OECD統計データ より)
図1が、OECD各国の所得の分布と平均所得を表現したグラフ(バブルチャート)になります。
横軸が所得の低所得層側の格差(第5/第1十分位数)、縦軸が高所得層側の格差(第9/第5十分位数)です。
原点(縦軸=1.0、横軸=1.0)に近づくほど格差(第9/第1十分位数)が小さい事を示します。
逆に原点から離れるほど格差が大きくなります。
第5/第1十分位数と第9/第5十分位数が同じとなる分布が中央値に対してほぼ対称形状の分布になります。
所得十分位数の詳細は、下記記事をご参照ください。
参考記事: 日本人の所得格差は小さい?
参考記事: 先進国の所得格差の特徴
バブルの大きさが、その国の平均所得の大きさを示します。
(平均所得は直径に比例します)
バブルの色が1997年→2018年での平均所得(購買力平価調整済みドル換算)の変化を示します。
赤が2.5倍以上、黄色が1.6~1.8倍、黄緑が1.4~1.6倍、緑が1.2~1.4倍、水色が1.1~1.2倍、青が1.0~1.1倍、グレーが1.0倍未満です。
平均所得を表すバブルの大きさでは、日本は小さい方です。
興味深いのが、リトアニア、ラトビア、エストニアの3国です。
これらの国は、人口の少ない小国ですが、人口が減りながらも急激に経済成長している国々です。
この3国は配置が近く、格差が比較的大きい方ですが、所得水準が大きく上昇しています。
チリ、コロンビア、ポーランドも格差は大きいですが、比較的所得の上昇が大きな国(黄色)ですね。
イスラエルを除けば、比較的格差の大きいエリアには平均所得の小さい国が多く分布しているように見えます。
これらの国はある程度の所得格差を含みながらも、大きく所得水準が向上しているという特徴がありそうです。
アメリカの特殊性もよくわかります。
イタリア、日本、スペイン、ギリシャといった経済的に変調しているとされる国々は比較的近い位置にまとまっています。
スイス、オランダ、オーストリアなども、平均所得の増加率は低い方ですので、この辺りに分布している国が比較的停滞~低成長な傾向にあるようです。
格差は比較的小さいながら、第5/第1十分位数=第9/第5十分位数の線に近い位置で大変興味深いです。
このエリアよりも左上の方向であれば、ルクセンブルク、フランス、ニュージーランドなど、それなりに所得水準が向上している国々が位置しています。
ルクセンブルクやスイス、アイスランドなどの、比較的平均所得の高い国は、第9/第1十分位数が2.5~3.5くらいの範囲に多く分布していますね。
日本もこの近辺に位置しますが、残念ながら平均所得は低い水準で、低成長です。
格差が小さいと所得向上できないかというと、最も格差の小さいスウェーデンはそれなりに高い成長を示しています。
2. 所得格差の分布から見た日本の立ち位置
このグラフを見る限り日本の取り得る変化は次の2つの方向が考えられそうです。
(A) 第5/第1十分位数が変わらずに、第9/第5十分位数が上がる方向
グラフで言えば日本の今の位置からチリの位置(上方)に移動していく変化です。
中央値よりも極端に大きな所得を持つ、少数の高所得層が増える事を意味します。
高所得層と低所得層との差が開く事により、グラフでは上方に移動するはずです。
あるいは、現在の低所得層と中所得層の所得が更に減っていくと結果的に高所得層との差が開きますので、グラフでは上方に移動します。
今の日本が推移しているのは、こちらの方向のようです。
相対的に低所得者層のボリュームが大きくなる方向です。
(B) 第5/第1十分位数も第9/第5十分位数も上がる方向
日本の今の位置から、ドイツやアメリカなどの位置へ変化する方向です。
中央値に対して対称に近い分布を保ちながら、低所得側にも高所得側にも分布が拡がっていきます。
所得の二極化が進む格差社会という事になります。
格差を積極的に容認していく事で、経済成長し所得の平均値が上がっていくととこのような変化が生じると思われます。
(A)も(B)も私たち日本人にとって、幸せと言える方向と言えるでしょうか?
所得格差が少ないというのは日本の良いところだと思います。
一億総中流とまで呼ばれていた時代もあったようです。
ただ、格差が小さい分だけ、皆で低所得化しているのが現在の日本の状況でもありますね。
その中でも以前よりは格差が拡がっているという変化になっているようです。
3つ目の方向性として、次の事も考えられると思います。
(C) 所得格差が縮小し原点へ向かう方向
スウェーデンの位置など、原点に近づいていく方向となります。
低所得層が中所得層に変化し、現在の中所得層の所得も増えて高所得層との差が減るという変化です。
中央値そのものが上昇しながら、全体の格差(第9/第1十分位数)が減っていく方向です。
今の日本の位置は、A、B、Cのいずれの方向性にもアプローチできる絶妙な位置にいるとも言えるかもしれません。
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