313 雇用者の労働生産性 - 雇用者1人あたり付加価値

労働生産性の一般的な指標である労働時間あたりGDPは、持家の帰属家賃なども含まれるGDPを労働者(就業者)の総労働時間で割った指標です。今回は、企業で働く雇用者の労働生産性を計算してみました。

1. 雇用者の付加価値とは

前回は、平均労働時間について統計データを確認してみました。
一般労働者の平均労働時間はあまり変化がありませんが、パートタイム労働者が増えた事により平均値が下がっているようです。
また、パートタイム労働者の平均労働時間もやや減少傾向のようです。

労働生産性は一般に、労働者1人あたりGDPや労働時間あたりGDPで表現されます。
このGDPには、自営業者が稼いだ付加価値(家計の混合所得)や、持家の帰属家賃(家計の営業余剰)が含まれますね。
自営業者の労働時間などは本来集計が難しいはずですし、持家の帰属家賃分だけGDPが嵩上げされているような面もあります。

労働者(又は就業者)は雇用者に自営業者を加えたものです。
つまり、GDPから家計の営業余剰・混合所得を引いたものが、雇用者によって生み出された付加価値となるはずですね。

この雇用者の付加価値を雇用者数や雇用者の労働時間で割った生産性の方が、より労働者の生産性を表しているのではないかとの指摘もあるようです。
(ただし自営業者の生産性は除外されます)

今回は、この雇用者の労働生産性について計算してみた結果をご紹介します。

雇用者 労働生産性 日本

図1 雇用者 労働生産性 日本
(OECD統計データより)

図1が日本の雇用者の労働生産性を計算した結果です。

雇用者の付加価値は次のように計算しました。

雇用者の付加価値 = GDP - 家計の営業余剰・混合所得

これを雇用者数で割ったものが雇用者1人あたり付加価値で、雇用者の総労働時間で割ったものが雇用者の労働時間あたり付加価値です。

まず雇用者1人あたり付加価値(青、左軸)を見ると、1997年をピークにして横ばいが続いた後、リーマンショックで減少し、やや回復したところにコロナ禍でまた減少といった推移が見て取れます。
長期的に見れば横ばい傾向ですね。
760~870万円の範囲をアップダウンしているような状況です。

雇用者の労働時間あたり付加価値は、リーマンショック後の伸び具合が1人あたりよりも大きく、全体で見るとやや増加傾向のようにも見えます。
2021年には5,000円/時間に近い水準にまで達しているので、1994年の4,300円くらいの水準からすると15%位は時間あたりの生産性が向上している事になります。

年間(1人あたり)と、時間あたりで傾向が異なるのも興味深いですね。

2. 雇用者1人あたり付加価値の推移:為替レート換算値

続いて、雇用者1人あたり付加価値についても国際比較してみましょう。
まずは為替レート換算値の比較です。

雇用者 1人あたり付加価値 為替レート換算

図2 雇用者 1人あたり付加価値 為替レート換算
(OECD統計データより)

図2が雇用者1人あたり付加価値について、為替レート換算した推移です。

日本(青)は1990年代に高い水準に達した後は、横ばい傾向が続いていて近年ではOECDの平均値を下回ります。

ドイツやフランス、イギリスなどとも連動したような推移ではありますが、一回り水準が小さいようです。
アメリカとは大きな差がついていますね。

日本は2022年は円安となったため、2022年以降は更に水準が下がるものと思われます。

3. 雇用者1人あたり付加価値の国際比較:為替レート換算値

続いて、雇用者1人あたり付加価値の国際比較をしてみましょう。

雇用者 1人あたり付加価値 為替レート換算 2021年

図3 雇用者 1人あたり付加価値 為替レート換算 2021年
(OECD統計データより)

図3が2021年の水準比較です。
日本は74,631ドルで、OECD31か国中21位、G7中最下位でOECD平均値を1割ほど下回ります。

雇用者に限定した生産性でも、日本は先進国の中では平均値を下回る事になります。

4. 雇用者1人あたり付加価値の推移:購買力平価換算値

続いて、購買力平価によるドル換算値の比較もしてみましょう。
購買力平価での換算は、物価をアメリカ並みに揃え、数量的な比較をすることになります。
購買力平価は、「通貨コンバータであり空間的価格デフレータ」であると言われます。

雇用者 1人あたり付加価値 購買力平価換算

図4 雇用者 1人あたり付加価値 購買力平価換算
(OECD統計データより)

図4が雇用者1人あたり付加価値購買力平価換算による推移です。

日本(青)は2000年頃まではイギリスと同程度でOECD平均値をやや上回っていましたが、その後は少しずつ差が開いていき、近年では横ばい傾向で、他の主要先進国と大きな開きがあるようです。

OECD平均値からもかなり劣後している状況ですね。
購買力平価で換算すると、多くの経済指標で1990年代の高い水準が均され、近年では停滞傾向のグラフとなります。

5. 雇用者1人あたり付加価値の国際比較:購買力平価換算値

続いて、雇用者1人あたり付加価値の購買力平価換算値の国際比較です。

雇用者 1人あたり付加価値 購買力平価換算 2021年

図5 雇用者 1人あたり付加価値 購買力平価換算 2021年
(OECD統計データより)

図5が購買力平価換算の2021年の比較です。

購買力平価で換算すると、近年では為替レート換算よりも日本の順位が更に下がる特徴があります。

日本は80,265ドルで、OECD31か国中23位、G7中最下位で、OECDの平均値を2割近く下回ります。
イスラエル、スペイン以外にも、エストニアやチェコ、ポーランドなど東欧諸国よりも低い水準となっています。

また、イタリアの水準がかなり高く、逆にイギリス、ドイツの水準がやや低いのも特徴的ですね。
イタリアは自営業者の多い国という特徴がありますので、その影響を除外した雇用者の水準で見るとここまで高いのは大変興味深いです。

6. 雇用者1人あたり付加価値の特徴

今回は、より現実的な生産性の指標と思われる、雇用者1人あたり付加価値の計算結果についてご紹介しました。

この指標で見ても日本は先進国で低い方の水準へと立ち位置を変化させている事になります。

「生産性」という言葉が様々なところで使われていますが、いくつもある見方の1つとして雇用者1人あたり付加価値というのも参考になるのではないでしょうか。

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