260 政府の金融資産・負債残高 - 意外と多い日本政府の資産
主要先進国の政府について、自国通貨ベースでの金融資産・負債残高をご紹介します。日本の政府は負債が多い事で知られていますが、意外と金融資産も多く持っているという特徴があるようです。
目 次
1. 政府の金融資産・負債残高:日本
前回はG7各国について、企業の金融資産・負債残高をご紹介しました。
負債のうち株式等が多く金融資産よりも負債が大きく増えているアメリカ、イギリス、カナダ、資産側でも株式等の多いドイツ、フランスという違いがありました。
日本は企業の負債のうち貸出が目減りしていて、純金融負債も減少している特殊な状況と言えそうです。
今回は、政府(一般政府:General Government)の金融資産・負債残高(Financial balance sheets)を見ていきたいと思います。
図1 金融資産・負債残高 政府 日本
(OECD統計データ より)
図1が日本の政府の金融資産・負債残高のグラフです。
左が積上グラフ、右が各項目の推移です。
金融資産はプラス側、負債はマイナス側で表現しています。
負債のうち債務証券(橙)の多くが国債ですね。
日本は「国民1人あたり1000万円の借金」と言われているものです。
ちょうど1200兆円程度に達しています。
よく見ると、日本の政府は金融資産も多く持っていることがわかります。
債務証券、株式等、現金・預金が多いようですね。
負債に対する金融資産の割合は、51%ほどになります。
差引きの純金融資産は2015年以降では停滞傾向であることも特徴的です。
負債のうち債務証券は増えている反面、貸出は減り、金融資産が増えているためですね。
2. 政府の金融資産・負債差額:アメリカ
続いてアメリカのデータを見てみましょう。
図2 金融資産・負債残高 政府 アメリカ
(OECD統計データ より)
図2がアメリカの政府の金融資産・負債残高のグラフです。
やはり負債側の債務証券(≒国債)の存在感が大きいですね。
負債の中で年金・保険の存在感が大きいのも特徴的です。
負債も金融資産も増加傾向が続いていますが、負債に対して金融資産の割合が小さいようです。
負債に対する金融資産の割合は、22%程度で日本の半分未満の水準ですね。
3. 政府の金融資産・負債残高:ドイツ
続いて、ドイツのデータを見てみましょう。
図3 金融資産・負債残高 政府 ドイツ
(OECD統計データ より)
図3がドイツの政府の金融資産・負債残高のグラフです。
負債と純金融負債の推移が特徴的ですね。
金融資産も増加し続けています。
負債は2014年から減少傾向でしたが、2020年、2021年にコロナ禍対応とみられる急激な増加が見られます。
金融資産は現金・預金、株式等が特に増え続けていてます。
差し引きの純金融負債は2014年以降縮小傾向でしたが、2020年にやや増加しています。
負債に対する金融資産の割合は、61%程で日本よりも高い水準です。
4. 政府の金融資産・負債残高:イギリス
続いてイギリスのデータです。
図4 金融資産・負債残高 政府 イギリス
(OECD統計データ より)
図4がイギリスの政府の金融資産・負債残高のグラフです。
アメリカに似て金融資産が少なめなのが特徴的です。
負債のうち債務証券の存在感が大きく、増え続けている点も共通しています。
負債に対する金融資産の割合は27%程度ですので、日本やドイツと比べて大分少ないようです。
5. 政府の金融資産・負債残高:フランス
続いてフランスのデータです。
図5 金融資産・負債残高 政府 フランス
(OECD統計データ より)
図5がフランスの政府の金融資産・負債残高のグラフです。
日本やドイツに似て金融資産も比較的多く持っているようです。
負債のうち大部分が債務証券である点も共通です。
金融資産の中では特に株式等の割合が大きいようですね。
負債に対する金融資産の割合は44%です。
6. 政府の金融資産・負債残高:カナダ
続いてカナダのデータです。
図6 金融資産・負債残高 政府 カナダ
(OECD統計データ より)
図6がカナダの政府の金融資産・負債残高のグラフです。
とても特徴的な推移ですね。
負債側の債務証券は増え続けているのですが、金融資産も増えているので、差し引きの純金融負債は横ばいが続いています。
金融資産のうち特に株式等の存在感が大きいようです。
負債の増え方も他国に比べて緩やかなようです。
負債に対する金融資産の割合は74%に達し、日本やドイツを大きく上回ります。
7. 政府の金融資産・負債残高:イタリア
最後にイタリアのデータです。
図7 金融資産・負債残高 政府 イタリア
(OECD統計データ より)
図7がイタリアの政府の金融資産・負債残高です。
金融資産があまり多くなく、負債のうち債務証券が増えています。
他国と異なるのは、1990年代の時点ですでに負債がかなり大きな水準に達していた事ですね。
同じユーロ圏のフランス、ドイツと比較しても倍近くの規模になっていたようです。
負債に対する金融資産の割合は19%程度で、アメリカを下回りG7で最も低い水準となります。
8. 政府の金融資産・負債残高の特徴
今回はG7各国政府の金融資産・負債残高についてご紹介しました。
各国とも共通しているのは、負債のうち債務証券(主に国債)が主要な項目で、基本的には増え続けている点です。
政府でも金融資産を持っていますが、その規模は国によってまちまちのようです。
負債に占める金融資産の割合を高い方から並べると以下の通りです。
74% カナダ
62% ドイツ
51% 日本
44% フランス
27% イギリス
22% アメリカ
19% イタリア
比較的政府が金融資産を多く持つカナダ、フランス、ドイツ、日本と、金融資産の少ないイギリス、アメリカ、イタリアで大きく傾向が分かれているように見えますね。
様々な面でドイツ、フランスと、アメリカ、イギリスの経済の傾向が対照的ですが、今回もそのような傾向が見て取れます。
カナダは基本的に、アメリカ、イギリスに近い状態が多いのですが政府の金融資産という面ではむしろ対極に位置するのが興味深いですね。
日本はカナダ、ドイツに次いで政府が金融資産を多く持つ国と言えそうです。
政府の負債のうち国債ばかりがフォーカスされがちですが、政府は金融資産も持っているため、正味の純金融資産で比較した方が実態が見えてくるのではないでしょうか。
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