176 「良いものを安く」は正しいのか - GDP生産面の物価指数
代表的な物価指数であるGDPデフレータの生産面について、主要先進国の産業別の物価指数の推移として可視化してみます。
目 次
1. GDP生産面のデフレータとは
前回は、GDP支出面のデフレータについて、主要国の比較をしてみました。
消費支出や総資本形成などの支出面では、各国とも足並みをそろえて物価が上昇している事がわかりました。
日本だけいったん減少し、その後停滞している状況ですが、近年は少しずつ上昇傾向のようです。
また、輸出と輸入のデフレータについても、他の主要国はどちらも増大しているのに対して、日本は輸出のデフレータが下がり、輸入のデフレータが増大して高止まりしています。
日本は安い国になっている事を裏付けるような推移とも言えそうです。
日本の物価は、為替レートの変化も含め一時期極端に高まり、そこから徐々に低下している変化ですね。
海外に対しては少しずつ物価を下げながら、海外からの輸入は少しずつ値段が上がっているという状況です。
輸出物価と輸入物価の比である交易条件が悪化しているという事を意味していますね。
国内物価の停滞や、名目での成長が停滞している事が、このような形でも影響を与えている事になりそうです。
今回は、GDP生産面のデフレータ(物価指数)について、主要国の比較をしてみたいと思います。
GDPの生産面は、工業や建設業などの産業別に集計されていて、物価指数であるデフレータも各産業について計算されています。
GDP生産面のデフレータは、次の項目から構成されています。
・農林水産業
・工業
・建設業
・一般サービス業
・情報通信業
・金融保険業
・不動産業
・専門サービス業
・公務・教育・保健
・その他サービス業
今回は主要先進国のGDP生産面のデフレータについて、それぞれの項目の推移を眺めてみましょう。
2. アメリカのGDP生産面のデフレータ
まずはアメリカのGDP生産面のデフレータを見てみましょう。
図1 GDPデフレータ 生産面 アメリカ
(OECD統計データより)
図1がアメリカのGDP生産面のデフレータです。
1997年を基準とした各産業の物価の変化を示します。
アメリカの場合は、建設業が年率4%を超える物価上昇である事がわかりますね。
公務・保健・教育、専門サービス業、その他サービス業も年率3%前後で高い物価上昇率となります。
製造業は年率0.5%程度ですね。
少しずつ値上がりしているイメージです。
一方で情報通信業はマイナスです。
主に携帯電話料金の値下がりが寄与しているのではないでしょうか。
農林水産業はアップダウンを繰り返しながら停滞している状況です。
2. カナダのGDP生産面のデフレータ
次はカナダのデータです。
図2 GDPデフレータ 生産面 カナダ
(OECD統計データより)
図2がカナダの産業別デフレータです。
アメリカよりも足並みがそろっている印象ですね。
やはり建設業、公務・保健・教育、専門サービス業、その他サービス業が年率3%近くと高い物価上昇となっています。
製造業もリーマンショック前までは高い物価上昇でしたが、その後は横ばいですね。
情報通信業は年率1%程度で物価が上昇しています。
3. イギリスのGDP生産面のデフレータ
次はイギリスのデータです。
図3 GDPデフレータ 生産面 イギリス
(OECD統計データより)
図3がイギリスの産業別デフレータです。
やはり建設業、公務・保健・教育、その他サービス業の物価上昇率が高いです。
一方で専門サービス業は年率1%未満に抑えられています。
製造業は年率2%程度と比較的高い水準です。
情報通信業が2001年にかけて下落し、その後横ばいながらもやや上昇基調です。
4. ドイツのGDP生産面のデフレータ
アメリカ、イギリス、カナダはG7の中でも比較的経済成長率の高い国です。
その他のドイツ、フランス、イタリアについても見てみましょう。
まずはドイツのデータです。
図4 GDPデフレータ 生産面 ドイツ
(OECD統計データより)
図4がドイツの産業別デフレータです。
金融保険業が2002年~2004年で大きく物価上昇し停滞しています。
アメリカなどと比較すると抑え気味ではありますが、やはり建設業、公務・保健・教育、その他サービス業の物価上昇が比較的大きようです。
製造業、一般サービス業は年率1%未満ですが堅実に物価が上がっている状況です。
情報通信業は値下がりが大きいですね。
2013年以降は横ばいのようです。
5. フランスのGDP生産面のデフレータ
次はフランスのデータです。
図5 GDPデフレータ 生産面 フランス
(OECD統計データより)
図5がフランスの産業別デフレータです。
建設業が年率3%以上の高い物価上昇率です。
公務・保健・教育、専門サービス業、不動産業が年率2%以上の物価上昇ですね。
一方で工業は横ばい、情報通信業が値下がりしています。
6. イタリアのGDP生産面のデフレータ
続いてイタリアのデータです。
図6 GDPデフレータ 生産面 イタリア}
(OECD統計データより)
図6がイタリアの産業別デフレータです。
イタリアはリーマンショック後経済が停滞気味ですね。
物価面でもそれが読み取れます。
不動産業、建設業など多くの産業で2009年以降物価上昇率が緩やかになっています。
それでも1997年からすると、直近で総合値で1.5倍程度には物価が上がっています。
製造業が年率1.5%程度で成長している事も印象的ですね。
情報通信業はやはり低下傾向です。
7. 韓国のGDP生産面のデフレータ
次は韓国のデータです。
図7 GDPデフレータ 生産面 韓国
(OECD統計データより)
図7が韓国の産業別デフレータです。
やはり公務・保健・教育、建設業、専門サービス業、その他サービス業の物価上昇率が高いですね。
年率3%以上で上昇しています。
工業は年率1%程度で堅調な物価上昇です。
情報通信業は値下がりしています。
概ねこれらの国々では以下のような傾向がありそうです。
① 公務・保健・教育、専門サービス業、建設業、その他サービス業の物価上昇率が比較的高い
② 一般サービス業の物価上昇率と総合値とは比較的近い水準で推移している
③ 工業は低成長ながらどの国でも上昇している
④ 農林水産業はどの国でも停滞気味
⑤ 情報通信業は物価が下がっている国が多い
8. 日本のGDP生産面のデフレータ
それでは、日本のグラフを見てみましょう。
図8 GDPデフレータ 生産面 日本
(OECD統計データより)
図8が日本のグラフです。
全体的に停滞していて良くわかりません。
図9 GDPデフレータ 生産面 日本
(OECD統計データより)
図9のように縦軸の範囲を変更しました。
他国と異なり全体的にマイナスから停滞気味です。
ただし、全体的に2010年代からやや上昇に転じているように見えます。
総合値(黒線)を挟んで、2極化しているようにも見えますね。
金融業が特殊な動きをしている事と、第一次産業が大きくマイナスから2015年から極端に増大しています。
建設業、公務・保健・教育、その他サービス業、一般サービス業がほぼ横ばいです。
一方で工業、専門サービス業、情報通信業が大きくマイナスです。
傾向として他国と異なるのが、専門サービス業と工業の物価が大きく下がっている事ではないでしょうか。
特に工業は日本でも最大の産業です。
その最大産業の物価=販売価格がマイナスになっているというのは、大きなインパクトがあると思います。
1997年に比べて、7割を下回る水準にまで値下がりしているわけですね。
GDPで見ても工業は1997年時点の140兆円ほどから直近で130兆円ほどに減少しています。
物価が下がっていますので、実質値ではその分GDPが上がっている事になりそうです。
販売価格は上げられず、むしろ安くして、その代わりたくさん作っているという状況ですね。
9. GDP生産面のデフレータの特徴
今回は、GDP生産面のデフレータについてご紹介しました。
情報通信業が低下しているのは各国共通の傾向のようです。
日本は情報通信業以外にも工業や農林水産業、専門サービス業なども低下していて、他の産業も横ばいかやや低下傾向です。
物価の変遷を見るだけでも、1990年代以降の日本の特異性が確認できますね。
実質で成長していても、名目で停滞しているという事は、より安く、たくさん作り売って、買っているという事になります。
確かに消費者からすれば、より多くのモノを購入できているのかもしれませんが、そのモノやサービスの品質はどうなっているのでしょうか?
「物価」や「実質値」はどこまで厳密な数値となっているのか、気になるところです。
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