096 実質的な支出は増えてる? - GDP支出面の実質変化

経済では金額を集計した名目値だけでなく、物価変動の影響を排除した数量的な変化となる実質値も重視されるようです。主要先進国のGDP支出面について実質変化を国際比較してみます。

1. GDP支出面の実質変化:アメリカ

前回は、G7各国の労働者数について1997年からの増減数をグラフ化してみました。
労働者が増えるアメリカやイギリスと、停滞傾向の強いフランスやドイツ、イタリア、高齢世代や女性の労働者を増やす日本という違いがありそうです。

今回は主要先進国について人口1人あたりの指標の国際比較をしてみたいと思います。
GDPやその構成項目の成長率を、人口の増減率と物価上昇率で除して、1人あたりの実質値の成長度合として改めて確認してみます。
1人あたりが実質的=数量的に豊かになっているのかどうか、より実際的な比較ができるのではないでしょうか。

アメリカ GDP 支出面 1人あたり 実質値

図1 アメリカ GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図1がアメリカ1人あたりGDPの実質値になります。
実質値を人口で割って1人あたりの数値とし、1997年の水準に対する倍率として表現しています。

青がGDP、赤が家計最終消費支出、緑が政府最終消費支出、オレンジが総資本形成、紫が輸出、水色が輸入です。
本来GDPには輸出と輸入の差額である純輸出が用いられますが、殆どの国でプラスマイナスが入り混じるため成長率を評価するには不向きですので輸出と輸入に分けています。

アメリカは1人あたりの実質成長率にすると、大分グラフの傾きが緩やかになりますね。
2008年のリーマンショックまではGDP、家計最終消費支出は年率2%程度の成長で、その後は1%程度の成長であることがわかると思います。

政府最終消費支出も近年では年率1%程度の成長です。
総資本形成は2009年頃から減少しています。

1997年の時点からすると、人口1人あたり実質1.2~1.4倍豊かになっていると言えます。
輸出や輸入も大きく増えているのも印象的です。

2. GDP支出面の実質変化:イギリス

続いてイギリスのデータです。

イギリス GDP 支出面 1人あたり 実質値

図2 イギリス GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図2がイギリスのグラフです。

アメリカにかなり似ていますね。
違いは政府最終消費支出もプラス成長が続いている事です。

GDP、家計最終消費支出もリーマンショックまでは年率2%弱、その後は年率1%強での成長です。
1997年の水準からは1.3倍程度に成長しています。

輸出、輸入も大きく増加していますね。

3. GDP支出面の実質変化:カナダ

次はカナダです。

カナダ GDP 支出面 1人あたり 実質値

図3 カナダ GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図3がカナダのグラフです。

カナダはアメリカやイギリスよりも家計消費の成長率が高いようです。
特徴的なのは、総資本形成の成長が大きく、輸出の伸びが小さい事ですね。

主に国内の経済活動で成長している国と言えそうです。
1人あたりの実質GDPは年率1%以上、1997年からの約20年間で1.3倍程度になっています。

これらのアメリカ、イギリス、カナダは、主要先進国の中でも人口の増加が大きく、経済成長率も比較的高い国です。
人口と物価の要素を除外しても、20年間で1.3倍程度に成長している事になります。

4. GDP支出面の実質変化:フランス

次はフランスです

フランス GDP 支出面 1人あたり 実質値

図4 フランス GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図4がフランスのグラフです。

1人あたり実質GDP、家計最終消費支出がほぼ同じくらいで推移しているのが特徴的ですね。
近年ではやはり年率1%程度の成長で、1997年からは1.2倍強となっています。

総資本形成が大きく増加しているのも特徴的です。
公共投資や設備投資を増やしている事が窺えます。

輸出入も大きく増大しています。
特に輸入の伸びが大きいのが特徴的です。

5. GDP支出面の実質変化:ドイツ

続いてドイツのデータを見てみましょう。

ドイツ GDP 支出面 1人あたり 実質値

図5 ドイツ GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図5がドイツのグラフです。
突出して輸出入の増加が大きいのが特徴ですね。
EU域内を中心とした貿易が活発化している様子が窺えます。

1人あたり実質GDP、家計最終消費支出、政府最終消費支出は増加が緩やかで年率1%前後の成長です。
GDPよりも家計最終消費支出の成長の方が緩やかであることも特徴的です。

ドイツは緊縮財政で有名ですが、政府消費や総資本形成は実質でも成長しています。
貿易が大きくふえっつ、国内への投資も増やして経済成長しているように見受けられます。

1997年時点と比較すると、1人あたり実質GDPは1.2倍強となっています。

6. GDP支出面の実質変化:イタリア

続いてイタリアです。

イタリア GDP 支出面 1人あたり 実質値

図6 イタリア GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図6がイタリアのグラフです。

明らかにリーマンショックで大きく変調している様子が見て取れます。
ただし、2001年ころから既に停滞傾向が続いていたようにも見えます。

総資本形成は2014年以降で増加傾向に転じています、消費やGDPも力強く回復していくのかもしれませんね。
変調がみられるイタリアですが、1997年からの変化で見ると、1.0倍強の成長と言えます。

7. GDP支出面の実質変化:日本

最後に日本のグラフを見てみましょう。

日本 GDP 支出面 1人あたり 実質値

図7 日本 GDP 支出面 1人あたり実質値
(OECD 統計データ より)

図7が日本のグラフです。

1人あたりGDPや家計消費は成長傾向ですが、イタリア以外の他国と比較すると低成長ですね。
1997年からの変化は1.2倍弱です。

総資本形成が1割ほど減って、政府最終消費支出が4割ほど増えています。
政府最終消費支出の多くは、医療費なども含む社会保障費ですね。
総資本形成がここまで減少している国は日本だけのようです。

それらと比べると輸出入の増大は大きいですね。

他国には及びませんが、日本も実質的な支出は増えていると言えそうです。
ただし、政府消費が増えている反面、投資は減っていますね。

8. GDP支出面の実質変化の特徴

今回はGDPとその支出側の構成項目について、人口1人あたりの実質値(倍率)についてご紹介しました。

他の主要先進国(イタリアを除く)は、人口増加や物価上昇という要素を除いても、年率1~2%という水準で支出が増えていると言えます。
1人1人の実質的な豊かさが、緩やかでも確実に増えているという事になります。

日本は物価が下がっている分だけ、家計の収入が減っていても実質的な消費支出が増えているようです。
名目値での消費はほぼ変化がありません。

むしろ収入が減っている分だけ、より安いものを求め、企業がそれに応えてより安く大量に供給した結果、物価が下がり実質的な消費も増えているようにも見受けられます。

実は光熱費や情報通信費、医療費など生活に必要な支出が増えている反面、外食・宿泊やレジャーなど生活を豊かにする支出は減っているという指摘もあるようです。

皆さんはどのように考えますか?

参考:家計最終消費支出の変化

(2023年12月追記)

家計最終消費支出 名目・実質 変化量

図8 家計最終消費支出 名目・実質 変化量

図8は日本の家計最終消費支出について、名目(横軸)と実質(縦軸)で1997年から2019年の変化量をプロットした散布図です。
バブルの大きさが名目値を表します。

住宅・電気・ガス水道はボリュームが大きく、かつ名目でも実質でも大きく増加しています。
情報・通信は名目でやや増えていますが、実質で大きく増加しています。
その他にも、個別ケア・社会保護、食料・非アルコール、保健・医療など、生活に必須の支出が増えているような印象ですね。

反対に、娯楽・スポーツ・文化、被服・履物、アルコール飲料・たばこ、外食・宿泊サービスなど、どちらかと言えば生活をより豊かにするための支出が減少しています。

教育サービスはほとんど増えていません。

絞れるところは絞り、必要な支出を増やしているといった行動変化があるように見受けられます。

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