150 政府の負債が多い日本 - 政府の純金融資産の国際比較

主要先進国においては、政府は純金融負債を増やす主体です。一方で、北欧諸国では純金融資産がプラスの国もあり、必ずしも負債を増やす主体ではありません。統計データでの国際比較により確認してみます。

1. 政府の1人あたり純金融資産の国際比較

前回は、家計企業政府金融機関海外の経済主体のうち、家計純金融資産(Financial net worth: 金融資産・負債差額)についてご紹介しました。
国民1人あたりで見ると、日本は現在のところ先進国の中でも家計が非常に高い水準の純金融資産を持っている「お金持ちの国」という事がわかりました。
ただし、労働者が低所得化していて高齢層に資産が偏っている状況から見ても、このままだと徐々に相対的な水準も低下していく事になりそうです

今回は、政府純金融資産(Financial net worth)について改めて見てみましょう。
以前はG7の数値をIMFのデータで眺めてみました。
 参考記事: 政府の負債は増えるもの?
 参考記事: 政府の負債はなぜ増える?

純金融資産(純金融負債)は、日本の経済統計では金融資産・負債差額と呼ばれます。
金融資産から負債を差し引いた差額となりますが、固定資産は含まれませんのでご注意ください。
固定資産を含めた正味の純資産は正味資産と呼ばれます。
純金融資産は、家計、企業、政府、金融機関、対家計民間非営利団体、海外の6つの主体全てを足し合わせると必ずゼロになります。

今回はOECDのデータで、政府の純金融資産を確認してきましょう。

政府 純金融資産 1人あたり

図1 政府 純金融資産 1人あたり
(OECD 統計データ より)

図1が政府純金融資産(1人あたり)です。
国民1人あたりのドル換算(為替レート換算)した数値となります。

資源大国ノルウェーは別格としても、フィンランドやスウェーデンなどの北欧諸国がプラスです。
また、経済成長著しい韓国や、ルクセンブルク、スイスなど所得水準の高い国もプラスです。

経済成長している国や、北欧のような高負担高福祉国家では、政府の純金融資産もプラスになることがあるという事がわかります。
必ずしも政府が負債の超過する主体ではない事になりますね。

ただし、多くの先進国ではマイナスです。
ドイツは近年では純金融負債が徐々に減っていますが、それでも純金融負債の残高としてはやや多い方に位置します。
G7では次いで、カナダ、フランス、イギリス、イタリア、日本、アメリカの順でマイナス水準が大きくなっていきます。

IMFのデータでは日本が断トツのワースト1だったのですが、OECDのデータだと下から2番目となります。
詳細は良くわかりませんが、集計している項目が異なるなどの理由があるのかもしれませんね。

日本だと人口1人あたり48,840ドルの純金融負債を政府が負っているという事になります。

2. 政府の1人あたり純金融資産の推移

時系列のデータもみてみましょう。

政府 純金融資産 1人あたり

図2 政府 純金融資産 推移
(OECD 統計データ より)

図2が主要国の純金融資産(1人あたり)の推移です。

参考までに、韓国とスウェーデン、スイスのグラフも入れてみました。
これらの国は、政府の純金融資産がプラスになっています。

G7の中ではアメリカが右肩下がりですが、日本、ドイツ、イギリスは若干純金融負債が減っています。
イタリア、フランス、イギリスは下げ止まって停滞しつつある印象です。

必ずしも政府の純金融負債が増え続けるものでもないようです。

もちろん為替レートによるドル換算値ですので、為替変動によるアップダウンがあります。

3. 政府の純金融資産の特徴

今回は政府の純金融資産についてフォーカスしてみました。
G7だけで比較すると、負債が増えていくのが当たり前で、どれだけ負債額が大きいかと言う事に注目しがちですが、北欧諸国などのように政府の純金融資産がプラスの国もあるわけですね。

家計の純金融資産を増やす代わりに、純金融負債を増やしている主体は誰かという部分が異なります。

どの国も家計の純金融資産は右肩上がりで増えています。
1国の経済においては、家計、企業、政府、金融機関、海外のうち、誰かの純金融資産は、別の誰かの純金融負債という事になります。
基本的に家計の純金融資産が増える一方で、純金融負債を増やす主体が存在するという事ですね。

金融資産・負債差額 日本

図3 金融資産・負債差額 ストック 日本
(日本銀行 資金循環統計 より)

図3が日本の各経済主体の純金融資産(金融資産・負債差額)のグラフです。
家計の純金融資産が増える一方で、純金融負債が同じだけ増えていて、それを企業、政府、海外で分担している様子がわかります。
1990年代まではほとんど企業が純金融負債を増やしていますが、それ以降は停滞し、その代わりに政府が純金融債を増やしている様子がわかります。

通常の先進国は主に企業が純金融負債を増やしています。
負債の中には、借入金や株式が含まれます。

例えば、ドイツは企業が純金融負債を増やしていますが、近年ではそれよりも海外が大きく純金融負債を増やしています。
企業が大きく純金融負債を増やす一方で、政府の純金融資産がプラスになる国もあります。
日本は企業が純金融負債を減らしていて、政府と海外が純金融負債を増やしているという関係性ですね。

少なくとも現在のところ、日本の経済の形は一般的な先進国とは少し異なっているという事は認識しておいた方が良さそうです。
特に1998~2010年頃のバランスの変化が特徴的で、これはバブル・バブル崩壊の調整時期が続いたと解釈できそうです。

2010年以降も企業が黒字主体であり続けている事も特徴的で、これは日本の企業が海外投資を増やしていて、海外からの投資が極端に少ない事を反映しているようです。

家計の純金融資産は増えてはいますが、増え方がかなり緩やかです。

経済主体ごとの経済活動のバランスが変化していく中、政府の役割も少しずつ変わっている事が窺える統計データではないでしょうか。

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・本ブログに用いられる統計データは政府やOECDなどの公的機関の公表しているデータを基にしています。
・統計データの整理には細心の注意を払っていますが、不整合やデータ違いなどの不具合が含まれる可能性がございます。
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・データに疑問点などがございましたら、元データ等をご確認いただきますようお願いいたします。
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