296 日本の時給は上がってる? - 産業別の時間あたり雇用者報酬

日本の平均時給の計算方法を確認し、産業別の平均時給を可視化してみます。時給で見ても情報通信業や金融保険業の水準が高い事が確認できます。

1. 平均時給とは

前回は主要先進国の平均給与の要因分解を行ってみました。
他国は給与総額が増え、労働者数や物価指数も増加していますが、実質の平均給与がプラスで推移しています。
日本はそもそも給与総額がアップダウンしていて、実質平均給与は横ばいのようです。

平均給与は年間の数値となります。
各国で平均労働時間も異なりますし、パートタイム労働者の存在を考慮する必要がありますね。
労働の対価を考える場合に、平均時給(労働時間あたり賃金)を考えた方が実際的な水準を比較しやすいと思います。

ここからは各国の平均時給についての比較をしていきたいと思います。
今回は、まず日本のデータを確認してみます。

OECDのデータ(National accounts, Gross domestic product)や日本のデータ(国民経済計算)では、GDPの分配面にて、労働者への分配となる賃金(Wages and salaries)が集計されています。
労働者への分配とされる雇用者報酬(Compensation of employees)は、賃金と雇主の社会負担(Employers' social contributions)を合わせたものになります。
実際に労働者に分配されるのは賃金の方ですね。

また、OECDのデータ(Population and employment by main activity)や国民経済計算では、産業ごとの雇用者の総労働時間が集計されています。
賃金(または雇用者報酬)の総額を総労働時間で割る事で、平均時給である労働時間あたりの賃金又は雇用者報酬を計算する事ができます。

具体的には次のように平均時給を計算できることになります。

平均時給 = 賃金・俸給 ÷ 総労働時間

労働時間あたり雇用者報酬 = 雇用者報酬 ÷ 総労働時間

2. 日本の平均時給

今回まずは、日本の平均時給に関するデータを確認する事から始めてみましょう。

平均時給 日本

図1 平均時給 日本
(OECD統計データ、内閣府 国民経済計算、 厚生労働省 毎月勤労統計調査 より)

図1は、OECDのデータ、内閣府の国民経済計算のデータ、厚生労働省の毎月勤労統計調査のデータから計算した平均時給の推移です。
OECDや国民経済計算のデータでは、次のように計算しています。

平均時給 = 賃金・俸給 ÷ 総労働時間

毎月勤労統計調査のデータでは、5人以上の事業所規模、就業形態計の集計範囲において、次のように計算しています。

平均時給 = 現金給与総額 ÷ 総実労働時間

現金給与総額は、所定外給与も含めた月額賃金の年平均値です。
総実労働時間は、所定外労働も含めた月間労働時間の年平均値です。

データ元は全く異なりますが、3つの指標ともかなり一致している事が確認できますね。
特に1994年以降のOECDのデータと国民経済計算のデータはほぼ完全に一致しています。

毎月勤労統計調査は5人以上の事業所規模となり、計測される産業も国民経済計算より少ないはずですが、かなり一致している事が確認できます。

日本の労働者の平均時給は、1990年代後半にピークとなり、いったん減少傾向が続きますが、2012年あたりから上昇傾向となります。
近年になってやっと1990年代後半の水準を超えたといった感じです。

1時間あたり2500円弱というのが、近年の日本の平均時給と言えそうです。

3. 産業別の平均時給

それでは、日本の産業別に見た平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)についても見てみましょう。

雇用者報酬は、私たち労働者が受け取る賃金に、企業側で負担する社会保険料など雇主の社会負担を加えたものです。
国際比較する場合にも、労働時間あたり雇用者報酬は平均時給に相応すると考えても差し支えないと思います。
企業側から見た場合の労働時間あたりの人件費とも言えますね。

労働時間あたり雇用者報酬 日本

図2 労働時間あたり雇用者報酬 産業別 日本
(OECD統計データより)

図2が日本の産業別に見た労働時間あたり雇用者報酬です。

やはり、情報通信業と金融保険業がかなり高い水準に達しているのがわかります。
これらの産業は労働生産性の高い産業でもあります。

また、工業は全産業平均値よりも高い水準ですがそれほど大きく上回っているわけではありません。
建設業は全産業平均値を下回る水準だったのが、近年では大きく上昇しています。

逆に公務・教育・保健は2000年代頃まで情報通信業や金融保険業と並んで高い水準だったのが、減少傾向が続いて近年では建設業や工業と同程度です。
公務・教育・保健は、パートタイム労働者が増えている分野でもありますね。

一般サービス業は労働者数の多い産業ですが、平均値をかなり下回ります。

全体的に2010年あたりから上昇傾向が見られます。

※ 本来であれば、産業ごとの平均時給を計算したかったのですが、日本の場合産業ごとの給与総額が公開されていないため労働時間あたり雇用者報酬としました。

4. 日本の平均時給の特徴

今回は日本の平均時給の推移についてご紹介しました。

どの産業で見ても1990年代後半をピークにしていったん減少傾向が続き、2010年ころから上昇傾向に転じている様子がわかります。
労働者数の増えている公務・教育・保健では減少傾向が続き、近年でも横ばい程度です。

日本の場合、一般労働者とパートタイム労働者で時給の水準も多く異なるのが特徴ですね。
近年パートタイム労働者が増える事で、平均時給も増加しにくい環境が続いているようです。

本来、同一労働同一賃金であれば、一般労働者もパートタイム労働者も時給レベルでは変わらないはずですが、日本ばかり働き方によって格差が大きいという課題もあるようです。

フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の時給比率

図3 フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の時給比率 2003年
(OECD, Taxing Wages 2005より)

図3は2003年とやや古いデータですが、他の先進国ではフルタイム労働者とパートタイム労働者の時給水準はそこまで大きく異なりませんが、日本だけ2倍以上の差がある事を示しています。

労働の質と対価についての転換が必要なのかもしれませんね。

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