205 日本の製造業の変化 - 規模別の従業者数・付加価値額

工業統計調査より、製造業の事業所規模別の変化を可視化してみます。小規模事業者程淘汰が進んでいるようです。

1. 事業所規模別の事業所数

前回は、主要国の産業別労働生産性平均時給についてご紹介しました。
年間の生産性(1人あたり付加価値)では、日本はドイツやフランスと比較してもそれほど見劣りしません。
一方で平均給与はかなり低いです。

また、日本はこれらの国と比べると平均労働時間が長いため、時間あたりの労働生産性や平均時給で見ると大きく差が開いているようです。
統計データには表れないサービス残業を加味すると、さらに著しく悪化する可能性もありますね。

日本の産業の中で、最も変化しているのが最大産業の製造業と言えます。
労働者数が減少しているのは他国と共通ですが、名目GDPが縮小し、実質GDPが増加するという歪な変化をしています。

今回は、工業統計調査のデータを基に日本の製造業で何が起こってきたのかを可視化してみたいと思います。

日本 製造業 事業所規模別 事業所数

図1 日本 製造業 事業所規模別 事業所数
(工業統計調査 より)

図1が事業所規模別の事業所数の変化です。
1998年と2020年の数値を比較しています。

各事業所規模で事業所数が減少傾向であることがわかります。
300~999人規模では微増です。

4~29人規模の事業所が31.9万事業所から13.6万に極端に減っていることが印象的です。
20年ちょっとで4割程度の水準にまで急減している事になります。
また、4名未満の事業所については統計がないのですが、それらの小規模事業所も大きく減少している可能性が高そうです。

当社も当事者として実感のあるところです。
合併や倒産ももちろん多いと思いますが、高齢の経営者が跡継ぎがいないために廃業するケースも非常に多いと思います。

2. 事業所規模別の従業者数

日本 製造業 事業所規模別 従業者数

図2 日本 製造業 事業所規模別 従業者数
(工業統計調査 より)

図2が事業所規模別の従業者数の比較です。

やはり各事業所規模で従業者数の減少がみられますが、4~29人規模の小規模事業所では320万人から166万人と約半分になっています。
30~99人規模でも減少人数が大きいですね。
小規模な事業所ほど人数も減り、淘汰が進んできたということがよくわかります。

合併等で大規模な事業所へと移行した企業も多くあると思いますが、全体的に従業者数が減っていますので「淘汰が進んだ」という方がより実態に近いと思います。
また、1000人以上の大規模な事業所でも従業者数が減っているのも象徴的です。

3. 事業所規模別の付加価値額

それでは、各事業所規模で産出する付加価値はどのような状況でしょうか。

日本 製造業 事業所規模別 付加価値額

図3 日本 製造業 事業所規模別 付加価値額
(工業統計調査 より)

図3が事業所規模別の付加価値額です。

やはり従業者数の減っている4~29人規模の小規模事業所では大きく付加価値が減っています。
1000人以上の大規模事業所でも付加価値額が減っているのも特徴です。

付加価値額の合計がGDPですね。
日本の国内製造業の経済規模そのものが縮小している状況を表していると思います。

時系列で見ると大企業ほど、付加価値のアップダウンが激しいため、切り取るタイミングによって増加しているようにも、減少しているようにも見える事には留意が必要です。

4. 事業所規模別の労働生産性

日本 製造業 事業所規模別 1人あたり付加価値

図4 日本 製造業 事業所規模別 1人あたり付加価値
(工業統計調査 より)

図4が事業所規模別の生産性を表す1人あたり付加価値の比較です。
1人あたり付加価値は、付加価値額÷従業者数で算出しています。

当然ですが、事業所規模が大きい方が1人あたり付加価値が高くなっていて、生産性が高いことがわかります。
4~29人規模が791万円に対して、1000人以上規模が1,930万円と2.5倍近くもの格差があります。

良く見てみると4~29人規模、30~99人規模、100~299人規模では1人あたり付加価値が高まっています。
淘汰が進み、生産性が高まっている様子がわかります。

一方で、300~999人規模、1000人以上規模では逆に1人あたり付加価値が低下しています。
規模が大きければ生産性が向上していくとは言い切れないようです。

5. 製造業の変化の特徴

日本の製造業では、小規模事業者は淘汰され、大規模事業者は比較的温存されていますが生産性が低下しています。
製造業全体としての変化も確認してみましょう。

日本 製造業 事業所数・従業者数・付加価値額・1人あたり付加価値

図5 日本 製造業 事業所数・従業者数・付加価値額・1人あたり付加価値 変化
(工業統計調査 より)

図5が製造業全体の事業所数従業者数付加価値額1人あたり付加価値です。
(個人事業や従業者数3名以下の事業所は含まれません)

左(青)が1998年、右(赤)が2020年になります。

1998年からの約20年の間に、主に小規模事業所を中心に事業所数は約半減し、労働者数も2割減っています。
付加価値額も1割以上減っている状況ですね。

同じ工業国であるドイツや韓国を始め、脱工業化を進めつつあるアメリカやイギリスなどでも工業の付加価値合計(GDP)は増加しています。
日本では最大産業である製造業が、このように経済規模が縮小してしまっているわけですね。

小規模な事業者ほど淘汰が進んでいる事になります。

産業全体で見た場合の生産性(1人あたり付加価値)は向上していますが、多くの雇用(従業者数約200万人)と仕事(付加価値約13兆円)が失われてしまっているとも言えます。
何より、小規模事業者が担ってきた経済の多様性そのものが極端に減ってしまっている事になります。

日本 GDP 生産面

図6 日本 GDP 生産面
(OECD統計データ より)

図6に示すように、日本の製造業(工業のほとんど)は最大産業です。
日本の工業のGDPは最近はやや増加傾向もみられるものの、1997年のピークから見ると目減りしてしまっています。
多くの産業で横ばいの中ではありますが、この工業のGDPが減少しているというのは異常事態とも言えます。

ドイツ GDP 生産面

図7 ドイツ GDP 生産面
(OECD統計データ より)

一方で、日本と同じく工業立国で、人口も停滞気味なドイツのグラフが図7です。
工業の規模が圧倒的に大きく、かつ大きく増加している様子がわかりますね。

日本では小規模事業者が淘汰され、多様性が失われるとともに、規模の経済でも成長できていないということが示されていると思います。

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