019 日本の中小企業は多すぎ!? - 企業数の国際比較
日本の中小企業は本当に多すぎるのか、人口比で見る事で国際比較してみます。
目 次
1. 企業数の国際比較
前回は、仕事の価値ともいえる労働生産性について統計データを確認してみました。
日本の労働生産性は、先進国の中では低い事がわかりました。
現在日本全体の生産性は、中小企業が多すぎるために伸び悩んでいるという意見もあるようです。
今までのブログで日本においては、中小企業の数が圧倒的に多く、こういった中小企業では付加価値を生み出す力や従業員に支払う給与水準も低いという事がわかりました。
参考記事: 日本は生産性が低いは本当?
もちろん、中には高付加価値な中小企業もたくさんあると思いますが、平均値で見れば大企業との差は歴然としています。
日本は中小企業の数が圧倒的に多く、統廃合が進んでいないため、非効率であるといった指摘も多いようです。
それでは、本当に日本の中小企業数は多すぎるのでしょうか。
今回は、OECDの統計調査をもとに、国際的に日本の企業数がどの程度の規模なのかを見ていきたいと思います。
図1 大企業数
(OECD統計データ より作成)
図2 中小企業数
(OECD統計データ より作成)
まず、図1と図2にそれぞれ大企業と中小企業の数をグラフ化しました。
出展は、OECDの公開しているデータベースのうち、Structural Business Statistics(ISIC Rev.4)です。
産業ごとの企業数が集計されていますが、金融・保険業、農林水産業、公務・教育・保健などを除いた一般産業の企業となるようです。
この統計では従業員数1~249人を中小企業(SMEs)、250人以上を大企業としています。
OECDの注記を見ると、日本のデータは経済センサスを出典としているそうです。
この企業の分類には、Business Statistics by Employment Size Classと記載されていることから、個人事業者も含まれると考えられます。
OECDでは、企業に雇われている雇用者をEmployees、個人事業者をSelf-employedとしていて、両者を合わせた労働者数をEmploymentと表現しています。
大企業数も中小企業数も、いずれもアメリカが一番多く、日本も上位に位置しています。
G7各国も高水準です。
アメリカでは大企業が2万6000社、中小企業が421万5000社にもあります。
日本は大企業が1万1000社、中小企業が280万3000社です。
ちなみに、経済センサス 基礎調査によると、日本の全産業の企業等数は410万社との事です。
参考記事: 日本の企業数
2. 人口あたり企業数の国際比較
各国の企業数が分かっても、それぞれの国の人口や経済規模は異なります。
人口あたりの企業数を見た方が、相対的な比較ができるのではないでしょうか。
図3 人口
(OECD統計データ より作成)
まず、各国の2017年時点での人口を図3に示します。
やはり、アメリカ、日本を始めG7各国の水準が高いですね。
先に見た企業数をこの人口で割って、並べ替えてみましょう。
図4 大企業数の対人口比率
(OECD統計データ より作成)
図5 中小企業数の対人口比率
(OECD統計データ より作成)
図4、5はそれぞれ各国の人口100万人あたりの大企業、中小企業の数となります。
人口に対する比率で考えると、アメリカ、日本の水準はかなり低くなりますね。
アメリカは人口100万人当たり大企業が80社(36か国中29番目)、中小企業が1万3000社程度(同36番目)です。
日本は人口100万人あたり大企業が87社(36か国中25番目)、中小企業が2万2000社程度(同33番目)です。
興味深いのは大企業数の人口比率では、ドイツが高い水準(147社、4番目)です。
逆に、中小企業の人口比率ではイタリアが比較的高い水準(6万1000社、11番目)に位置します。
ドイツは大企業に集約され合理化が進んでいる印象ですね。
イタリアは中小企業が乱立しているという状況でしょうか。
イタリアは個人事業者が多い事でも知られていますので、その影響も大きいかもしれません。
日本の場合、仮に全産業の企業等数(個人事業も含む)の410万社を当てはめたとしても、100万人あたり3.2万社ほどです。
それでもイギリスやドイツと同程度という事になります。
日本、アメリカは絶対数では多くの企業数となりますが、人口比率で考えれば必ずしも多くないという事がわかりました。
少なくとも日本だけ中小企業の数が多すぎるというわけではなさそうです。
補足:
人口ではなく、生産年齢人口や労働者数で割るべきというご意見もいただきます。
まず日本の場合は働く高齢者が多いため生産年齢人口で割ると、この高齢労働者を無視する事になります。
また、あまり意識されていないようですが日本は高齢化と共に少子化も進んでいますので、生産年齢人口比率は他国とそこまで大きく変わりません。
2018年の20~64歳の人口比率は、日本で54%、フランスで55%、アメリカで59%、ドイツで60%などです。
労働者数で割るという事も大変意義深いと思います。
日本は先述した通り高齢労働者も多く、就業率も高いため、労働者で割った数値の方が他国よりも低くなります。
今回は上記理由に加え、まずはわかりやすさを重視して対人口比としています。
3. 企業規模別労働者数シェアの国際比較
また、企業数だけでなく、中小規模で働く労働者のシェアもそれほど高いわけではないようです。
参考記事: 中小企業労働者は多すぎる?
図6 企業規模別労働者数シェア 2019年
(OECD統計データより)
図6は企業規模別に見た労働者数のシェアを国際比較したグラフです。
1~9人の小規模企業のシェアが高い順に並べています。
日本は後述するように2種類のデータがありますが、いずれでも先進国の中で小規模企業の労働者数シェアが高いわけではありません。
韓国やイタリアの方が余程シェアが高い事が良くわかりますね。
個人事業者も含めた統計なので、このような結果となるようです。
日本は雇用者数(Number of employees、日本2)と労働者数(Total employment、日本1)での数値となります。
本来、雇用者数の方が小規模事業者のシェアは小さくなるはずなのですが、日本の場合は雇用者数の方が大きくなるという不可解なデータセットとなっているので、両方とも掲載しています。
労働者数(日本1)で見ると、日本の小規模企業に勤める労働者の割合はアメリカに次いで低い水準という事になります。
アメリカ、カナダは雇用者数のみだったので参考程度となります。
※ 補足情報
2024年7月26日に、総務省統計局 事業所情報管理課に問い合わせたところ、次のような回答を得ました。
「OECDのStructural Business Statisticsに掲載されているTotal employmentには経済センサスにおける常用雇用者数が、Number of employeesには従業者数が割り当てられている」との事です。
OECDの定義では、上述の通りTotal employment = Employees + Self-employedです。
日本の統計における従業者や就業者は、個人事業者も含めた全労働者を意味しますので、OECDにおける労働者に相当します。
常用雇用者は、事業所に常時雇用されている人を意味しますので、OECDにおける雇用者に相当するはずです。
本来は、Total employmentに従業者数が、Number of employeesには常用雇用者数が割り当てられるべきと考えます。
この旨もお伝えしましたが、どの項目にどの指標を割り当てるかは、OECD側で判断しているとの事でした。
4. 中小企業比率の国際比較
企業全体に対する中小企業の割合についても見てみましょう。
図7 中小企業比率
(OECD統計データより作成)
図7は各国の中小企業の占める割合をグラフ化したものです。
最低のスイスで99.2%、最高のギリシャで99.9%で、各国とも圧倒的多数は中小企業であることがわかります。
日本は99.6%で割合はむしろ小さい方のようです。
5. 中小企業数の特徴
今回は、中小企業の数についてご紹介しました。
昨今では生産性の低い中小企業が多く、日本経済の足を引っ張っていると取り沙汰されることも多いと思います。
しかし、他国と比較してみると、日本は決して中小企業が多すぎるわけではないようです。
中小企業を統廃合して淘汰していく事が、必ずしも日本経済復活の解決策になるわけではなさそうです。
課題なのは中小企業の数そのものが多い事よりも、生産性や給与水準の低い中小企業が相対的に多い事ではないでしょうか。
つまり、中小企業の淘汰ではなく、それぞれの企業で労働生産性と給与を上げていく事が大切なのだと思います。
労働生産性は、労働者が一定期間に稼ぐ付加価値ですね。
規模を拡大して安いものをたくさん作るばかりでなく、それぞれの適正な規模でより高い付加価値を生み出していく方向性も必要と思います。
そして、消費者でもある労働者の給与も、生産性の向上に伴って上げていく事が重要ですね。
皆さんはどのように考えますか?
補足:日本の中小企業数
本記事は大変多くの皆様にお読みいただき、大きな反響をいただいております。
その中で、OECDのデータでは、日本の中小企業数が280万社としている事へのお問合せをいただきましたので、補足いたします。
今回のデータは、OECDデータベースのうちStructural Business Statistics(ISIC Rev.4)です。
対象となる産業は05_82_LESS_K となります。
国際標準産業分類(ISIC REV.4)のうち、下記の産業を除外した範囲という事になります。
01-03 農林漁業(A)
64-66 金融・保険業(K)
84 公務及び国防、強制社会保障事業(O)
85 教育(P)
86-88 保健衛生及び社会事業(Q)
90-93 芸術、娯楽、レクリエーション業
94-96 その他のサービス業
各国の企業数を比較するにあたって、対象とする範囲を明確にし基準を揃えているようです。
OECDデータのうち、日本のデータの出典は総務省統計局の経済センサスとなります。
「Data for 2011, 2015 and 2016 are sourced from the Economic Census of Business」
経済センサスでは従業員数の規模別、産業別に企業数が集計されています。
図8日本 企業等数 2014年
(平成26年経済センサス 基礎調査 より)
具体的なデータをグラフ化したものが図8です。
2014年と少し古いですが、概ね傾向は確認できると思います。
このデータを見ると、全産業の企業等数は410万社ほどです。
このうち従業員規模が300人未満の企業等数は408.1万社です。
次に、OECDのStructural Business Statisticsで対象としている範囲は、図7の青線から左の範囲と想定されます。
この範囲の企業等数は296.9万社で、このうち300人未満の企業等数は295.8万社となります。
OECDの中小企業の定義が250人未満であることと、年度が2014年と2016年の違いがあることから、OECDデータでの日本の中小企業数(05_82_LESS_K)が280万社というのは経済センサスのデータと合致するものと考えます。
参考: 企業数の対労働者数比
「日本は高齢化が進んでいるのだから、対人口比ではなく対労働者数で見るべき」というご意見をいただく事があります。
ご参考までに、対労働者数比の中小企業数のグラフをご紹介します。
図9 中小企業数 対労働者数比 100万人あたり 2017年
(OECD統計データより)
日本は労働者100万人あたり一般産業の中小企業が4.2万社存在するという事になります。
フランスの9.8万社の半分未満、イギリスやドイツとも随分と差があるようです。
日本は高齢化も進んでいますが少子化も進んでいます。
更に高齢労働者が多く、全体の就業率も高いため、対労働者比で見るとむしろ相対的な水準は低くなるように見受けられます。
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・万一データ不具合等お気づきになられましたら、「お問合せフォーム」などでご指摘賜れれば幸いです。
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