071 海外という特異な経済主体 - 日本への負債を増やす存在

1. 海外=投資先という実態

前回は、日本銀行の資金循環統計の中で家計、企業(非金融法人企業)、金融機関、政府、海外の経済主体のうち、政府についての金融資産、負債及びその正味の金融資産・負債差額について取り上げました。
※当ブログでは、金融資産・負債差額を純金融資産(プラスの場合)、純金融負債(マイナスの場合)と呼びます。

政府は、株式や対外証券投資で金融資産を増やしつつ、国債等を発行して負債を増やす存在であることがわかりました。
本来負債を増やす主体の企業が、日本では増やしていません。
家計の純金融資産が増え続けている以上、それ以外の主体で負債を増やす必要があります。
その1つが、政府ということですね。

今回は日本経済でもう1つ負債を増やしている海外について取り上げてみたいと思います。
国内が家計や、企業、政府、金融機関と経済主体が別れているのに対して、海外はまるっと一括りです。

詳細に分けてもわかりにくくなるだけだと思うので、私のようにざっくり状況を知りたい人間にとっては都合が良いかもしれません。
いったい私たち日本にとって、海外という経済主体はどのような存在なのでしょうか。

金融資産・負債 海外

図1 海外 金融資産・負債 積上
(日本銀行 資金循環統計 より)

図1が海外の金融資産と負債の積上げグラフです。

金融資産がプラス(青系)、負債がマイナス(赤系)で描かれています。
金融資産と負債の差し引きである金融資産・負債差額を黒い折れ線で表現してあります。

このグラフはあくまでも海外目線で描かれたものです。
つまり、海外の金融資産(このグラフのプラス側)は日本にとっての負債、海外の負債(マイナス側)は日本にとっての金融資産です。

何度かのアップダウンはありますが、基本的にに資産も負債も増加傾向が続いている状況です。
総額で見ると、金融資産よりも負債の方が増えていて、資産・負債差額はマイナス側で増大しています。

海外の負債が増えているという事は、日本国内からすれば金融資産が増えているという事ですね。
直近の2018年では、海外の金融資産は701兆円、負債は1,060兆円で、金融資産・負債差額はマイナス359兆円となります。

日本全体として、海外に359兆円もの純金融資産を持っているという事ですね。
詳細項目についても見てみましょう。

2. 対外証券投資の著しい増大

金融資産・負債 海外

図2 海外 金融資産・負債 詳細
(日本銀行 資金循環統計 より)

図2がそれぞれの詳細項目のグラフです。

海外の資産側では、貸出債務証券株式等が増えています。

直近では、貸出は189兆円、債務証券は180兆円、株式等は218兆円です。
これらは海外の資産なので、日本の家計や企業、政府の海外に対する負債という事になります。

海外の負債側では、貸出対外直接投資対外証券投資が増大しています。
直近では、負債側の貸出は159兆円でおおむね資産側を相殺しています。
対外直接投資は176兆円、対外証券投資は602兆円です。
対外証券投資が最大の項目となっていて、しかも増大の幅が大きいですね。

対外直接投資とは、居住者企業による非居住者企業の持分取得のうち、非居住者企業の支配を目的とするものである。」
(資金循環統計 より)

対外証券投資とは、居住者による、非居住者が発行した株式・債権・外国籍投資信託への投資である。対外直接投資が支配を目的とするのと異なり、利殖(資産運用)あるいは外貨建ての資産保有を目的とするものである。
(資金循環統計 より)

ちょっと小難しい表現が続いてわかりにくいのですが、要するに対外直接投資は外国の企業の永続的な支配を目的とした投資ですね。
日本企業が海外に工場を建てる等の海外展開における現地法人の株式等が該当するようです。

それに対して対外証券投資は、配当金や株式の売却益を期待しての投資などで、あくまでも資産運用の一環として行われるものですね。

海外の資産項目の株式等は、海外から見た対外証券投資と対外直接投資を合わせた数値と言えそうです。
差し引きで560兆円ほど海外の負債(国内の資産)が多い計算になります。

海外の負債項目の対外直接投資と、対外証券投資の国内経済主体の持分についてもう少し見てみましょう。

日本 金融資産 対外直接投資・対外証券投資

図3 日本 経済主体別 金融資産 対外直接投資・対外証券投資
(日本銀行 資金循環統計 より)

図3が経済主体別に見た日本の対外直接投資と対外証券投資のグラフです。

対外直接投資は176兆円のうち、企業が140兆円、金融機関が36兆円です。
対外証券投資は602兆円のうち、家計が20兆円、企業が22兆円、政府が211兆円、金融機関が349兆円となります。

対外直接投資は企業が多く、対外証券投資は政府や金融機関が多いという事ですね。
家計はせいぜい対外証券投資で20兆円程度と、全体の中では微小です。

日本にとっての海外とは、現在のところ差引をすれば投資をする対象であり、国内の経済主体の代わりに負債を増やす存在となっているようです。
日本国内では一般国民の低所得化が進む一方で、企業や金融機関は海外に投資して金融資産を増やしているという状況です。

「日本国内では人口も減少しているし、市場も縮小するから海外に活路を求めよう」という話をよく聞きますが、それが自己実現的に国内の窮乏を促進しているようにも見えます。

皆さんはどのように考えますか?

参考:上場企業株式の持ち株比率

(2023年11月追記)

日本 上場企業

図4 日本 上場企業 投資部門別 株式保有比率
(日本取引所グループ 株式分布状況調査より)

図4は、日本の上場企業について、投資部門別の株式保有比率を表したものです。

個人・その他(青)や、事業法人等(赤)、金融機関(紫)などの国内主体の割合は一時期より減少していて、海外(橙)の割合が上昇しています。

近年では30%に達していて、国内上場企業の3分の1程は海外が保有している事になります。

これは今回の統計データでいえば、海外という経済主体の日本に対する金融資産のうち株式等に該当するわけですね。

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