289 臨時労働者の雇用保護 - 日本の有期・派遣契約の特徴

1. 臨時労働者の雇用保護

前回は、OECD各国の雇用保護について、一般労働者集団・大量解雇についての指数と、個別解雇との総合指数をご紹介しました。
日本はいずれの場合も、雇用保護は相対的に弱い国として評価されています。

前回までは一般労働者(Regular worker)の指数についてご紹介してきましたので、今回は臨時労働者(Temporary worker)についての雇用保護指標をご紹介します。
今回参考にするのも、OECD Employment Outlook 2020です。

臨時労働者は、有期契約(Fixed-term contracts)と派遣契約(Temporary work agency contracts)に大別されて評価されています。

一般的に企業にとっては、臨時契約を更新しないよりは、一般労働者を解雇する方が困難とされています。
企業による臨時契約の過剰使用の可能性に対抗するために、政府は通常臨時契約の使用を制限する事になります。
臨時労働者の雇用保護の度合いは、一般労働者の雇用保護の度合いと強く関係しているようです。

臨時労働者の雇用保護指標は次のような区分で集計されています。

表1 臨時労働者の解雇に関する雇用保護指標

区分詳細内容
有期契約
(Fixed-term contracts)
有期契約締結の範囲 (Valid cases for use of fixed-term contracts)
有期契約の連続契約数の上限 (Maximum number of successive fixed-term contracts)
有期契約の連続契約期間の上限(Maximum cumulated duration of successive fixed-term contracts)
派遣契約
(Temporary work agency contracts)
派遣労働が合法な仕事の種類 (Types of work for which temporary work agency employment is legal)
派遣契約の更新回数制限 (Restrictions on number of renewals of temporary work agency contracts)
派遣契約の累計期間の上限 (Maximum cumulated duration of temporary work agency contracts)
認可・報告義務 (Authorisation and reporting obligations)
一般労働者との均等待遇 (Equal treatment of regular and agency workers at the user firm)

2. 有期契約についての雇用保護指標

まず有期契約についての雇用保護指標がどのように設定されているのかをご紹介します。

詳細項目内容スコア
有期契約締結の範囲0: 有期契約に関する制限はない0~6の範囲となるように、2倍される
1: 労働者と雇主の両側で適用除外がある
2: 労働者(初めての仕事を探している場合など)や、雇用主(新規事業を始めた場合)などにおいて特定の適用除外がある
3: 固定期間の仕事を遂行するために、客観的な理由があり、重大な事態の場合のみ許可される
詳細項目内容0123456
有期契約の連続契約数の上限回数制限なし≧5≧4≧3≧2≧1.5<1.5
詳細項目内容0123456
有期契約の連続契約期間の上限期間 単位:[ヶ月]制限なし≧36≧30≧24≧18≧12<12

OECDの調査によれば、日本は上記の項目について、以下のように評価されているようです。

有期契約締結の範囲
客観的な理由を特定せずに、3 年以下の有期契約が広く可能。
高度なスキルを持つ従業員または60歳以上の従業員の場合、契約は5年間となる場合がある。

有期契約の連続契約数の上限
更新回数に関して法的な制限は指定されていない。
更新を繰り返した後は、従業員は契約の更新を期待する権利が生じ、雇用主は更新を拒否する正当な理由がなければならない。

有期契約の連続契約期間の上限
累積期間に制限はない。 ただし、5年以上の有期契約を締結している労働者については、無期契約への転換が認められている。

3. 派遣契約についての雇用保護指標

続いて派遣契約についての雇用保護指標の設定です。

詳細項目内容スコア
派遣労働が合法な仕事の種類0: 制限なし又は最小限の制約で許可されている0~6の範囲となるように、6/4倍される
1: 特定の例外を除き原則的に許可されている
2: 客観的な理由がある場合にのみ許可されている
3: 特定の産業でのみ許可されている
4: 派遣会社での雇用は違法である
詳細項目内容0123456
派遣契約の更新回数制限派遣契約の更新回数に制限があるか--No-Yes--
詳細項目内容0123456
派遣契約の累計期間の上限期間 単位:[ヶ月]制限なし≧36≧24≧18≧12>6≦6
詳細項目内容スコア
認可・報告義務0: 認可・報告義務は要求されない0~6の範囲となるように、2倍される
1: 特定の認可が要求される
2: 定期的な報告義務が要求される
3: 認可と報告義務の両方が要求される
詳細項目内容スコア
一般労働者との均等待遇0: 均等待遇への要求はない0~3の範囲となるように、2倍される
1: 給与又は労働条件で均等待遇が要求される
2: 給与と労働条件で均等待遇が要求される

OECDの調査によれば、日本は上記の項目について、以下のように評価されているようです。

派遣労働が合法な仕事の種類
派遣会社(Dispatching agency)は、港湾運送業務、建設工事、警備業務、病院の医療関連業務などを除くすべての職種に認められている。

派遣契約の更新回数制限
制限はない

派遣契約の累計期間の上限
同一企業への派遣期間は原則として最長3年となる。
受入企業が 3 年の制限を超えて別の割り当てを希望する場合は、従業員の過半数の代表者または労働組合と相談する必要がある。
同じ労働者が同じ受入企業の同じ組織単位 (部門や部門など) に割り当てられる最長期間は 3 年。

認可・報告義務
派遣会社の設置には厚生労働省の許可または届出が必要。
派遣会社 は設立後、年に 1 回、その運営状況等を報告することが義務付けられている。

一般労働者との均等待遇
派遣労働者の労働条件の確保は、労働保護に関する法律の一部を派遣労働者の雇用主に適用し、派遣労働者の責任を分担することにより確保されている。
改正労働者派遣法(2012年)では、派遣事業主は、賃金、教育訓練を受ける権利、福利厚生等を設定する際には、派遣先から直接雇用され、同種の業務に従事する労働者の状況を考慮しなければならないと規定されており、 顧客は、派遣事業者からの求めに応じて、必要な情報を提供するよう努めなければならない。

4. 臨時労働者の雇用保護の国際比較

OECDによる、各国の臨時労働者についての雇用保護指標を比較してみましょう。

雇用保護指標 臨時労働者 2019年

図1 雇用保護指標 臨時労働者 2019年
(OECD統計データより)

図1がOECD各国における臨時労働者雇用保護指標です。

基本的には一般労働者の雇用保護指標に近い状況のようです。

日本は有期契約が0.25で低めの水準、派遣契約も1.13でやや低い水準です。
総合値では1.38で、OECD平均(2.09)よりもかなり低く、イタリア(3.83)、フランス(313)、韓国(2.54)、ドイツ(1.92)などよりも低いようです。
一方で、日本よりも低いイギリス(0.54)、アメリカ(0.33)、カナダ(0.28)の3国は極端に低くワースト3を独占しています。

日本は臨時労働者についても雇用保護の緩い国と言えそうですね。

5. 臨時労働者の雇用保護の特徴

今回は臨時労働者雇用保護についてご紹介しました。
日本は2000年代に製造業への派遣労働も解禁され、臨時労働者を増やしていく方向性が強まってきた印象ですね。

雇用保護の観点からはこれらの臨時労働者への制約を強める考えの国々も多いようです。

日本では、1980年代以来非正規雇用が増えてきました。
現役世代のパートタイム雇用率も、近年では男性も女性もかなり高い水準に達していますね。
参考記事:非正規労働ばかり増える日本
参考記事:日本はパートタイムが多い?

雇用環境については、イタリア、フランス、ドイツとアメリカ、カナダ、イギリスで対照的です。
日本はかなり雇用保護が弱い環境であり、アメリカやイギリスにかなり近い状況のようです。

日本は雇用保護が厳しく、雇用の流動性が低いなどともいわれます。
確かにアメリカと比べれば雇用保護は厳しいのかもしれません。
特に不当解雇に関する規制は厳しい方だということもわかりました。
一方で、他の先進国の多くの国々と比べると、総合的にはかなり緩いという事になります。

労働者の生活の安定や、企業の雇用に関するリスクを減らす上でも、雇用保護は重要な観点と思います。
日本の雇用保護がどうあるべきなのか、意見の分かれるところかもしれませんね。

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