131 日本の特殊な住宅事情? - 住宅費用の推定と物価
日本の住宅投資は減少しています。1戸あたりの住宅費用を推定してみると、長期間停滞傾向であることがわかりますので、住宅投資の減少は新設住宅戸数の減少と関係が深い事がわかります。
1. 新設住宅戸数と住宅投資
前回は、新設住宅の戸数や床面積について取り上げました。
日本では、新設住宅戸数や平均床面積は年々減少しています。
果たしてこれは、他の先進国でも同じような状況なのでしょうか。
今回は、住宅にかける支出を見る事で、日本と他の先進国の何が異なるのかを詳細に見ていきたいと思います。
GDPの支出面の中で、総固定資本形成のうち住宅(Dwelling)という項目があります。
まずは、日本の総固定資本形成 住宅の金額と、新設住宅の戸数について関係を確認してみましょう。
図1 総固定資本形成 住宅 vs 新設住宅 戸数
(国民経済計算及び建築着工統計調査 より)
図1が、総固定資本形成 住宅の金額と、新設住宅の戸数を一つのグラフにまとめたものです。
新設住宅の戸数も、住宅の合計支出も1997年のピークからは右肩下がりで落ち込んでいます。
総固定資本形成 住宅の数値は、内閣府の国民経済計算から、新設住宅の数値は建築着工統計調査からと、まったく別の統計データを重ねています。
1992年あたりまではある程度連動していますが、1992年以降はぴったりと一致しているように見えます。
(見えるようにスケール調整しました)
当然昔に遡るほど程物価が違いますので、開きがあって当然なのですが、むしろ1992年以降がピタリと一致しているところが興味深いです。
1戸あたりの建築費用が30年程変化していないことを示していると思います。
2. 1戸あたり住宅費用の推定
具体的に1戸あたりの住宅費用を推定してみましょう。
図2 1戸あたり住宅費用
図2が、1戸あたりの住宅費用の推定値です。
総固定資本形成 住宅の金額を新設住宅戸数で割った数値となります。
バブル崩壊以降、1戸あたり1,800万円程度で停滞しているように見えますね。
長期にわたって相場が変わらないのも興味深い傾向です。
試みに、黒い線で消費者物価指数(コアコアCPI)を重ねてみましたが、かなり相関が高そうです。
3. 住宅投資の国際比較
日本の住宅事情はよく分かりましたが、このように住宅の建設が落ち込んでいるのは、日本だけの事情なのでしょうか?
他国の状況とも比較してみましょう。
図3 総固定資本形成 住宅 1人あたり 成長率
(OECD 統計データ より)
図3は、主要先進国の総固定資本形成 住宅の成長度合いを比較したグラフです。
人口1人あたりの名目値で1995年を1.0した場合の倍率として表現しています。
もちろん物価水準の違いや、建築工法などの違いもありますので、厳密な比較はできませんが各国で住宅に支払う金額の変化を比較できると思います。
カナダ(ピンク)やイギリス(水色)、韓国(茶)は3倍以上、アメリカ(赤)やフランス(紫)は2倍前後、ドイツ(緑)やイタリア(橙)は3~4割アップと言った状況ですね。
アメリカは恐らくサブプライムローン問題の影響でしょうか、2009~2010年を底にして一旦大きく減少してから、再度上昇傾向です。
よく見ると、イギリスや韓国、カナダ、イタリアも同じくらいのタイミングで落ち込みが見られます。
リーマンショックの影響はこんなところでも確認できますね。
イタリアはその後更に大きく落ち込んで2015年頃を底にして、上昇傾向に転じています。
ドイツはずっとマイナスが続いていましたが、2010年ころからプラスに転じています。
各国とも推移は様々ですが、直近では1995年の時の水準に対して大きく増大しているようです。
金額ベースで考えても、住宅への支出が半分近くまで減っているのは、やはり日本(青)だけのようです。
4. 日本の住宅投資の特徴
今回は、日本の住宅について、1戸あたりの住宅費用と、住宅への投資の国際比較をしてみました。
日本は国内物価の停滞と連動して、1戸あたりの住宅費用も停滞が続いているようです。
一方で、新設住宅戸数が減る事で、合計の住宅投資が減少しているという事になります。
他の主要先進国では住宅投資が増えている中で、日本ばかりが減少しています。
日本は少子高齢化も進んでいて、適齢期の人口が減少している事も考えられますが、程度の差こそあれ他国も同様の事情があるはずです。
住宅の新設は、結婚をしたり、子供が生まれたりする事と関係が深いですね。
結婚は、経済的な事情であきらめる人も増えたという統計データもあります。
日本では一時期よりも労働者が低所得化しました。
新設住宅の減少は、このような経済事情の変化も反映しているのかもしれません。
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