212 過去の資産が多いだけの日本? - 家計の金融資産の国際比較
日本の家計は先進国の中でも金融資産を多く持っているようです。平均給与が目減りする中でも、金融資産が増加し続けている特徴もあるようです。
目 次
1. 日本の家計の金融資産
前回は家計の純金融資産について、各国比較をしてみました。
1人あたりの数値で見ると、日本は1990年代に極めて高い水準に達しました。
その後緩やかに成長しつつも、アメリカや他国の成長が高く相対的な順位は低下しています。
前回ご紹介した純金融資産(金融資産・負債差額)は、金融資産から負債を差し引いた正味の金額です。
それでは、日本の金融資産の水準はどの程度なのでしょうか?
今回からもう少し家計の金融資産や負債の詳細を見ていきたいと思います。
金融資産は現金・預金、株式等、年金・保険などから構成されますが、今回はまず総額から見ていきましょう。
図1 金融資産 家計 日本
(OECD統計データより)
図1が日本の家計の金融資産の推移です。
2000年ころからリーマンショックまでやや停滞気味の時期もありますが、長期で見ると増加傾向が続いているように見えます。
特にリーマンショック後も順調に増加傾向が続いているのは意外と思われる方も多いのではないでしょうか。
家計の金融資産は増え続けているという事は重要な事実と思います。
2. 家計の金融資産の推移
続いて、家計の金融資産について、ドル換算値の国際比較をしてみましょう。
図2 家計 金融資産
(OECD統計データ より)
図2は家計の金融資産の推移です。
純金融資産と同じように、アメリカが圧倒的に存在感があり、さらに大きく増加しています。
日本もアメリカに次ぐ水準ですが、増加傾向はかなり緩やかですね。
2020年ではアメリカは105兆ドル、日本は20兆ドルで、約5倍の差があります。
意外にも、日本の次にドイツではなくイギリスが多いようです。
3. 家計の1人あたり金融資産の推移
次に人口1人あたりの数値で比較してみましょう。
図3 家計 金融資産 1人あたり
(OECD統計データ より)
図3が人口1人あたりの家計の金融資産です。
やはり日本は1990年代にアメリカを抜き非常に高い水準に達していますが、その後緩やかな増加となっています。
2000年代から、カナダとイギリスに抜かれています。
G7ではアメリカが圧倒的ですがカナダ、イギリスも相応の水準で、近年では日本を上回ります。
アメリカは人口1人あたり28万ドル、日本は14万ドル程度で約2倍の開きがありそうです。
フランスやドイツ、イタリアは同じくらいの水準ですが、少しずつ日本との差が縮まっているようにも見えます。
4. 家計の1人あたり金融資産の国際比較:1997年
続いて、1997年(日本経済のピークの年)と、2019年(直近)での数値を比較してみましょう。
図4 家計 金融資産 1人あたり 1997年
(OECD統計データ より)
図4が1997年の数値が高い順に各国を並べたグラフです。
当時は円高だった事もありますが、日本はアメリカに次いで2番目の高水準です。
アメリカが10.3万ドル、日本が8.6万ドル、OECDの平均値が3.5万ドルです。
日本は平均値の2倍以上の水準で、まさにお金持ちの国だったことが窺えます。
5. 家計の1人あたり金融資産の国際比較:2019年
続いて2019年の国際比較です。
図5 家計 金融資産 1人あたり 2019年
(OECD統計データ より)
図5が直近の2019年のグラフです。
日本は13.6万ドルで1997年よりも1.5倍程度には増えていますが、アメリカとの差が大きく開いています。
また、OECDの平均値が9.7万ドルですので、平均値との差もかなり縮まっていることがわかりますね。
イギリスとほぼ同水準で、36か国中11位にまで順位を下げています。
ドイツやフランスとは、1997年の時点では倍以上の差があったわけですが、2019年には1.5倍弱にまで差が縮まっています。
日本は一昔前(主にバブル期)に家計の金融資産が大きく増加しましたが、その後の伸びが緩やかなうちに、他国は大きく成長しています。
過去に積み上げた資産の水準が高かったため、現在も平均値以上をキープできている状況ともいえるのかもしれません。
図4は総額を人口で割っていますので、国民平均の金融資産ではありますが、日本の場合は貯蓄の7割は高齢層に偏っているなどの世代間、世代内の資産格差もあります。
現在の高齢者がかつて労働者だった頃に積み上げた金融資産が多く、その後の世代が積み上げる金融資産が徐々に減ってきているとも解釈できそうです。
6. 家計の金融資産の増加度合
次に、自国通貨ベースで見た場合の、成長度合を比較してみましょう。
図6 家計 金融資産
(OECD統計データ より)
図6が、1995年を基準(1.0)とした場合の倍率のグラフです。
日本は1990年代の水準が高かったこともあり、成長率は非常に限定的です。
直近の2020年で1.5倍程度という事になります。
一方アメリカは大きく成長しています。
ドイツ、イタリアは2.7倍程度、イギリス、フランスは3.5倍程度、アメリカは4.5倍程度にまで増加しています。
日本の成長率が極めて低いという事も確認できたと思います。
7. 家計の金融資産の特徴
今回は、家計の金融資産の国際比較についてご紹介しました。
日本は1990年代にかなり高い水準に達し、その後も緩やかに増加し続けていて、近年でも先進国の中では上位の水準を維持しています。
日本経済はバブル期に企業が負債(主に借入)を大きく増やし事業投資を進め、結果的に家計の金融資産も大きくなったものと思います。
しかし、バブル崩壊後に事業活動の停滞が続くことで、平均給与や労働生産性などのフロー面の停滞が続き、国際的な立ち位置を変化させてきました。
金融資産などのストック面はフローの蓄積ですので、フローが低迷すればもちろんストック面でも立ち位置が低下していきますね。
日本の家計はこのように、過去に積み上げた金融資産(ストック)は非常に多いですが、これから現役世代が積み上げていく金融資産は、このままだとなかなか増えなさそうです。
今のところはまだ平均すれば「国民がお金持ちの国」と言えるかもしれませんが、今後はさらなる転落の可能性も高いように思います。
企業の借入や設備の過剰感は薄れてきていますので、これから国内での事業投資を増やしていく転機を迎えつつあるように思います。
今後の人口減少やバブル期の反省を踏まえるならば、規模の経済(大量生産・大量消費)を追う投資だけではなく、仕事の価値を上げるための投資を考えていくべきと感じています。
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