242 購買力平価って何? - その意味と特徴
経済指標をドル換算する際に用いられる購買力平価について、その意味と計算方法をご紹介します。購買力平価は、各国のモノやサービスの価格を基に、GDPの構成比に合わせて統合された通貨の換算レートとなります。
1. 購買力平価とは
前回は、付加価値と公務員の仕事について考えてみました。
統計上は、働いた人のお給料分は少なくとも付加価値が生まれていることになります。
公務員も公務等の付加価値を生み出しているわけですが、その公務員が日本の場合は少ないようです。
今回は購買力平価(PPP: Purchasing Power Parities)についてご紹介したいと思います。
「良く聞くけどその意味するところははっきりとは分からない」という人も多いのではないでしょうか?
正直私も良くわかりません。
OECDの統計では、ドル換算の際にこの購買力平価で換算したデータが良く用いられています。
OECD以外でも、国連、世界銀行、IMF、ILOなどの国際機関では、一般的に用いられていてむしろ主流な換算手法となっているようです。
経済指標の国際比較をする際には通貨単位をドルに換算するのが一般的ですが、為替レートによる換算と購買力平価による換算の2通りがあります。
為替レートによるドル換算値は為替の変動によって大きく上下しますが、購買力平価換算値は非常に滑らかで見やすいグラフになります。
一方で、為替レート換算では日本の方が上位の経済指標でも、購買力平価換算では下位になるなど、若干違和感があるのも事実です。
単なる為替変動の影響だけではない相違があるように思います。
今回は購買力平価で換算する意味について考えてみたいと思います。
購買力平価は、各国での実際のモノやサービスの価格から導き出される通貨の換算比率です。
インターネットなどで調べてみると、概ね「自国通貨と相手国通貨の購買力の比率によって通貨の交換比率を説明するもの」とされています。
例えばあるモノ(チェーン店のハンバーガーなど)が、日本で200円、アメリカで1ドルであれば、その交換比率は200÷1=200で200円/ドルといった考え方ですね。
これが成り立つためには、両国でこのモノやサービスの価値が同一であることが前提となります。
これを一物一価の法則と呼ぶそうです。
この各国の個別のモノやサービスを、種別ごと、グループごとに統合していき、GDPを構成する比率で重みづけをした換算比率がGDPベースの購買力平価となるそうです。
例えばこの時、実際の為替レートが100円/ドルだったとします。
そうすると、購買力平価200円/ドルとの間に、換算比率の乖離が生じます。
この乖離具合を比率で表したものが、物価比率(Price Levels Ratio)になります。
この場合は、購買力平価(200円/ドル) ÷ 為替レート(100円/ドル) = 2で、日本の物価比率はアメリカの2倍という事になります。
アメリカでは1ドルで買えるのに、日本ではその2倍の2ドルに相当する200円が必要になり割高になるという事です。
逆に日本からすれば、日本で200円で買えるモノが、アメリカではその半分の100円に相当する1ドルで割安に買えるという事です。
このように購買力平価は実際の価格から決まる換算比率のため、為替レートに対してその国の価格が割安か割高かを物価比率という形でとらえる事が出来ます。
円高になると急激に外国への観光客が増えるのも、相対的な相手国の物価が下がり、割安になるためと考えられますね。
参考記事: 物価比率って何だろう?
物価比率 = 購買力平価 ÷ 為替レート
物価比率は、物価水準指数(OECD)や物価水準、価格水準、内外価格差などとも表記されているようです。
本ブログでは、世界銀行や国連データベース(UNdata)で表記されているPrice Level Ratioから、物価比率と表記いたします。
より詳細には、Price level ratio of PPP conversion factor (GDP) to market exchange rateとなります。
購買力平価は「通貨コンバータであり、空間的価格デフレータ」とも呼ばれているそうです(Eurostat-OECDマニュアルより)。
私は学者でも研究者でもないので、理論的な解釈はよくわかりませんが、今回は統計データを見る際の購買力平価換算の意味合いについて確認していきましょう。
実際の通貨の換算比率である為替レートは、長期的には購買力平価に近づいていくとも言われているそうです。
2. 日本の為替レートと購買力平価
まず日本の為替レートと購買力平価の推移について眺めてみましょう。
図1 日本 為替レート・購買力平価・物価比率
(OECD統計データ より)
図1が日本円と米ドルとの為替レート(青:年平均値)、購買力平価(赤)、物価比率(緑)の推移のグラフです。
直観的に理解しやすいように、左軸の交換レートは、自国通貨高(円高)となる方向を上に、自国通貨安(円安)となる方向を下にしています。
日本円は360円/ドルの固定相場制から、変動相場制に変わり長期的にみれば円高方向(グラフ上側)へと進んできました。
購買力平価も少しずつ円高方向に変化しています。
グラフを見る限りでは、為替レートと購買力平価は少しずつ近づいていき、近年では特に大きな差がなく推移している様子がわかりますね。
2022年以降では、148円/ドル程度と急激に円安が進んでいますので、今度は極端に物価比率が引き下がる方に乖離が起きるのかもしれません。
固定相場制の頃は、購買力平価の方が為替レートよりもかなり高かったようです。
当時は実際的な価格水準よりも為替レートが大幅に円安で、輸出によるメリットが大きかったと考えられますね。
その後、為替レートも購買力平価も円高傾向が進み、特に1985年のプラザ合意を機に急激に円高が進んでいます。
1986年あたりから2013年あたりまで、購買力平価に対して為替レートの方が円高の状況が続いています。
つまり、実際の価格水準よりも為替レートの方が割高=物価比率の高い状態が続いた事になります。
特に1995年には、物価比率が1.9程度とアメリカの約2倍に達していたことになります。
物価比率が高いと国内で生産したものが海外から見れば割高なので、輸出では売りにくくなり、海外の現地生産化が進む動機となったといった指摘があるようです。
日本は、経済規模の割に輸出が少なく、流出一方の企業の現地生産化が進んでいる事と符合します。
参考記事: 貿易の少ない日本
参考記事: 日本製造業の歪なグローバル化
このように、購買力平価は両国の物価比率を踏まえた通貨の換算レートという特徴があるようです。
3. 購買力平価の推定方法
購買力平価は、両国間の価格をベースとした交換比率を、消費者物価指数やGDPデフレータのように1つの指数に統合していくという事になります。
OECDでは、食品や医療など、より詳細な物価比率についても公開しています。
参考記事: 日本の物価は高い?
毎年そのような詳細な調査を各国でできるわけでもないためか、以前は両国間の物価変化率の比を用いた推定値が一般的に利用されていたようです。
OECDで使用される購買力平価も、過去の数値についてはこの推定値が用いられていたようです。
購買力平価(各年) = 購買力平価(基準年) x 自国の物価指数 ÷ 相手国の物価指数
基準年の購買力平価に対して、自国の物価指数(GDPデフレータ)と相手国の物価指数の比を乗じる事で各年の購買力平価を推定できるようです。
この式に基づいて、購買力平価がどのように計算されているか確かめてみましょう。
まずは、1970年を基準としたアメリカと日本の物価上昇率とその比率を見てみましょう。
図2 GDPデフレータ 日本・アメリカ 1970年基準
(OECD統計データ より)
図2が1970年を基準(1.0)とした時の日本(青)とアメリカ(赤)のGDPデフレータです。
日本は1990年代にかけて物価が上がりますが、その後はいったん下がり停滞しています。
現在でも1970年の2.3倍程度で、約40年前の物価と同じ程度という状況です。
一方アメリカは物価が上昇し続けていて、1970年の5.5倍程度の水準です。
日本とアメリカの物価の比を表したのが緑色のグラフとなります。
1982年ころまでは日本の物価上昇の方が高かったのでプラス変化ですが、その後はアメリカの方が成長していくため、徐々にマイナスになっています。
この緑色のグラフが、ドル-円の購買力平価と相似関係にある事になります。
図3 購買力平価 実データ・推定値比較
(OECD統計データ より)
図3がドル-円の購買力平価について、OECDで公表されているデータ(青)と、計算で推定したデータ(赤)の比較です。
推定値は、1970年の購買力平価を初期値として、それに各年の物価変化率の比(図2の緑線の数値)を乗じたものです。
かなり両者が一致している様子がわかりますね。
特に1990年代半ばまではほぼ完全に一致しています。
一方で2014年以降に乖離が大きいようです。
このように、現在OECDで公開されている購買力平価は、両国間の物価変化率の比によって導かれる数値に近くなっているようです。
特に過去の数値はピッタリと一致しています。
近年の数値も近い水準で推移していますので、基本的には両国間の物価上昇率によって購買力平価が決まるという原理が確認できます。
日本は物価が停滞してきましたが、アメリカは物価が上昇し続けているため、購買力平価は円高傾向が続いているという事になります。
4. 各国の購買力平価と為替レート
それでは、他国の状況はどうなのでしょうか?
他の先進国の購買力平価や為替レート、物価比率についても眺めてみましょう。
図4 為替レート・購買力平価・物価比率 ドイツ(左)、スイス(右)
(OECD統計データ より)
図4はドイツ(左)とスイス(右)の為替レート、購買力平価、物価比率をまとめたグラフです。
両国とも、購買力平価と為替レートがある範囲内で連動して推移している様子がわかりますね。
どちらも図1の日本のグラフと似たような推移になっています。
1970年頃は購買力平価の方が、為替レートと比較して自国通貨高になっていて、その後為替レートも購買力平価も自国通貨高に推移していますね。
購買力平価が自国通貨高に変化するという事は、日本と同じくアメリカよりも物価上昇率が低い事を意味します。
ドイツは購買力平価に対して為替レートが自国通貨安に振れたり、自国通貨高に振れたりしていて物価比率が比較的1.0近傍でコンパクトに推移しています。
スイスは基本的に為替レートの方が自国通貨高で推移していて、物価比率が比較的高い状態で推移しているのが特徴です。
図4 為替レート・購買力平価・物価比率 イギリス(左)、カナダ(右)
(OECD統計データ より)
図4がイギリス(左)とカナダ(右)のグラフです。
どちらも1970年から比較すると、緩やかに自国通貨安に変化しているようです。
購買力平価を見ると、イギリスは1990年代後半から、カナダは1990年頃からほぼ一定で推移しています。
つまり、イギリスやカナダは物価上昇率がアメリカよりも高かった時期が続き、近年では同じくらいという事ですね。
図5 為替レート・購買力平価・物価比率 韓国(左)、メキシコ(右)
(OECD統計データ より)
図5が韓国(左)とメキシコ(右)のグラフです。
どちらも経済成長中の国で、アメリカの経済水準と比較すると大きな差があります。
購買力平価も為替レートも自国通貨安方向に推移していますね。
物価比率も1.0よりも低い状況が続いていて、あまり差が縮まっていないようです。
5. 購買力平価の特徴
今回は購買力平価について、その意味するところや計算方法を確認してみました。
現在OECDで公開されている購買力平価は、両国間の物価指数の比に比例するという指数になっています。
各国の為替レートを見る限りでは、ある程度購買力平価の推移に沿うように変化しているようですので、指数としては一定の信頼性があるように思えます。
一方で、経済指標を購買力平価でドル換算するとはどのような意味になるでしょうか?
この購買力平価換算値は、OECDや国連、世界銀行などの公開する統計では、様々な経済指標のドル換算に用いられています。
物価比率 = 購買力平価 ÷ 為替レート
為替レート換算値 = 自国通貨建て数値 ÷ 為替レート
上記を踏まえると、購買力平価換算値は次のようになります。
購買力平価換算値 = 自国通貨建て数値 ÷ 購買力平価
= 自国通貨建て数値 ÷ 為替レート ÷ 物価比率
= 為替レート換算値 ÷ 物価比率
つまり、購買力平価で経済指標をドル換算すると、為替レート換算して更に、物価比率で調整した数値になります。
物価比率で調整するとはどういうことかと言えば、「アメリカ並みの物価で仮定すれば〇〇ドルに相当する」という数値です。
自国とアメリカの相対的な物価比率をキャンセルすることになります。
購買力平価は、通貨コンバータであると同時に、空間的な価格デフレータであると言われます。
デフレータとは、金額的な数値を、物価の相違分だけ割り引いて数量的な指標にするための換算レートです。
アメリカ並みの物価に揃えるということが、まさに空間的なデフレータという意味になるようです。
つまり、各国間の物価水準を揃えた上で、数量的な規模を比較しようというのが購買力平価換算値の意味になるわけですね。
韓国やメキシコのように、経済発展中で明らかなアメリカとの経済水準に格差があり、物価比率そのものにアメリカとの大きな乖離がある場合、その分割り増して評価されることを意味します。
逆に言えば、生活実感としては、為替レート換算値で示される数値よりも、より豊かな生活を享受できている可能性を示しています。
例えば経済発展中の国で、物価比率がアメリカの半分だとすると、為替レート換算の2倍が購買力平価で換算した数値となります。
次回はこの部分について、具体的な指標で確認してみたいと思います。
また、GDPベースの購買力平価は、GDPの構成比を基に作られたGDP専用の通貨換算指標です。
各国のGDP、1人あたりGDP、労働者1人あたりGDP、労働時間あたりGDPなど、分子がGDPになるものであれば、このGDPベースの購買力平価を使用した換算値を用いる事ができます。
一方で、GDP以外の換算には推奨されていません。
OECDで時系列データとして公開されているのは、現実個別消費(AIC: Actual Individual Consumption)の購買力平価と、民間消費の購買力平価です。
現実個別消費の購買力平価は現実個別消費のドル換算用に、民間消費の購買力平価は民間最終消費支出や所得(GDPの分配面)に関するドル換算用に用いられるようです。
用途が限られていたり、比較したい経済指標によって購買力平価の種類も変える必要があるなど、その利用方法にも注意が必要なようです。
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