188 企業の借金は増えるもの!? - 借入の国際比較

日本の企業は負債のうち借入を減らしているのが大きな特徴です。国際比較する事で、日本企業の借入の特徴を可視化してみます。

1. 企業の借金とは

前回は、企業の負債(Financial liabilities)に着目してみました。
企業は基本的に負債を増やして事業投資を行い、付加価値を増大させて、労働者の所得を上げていく主体ですね。
家計、企業、政府、金融機関、海外の経済主体で考えた場合に、企業は純金融負債を増やし、家計が純金融資産を増やしていくのが基本形のようです。

企業の負債は、大きく借入、株式、その他(債務証券等)に分かれます。
負債の中でも、借入(Loans)=借金は大きな割合を占めます。
今回は、企業借入について着目してみたいと思います。

企業による借入は、基本的に金融機関からの融資により借りたお金という事になりますね。
逆に、貸したお金は貸出と表記されることもあります。

内閣府 国民経済計算の用語の解説では次のように解説されています。
「貸出(資産側)及び借入(負債側)は、金銭消費貸借契約や割賦販売契約等によって生じた金銭債権であり、国内金融機関が保有する金銭消費貸借形態の金銭債権以外にも、割賦債権形態等の金銭債権、現先・債券貸借取引のうち債券を担保とした信用供与とみなせるもの、さらには非金融法人企業など他の部門が保有する貸出債権も本項目に含まれる。貸出、借入は、基本的に全ての制度部門に記録される。」

「具体的に、本項目には、日銀貸出金(借入金)、コール・手形、民間金融機関貸出(借入)、公的金融機関貸出(借入)、非金融部門貸出金(借入金)、割賦債権(債務)、現先・債券貸借取引が含まれる。」

企業が借入を増やすと、企業の負債のうち借入が増え、貸し手(主に金融機関)の金融資産のうち貸出が増える事になります。

2. 日本企業の借入

まずは日本企業の借入の推移から眺めてみましょう。

負債 借入 非金融法人企業 日本

図1 負債 借入 企業 日本
(OECD統計データより)

図1は、日本企業の負債のうち、借入の推移です。

非常に特徴的な推移になっていますね。

1995年をピークにしていったん減少傾向が継続し、2004年あたりから停滞気味となり、2012年ころからまた増え始めています。
2022年では550兆円程度で、ピークの1995年からすると100兆円程目減りした状況です。

3. 企業の借入の推移

続いて、企業の負債についてドル換算値での国際比較をしてみましょう。

企業 負債 借入

図1 企業 負債 借入
(OECD統計データより)

図1はOECD各国の企業の負債のうち借入のドル換算値の推移をグラフ化したものです。
非常に特徴的なグラフです。

1990年代に日本はアメリカ企業全体の2倍以上の借入をしていた計算ですが、その後明らかに目減りしています。
一方でアメリカはリーマンショックの期間を除き、基本的には右肩上がりに増大していますね。
他の主要国も増加基調ですが、フランスの存在感が大きいのが特徴的です。

また、ドイツや、イギリス、イタリアはリーマンショック以降停滞気味か、やや減少傾向のようです。
アメリカは大きな存在感ですが、負債の総額で圧倒的な存在感を示していた事と比べると、負債そのものは控えめなようです。

4. 企業の借入の増加度合

それでは、各国の借入について、どれくらいの成長度合なのかを見てみましょう。

企業 負債 借入

図3 企業 負債 借入

図3は企業借入(各国通貨ベース)について、1995年を基準(1.0)とした場合の倍率を示したものです。
日本は7~8割程度と目減りして停滞しています。
ドイツ、フランス、カナダ、アメリカは増加傾向で、イタリア、イギリスは停滞気味です。

5. 企業の1人あたり借入の推移

企業の借入について、人口1人あたりの水準で比較してみましょう。

負債 借入 1人あたり 非金融法人企業

図4 企業 負債 借入 1人あたり 推移

図4は人口1人あたり企業借入の推移です。
1人あたりにするとアメリカは比較的小さな数値となる事がわかります。

日本は1990年代半ばに極端に大きな水準に達し、その後減少・停滞していて近年ではフランスやカナダよりも低い水準となっています。

アメリカを始め他の主要国との差もかなり縮まっているようです。

6. 企業の1人あたり借入の国際比較:1997年

1人あたりの企業借入は多いのか、少ないのか、順位を明確に見てみましょう。

まずは1997年の順位です。

企業 負債 借入 1人あたり 1997年

図5 企業 負債 借入 1人あたり 1997年

図5は1997年の水準が高い順に並べたグラフです。

日本は人口1人あたり企業の借入が38,164ドルで、ルクセンブルクに次ぐ高水準でした。
フランスの約2倍、ドイツ、カナダ、イギリス、アメリカ、イタリアの約3倍です。

逆に極端に高すぎる水準とも見て取れますね。
バブル崩壊後のこの時期でも、企業の借入や、機械・設備、政府の公共投資が非常に高い水準でした。

7. 企業の1人あたり借入の国際比較:2019年

企業 負債 借入 1人あたり 2019年

図6 企業 負債 借入 1人あたり 2019年

図6が2019年のグラフです。
日本は35,465ドルと、36か国中15番目の水準まで後退します。
OECDの平均値やフランスよりも大きく下回り、アメリカとも大分近い水準ですね。
ただし、ドイツや韓国よりもまだ1.5倍くらいはあります。

8. 企業の借入の特徴

今回は企業の負債のうち、借入について着目してみました。
日本ではバブル崩壊を機に企業の変質が進んでいます。

付加価値や人件費が横ばいですが、利益や純資産が増加しています。
一方で、借入が目減りしている状況ですが、そもそもバブル崩壊前後で、他国に比べると極めて高い水準にあったという事が今回わかりました。
実はこの企業の変質も、過剰だった負債の水準が減っていく過程と捉える事ができるのかもしれませんね。

そして、直近では他国並みに負債の水準が低下してきています。

日本経済の特徴は、1990年代中ばの極めて高い水準から停滞が続き、直近では他国並みです。
この企業の借入についても、同様の傾向ですね。
バブル等や円高で極端に高まった水準が長い調整期間を経て、他国並みに落ち着いてきたとも見て取れそうです。
成長率で見ても、1人あたりで見ても2010年代から再び増え始めている傾向も見受けられます。

企業がまた借入を増やし、国内の事業投資を増やすと共に、付加価値(GDP)の上昇と、労働者の所得向上という循環に入れるかどうかという転換点に差し掛かっているのかもしれません。

企業の借入が増えるかどうかは、経済活動の活発さを端的に判断するのに非常にわかりやすい指標ではないかと思います

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