073 ストックから見る日本経済 - 金融資産・負債差額の変化

日本の家計、企業、政府、金融機関と海外について、金融資産・負債残高から見える特徴をまとめていきます。家計の金融資産が増える一方で、特に企業の変化がポイントとなりそうです。

1. 金融資産・負債差額とは

前回は、日本銀行の資金循環統計の中で家計、企業(非金融法人企業)、金融機関、政府、海外の経済主体のうち、金融機関についての金融資産、負債及びその正味の金融資産・負債差額について取り上げました。

金融資産・負債差額 日本

図1 金融資産・負債差額 ストック 日本 各経済主体
(日本銀行 資金循 環より)

図1は日本の経済主体ごとの純金融資産(金融資産・負債差額)のグラフです。
資産側で家計の純金融資産が増える一方で、負債側で企業、政府、海外が純金融負債を増やしています。

1995年あたりまでは、純金融負債の多くを企業が負っていたわけですが、その後は目減りして停滞気味です。
その代わりに、純金融負債を増やしているのが政府と海外であることが読み取れます。
純金融資産の合計と、純金融負債の合計は一致し、すべてを合計するとゼロになるという関係もよくわかりますね。

2. 経済主体ごとの金融資産・負債残高

一連の経済主体のデータを見てきた中で、それぞれの特徴が分かってきましたのでまとめてみましょう。
( )内は直近(2018年)の金額です。

金融資産・負債 家計
金融資産・負債 非金融法人企業
金融資産・負債 一般政府
金融資産・負債 海外

図2 金融資産・負債 各経済主体
(日本銀行 資金循環統計 より)

図2が日本の各経済主体の金融資産、負債をまとめたグラフです。
家計(左上)、企業(右上)、政府(左下)、海外(右下)になります。

家計
・ 純金融資産が一方的に増えている(約1,500兆円)。
・ 特に現金・預金(約1,000兆円)が増えているが、将来受給する予定の年金など受給権(約500兆円)も増えている
・ 負債(特に住宅貸付)は増えていない(約300兆円)。

企業(非金融法人企業)
・ 純金融負債は停滞し、一定水準(約600~800兆円)で推移している
・ 金融資産は停滞しているが、直近では現金・預金や対外純資産増加でやや増加している(1,200兆円)
・ 負債は借入が目減りし停滞している(約500兆円)が、株式がアップダウンしながらも近年増えている(約1,100兆円)

政府
・ 純金融負債が一方的に増えている、近年やや停滞(約700兆円)
・ 金融資産は対外証券投資(約200兆円)などを中心に若干増えている(約600兆円)。
・ 負債は国債などの債務証券(約1,100兆円)が増え続け、一方的に増加傾向(約1,300兆円)。

海外
・ 純金融負債が一方的に増えている、近年やや停滞(約400兆円)
・ 金融資産は株式、債務証券、貸出などで増加傾向(約700兆円)
・ 負債は貸出(約200兆円)、対外直接投資(約200兆円)が増え、さらに対外証券投資(約600兆円)が大幅に増えて増加傾向(約1,100兆円)
・金融資産も負債も増えているが、負債の方が上回っているため常に純金融資産がマイナス

金融機関
・ 純金融資産はほぼ0で横ばい、直近で少しだけプラス(約150兆円)
・ 金融資産は横ばいから直近で増加傾向(約4,100兆円)、貸し出しが停滞(約1,400兆円)する代わりに債務証券、現金・預金が増える
・ 負債は横ばいから直近で増加傾向(約3,950兆円)、急激に現金・預金が増える

それぞれについては、ざっと上記のような特徴があるようです。

家計の純資産が増え続けている裏には、企業や家計が負債を増やさなくなった代わりに、政府と海外が純金融負債を増やし続けているという事がわかりました。
経済においては、「誰かの純金融資産は誰かの純金融負債」といわれますので、誰かが負債を増やさないと誰かの金融資産が増えません。
日本では、家計と企業が1991~1997年あたりをピークにして、負債が増えていません。

通常の経済では、企業が負債を増やして、投資を行い、生産性や付加価値が向上し、利益が増え、従業員(私たち)の所得が増え、投資や消費が増え、、という循環になるはずですね。
投資を行うには需要が増える事が予測されなければいけませんが、家計の消費は停滞しています。
 参考記事: 支出を増やしているのは誰?
 参考記事: 家計消費とGDPの関係

3. 中央銀行の金融資産・負債残高

日本ではそもそもの企業や家計の消費や投資(負債)が増えていませんね。
それを政府が国債・財政支出を増やして負債や消費を増やす主体となって、肩代わりしている状況のようです。
また、企業や政府、金融機関は対外証券投資や対外直接投資という形で、国内よりも海外に投資を行って金融資産を増やしている状況です。

政府の負債の多くは国債になります。
政府が国債を発行して、日銀がその国債を買い入れていると言われています。
日本銀行の金融資産・負債の状況も見てみましょう。

金融資産・負債 中央銀行

図3 中央銀行 金融資産・負債 積上げ
(日本銀行 資金循環統計 より)

図3が中央銀行=日本銀行金融資産・負債のグラフです。
2012年あたりでは、金融資産では債務証券(主に国債)が、負債では現金・預金が急激に増えています。
直近では金融資産は586兆円、負債は552兆円です。

金融資産・負債 中央銀行

図4 中央銀行 金融資産・負債 詳細
(日本銀行 資金循環統計 より)

図4が日本銀行の金融資産・負債の詳細グラフです。
2010年以降で資産側の債務証券と負債側の現金・預金の急激な増大が見られます。
どちらもこの期間で約400兆円も増大しています。

まるで鏡に映したかのように、増え方が対称的ですね。
これが恐らく、国債を購入して政府に対する金融資産が増え、その分日銀当座預金や現金としての負債が増えている事を表していると思います。

4. 一般金融機関の金融資産・負債残高

念のため、日本銀行(中央銀行)を除いた一般金融機関の金融資産・負債残高も見てみましょう。

金融資産・負債 金融機関 中央銀行以外

図5 金融機関(中央銀行以外) 金融資産・負債 積上
(日本銀行 資金循環統計 より)

金融資産・負債 金融機関 中央銀行以外

図6 金融機関(中央銀行以外) 金融資産・負債 詳細
(日本銀行 資金循環統計 より)

図5、図6が日銀以外の金融機関金融資産・負債のグラフです。

特に図4の詳細グラフを見ていただきたいのですが、2012年以降に債務証券(水色)が減って、現金・預金(青)が増えています。
日銀が国債を市中銀行から買い取って、日銀側から見れば現金(日本銀行券)や日銀当座預金(日銀預り金)という負債を増やしているという事がここにも表れていますね。

単純に資産側の債務証券現金・預金に置き換わっただけのようにも見えます。
私にはそのあたりの理屈はよくわかりませんが、「日銀が何かをしている」という事は読み取れますね。

5. 日本の金融資産・負債残高の特徴

今回は、日本の各経済主体の金融資産・負債差額と、金融資産・負債残高についてご紹介しました。

家計の金融資産・負債残高は意外にも増え続けています。
その裏では負債を増やし続ける主体が必要になるわけですが、それが企業がから海外と政府へと移っている様子が良くわかりました。

その政府の負債については、マスメディアなどでも「増えすぎ」と問題視されています。
海外の負債については、アンバランスな対外直接投資の結果が大きく影響しているに過ぎません。

結局国内の実経済が活発かどうかは、企業の負債や、銀行の資産側の貸出の推移に表れているように思います。
2010年以降やや貸出は増えていて、平均給与が増加傾向に転じたタイミングと一致します。
1,200兆円→1,400兆円なので、200兆円くらいでしょうか。

それでも、長期で見れば本来負債を増やす主体であるべき企業が負債を増やさず、むしろ金融資産ばかりを増やす主体に変貌してしまっています。
金融資産を増やして、労働者の所得も増えれば問題ないと思うのですが、労働者の給与はピークから見れば低所得化しています。
 参考: 私たちはどれだけ貧困化したのか

平均給与 男性 事業所規模・年齢層別

図7 平均給与の推移
(民間給与実態統計調査)

特に深刻なのは、男性の給与水準が軒並み低下している事ですね。
図7は年齢別、企業規模別の平均給与の推移ですが、全ての区分で平均給与が減っている事が示されています。

不思議なのはこれまで労働者の低所得化について取り上げてきましたが、資金循環統計で見る限りは家計の金融資産は右肩上がりに増え続けている事です。
統計的に見れば、国民全体は豊かになり続けているわけです。

この矛盾は一体どういう事でしょうか?
私たちは豊かになっているのでしょうか?貧困化しているのでしょうか?
もう少し家計の謎を解き明かしていく必要性があるように思います。

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