121 日本企業の労働生産性 - 企業規模別の推移

日本の法人企業の労働生産性について、企業規模別の労働者1人あたり付加価値と、労働時間あたり付加価値を計算してみます。中小零細企業と大企業には、労働生産性で2倍以上の差があるようです。

1. 労働生産性とは

前回は、日本人の労働時間の変化について着目してみました。
現在日本の労働者の平均労働時間は、1,644時間と先進国の中でも短い方だという事がわかりました。
パートタイム労働者など、非正規雇用の増加などによって平均値が引き下げられている部分も大きいようです。

また、1人あたりの労働時間が減る一方で、女性や高齢者など、労働者数は増加しています。
国民が生み出す労働の価値の総和である付加価値(GDP)が停滞している中で、労働者数は増え、平均労働時間が短くなっています。
そして労働者の平均給与が各世代で減っています。
皆でワークシェアリングをしているような状況とも言えますね。

今回は、昨今良く耳にする、労働生産性について考えてみたいと思います。

労働生産性は一定期間に1人の労働者が生み出す付加価値ですね。
したがって労働者が稼ぎ出す年間の付加価値も、労働生産性の一つと言えます。
1人の労働者が1時間あたりに生み出す付加価値も労働生産性ですね。

労働時間あたり付加価値 = 労働者1人あたり付加価値 ÷ 平均労働時間

付加価値は、「仕事を通じて付け加えられた金額的価値」です。
 参考記事: 日本企業の付加価値

少なくとも本ブログにおいては、このような意味で付加価値労働生産性という言葉を使っていきたいと思います。
付加価値労働生産性などとも呼ばれるようです。

もちろん、労働生産性の中には「1定時間のうちで産出する製品の数量」といった意味で使う人もいると思います。
金額ではなく、数量を尺度とした労働生産性ですね。
このような数量的な労働生産性は、物的労働生産性とも言われるそうです。
物的労働生産性は生産の効率という意味になると思いますので、本ブログでは数量的な生産性を生産効率と呼ぶようにします。

付加価値生産性の物価による影響を排除した実質値も物的労働生産性に相当すると考えられそうですね。
もちろんこれも生産性を示す指標の一つです。
生産技術や製造関係の人は、このような意味で生産性を捉える方が多いのではないでしょうか。
こういった生産の効率という面では特に日本の製造現場では、非常に高い生産性を誇ると思います。

ただ、日本の「中小企業の労働生産性は低い」等と言われる場合には、基本的には時間あたり(あるいは年間)に生み出す付加価値が低いという事を意味すると思います。
もちろん、生産効率を高める工夫などにより、労働生産性を高める余地は大いにあると思います。
一方で、低すぎる売値を適正化する事でも、労働生産性は向上しますね。

今回は「1時間あたりに生み出す付加価値」という意味で労働生産性を考えていきます。

2. 企業規模別の労働者1人あたり付加価値

それでは、まずは労働者の稼ぐ年間の付加価値から見ていきましょう。

日本 法人企業 1人あたり付加価値

図1 1人あたり付加価値
(法人企業統計調査)

図1は1人あたり付加価値(労働者1人あたりの年間付加価値の平均値)の推移です。

中小零細企業が青、中堅企業が緑、大企業が赤、全規模の平均が黒で表現されています。
直近の数値を見ると、中小零細企業で459万円、中堅企業で774万円、大企業で1,375万円、全規模の平均で647万円です。

大企業の1人あたり付加価値が突出して高いですね。

中小零細企業の3倍、中堅企業の1.8倍もの水準となります。
大企業の労働者は全体の約2割です。
一部の層が極めて高い生産性に達している事になります。
大企業は1990年の水準から見ると、アップダウンを繰り返しながらも増加傾向である事もわかると思います。

一方で、中小零細企業の場合は1990年頃をピークにしてやや減少しています。
合計の付加価値は変わらないのに、労働者数が増えているので、1人あたりの付加価値が減少しているという事だと思います。
1人1人の稼ぐ力が減少しているわけですね。

企業規模別の労働者数や付加価値については、下記の記事もご参照ください。
 参考記事: 日本経済の主役は中小企業

また、この1人あたり付加価値は、稼ぎ出す付加価値全体を、全体の労働者数で割っているものです。
つまり、製造業で言えば、製造部門の生産性を示すものではなく、間接部門なども含めた平均的な生産性を示しています。
間接部門(例えば経理など)も、製造部門の作業者も同様に労働者数としてカウントしていますので、ご注意ください。

3. 企業規模別の労働時間あたり付加価値

それでは、具体的な時間あたりの労働生産性について見てみましょう。

日本 法人企業 労働生産性

図2 労働生産性(1時間当たり) 企業規模別
(法人企業統計調査 より)

図2がそれぞれの企業規模別にみた、平均的な労働生産性です。

図1の1人あたり付加価値を、平均労働時間で割った数値となります。

平均労働時間は、今回はOECDの数値を使いました。
より詳細には企業規模別の平均労働時間を出す必要があると思いますが、今回は割愛させていただきました。

労働生産性は1時間あたりに、どれだけの付加価値(≒粗利)を稼ぐか、という事ですね。
直近の数値では、中小零細企業で2,734円/時間、中堅企業で4,605円/時間、大企業で8,183円/時間、全規模の平均で3,853円/時間です。

4,000円/時間程度が、日本人の労働者が平均的に稼ぐ付加価値という事になります。
ただ、やはり企業規模による格差が大きいようです。

また、中小零細企業では、1992年あたりからほぼ横ばいです。
大企業はアップダウンしながら右肩上がりの傾向、中堅企業は微増といった感じですね。

4. 労働生産性の国際比較

それでは、日本人の労働生産性は、国際比較してみるとどのような水準なのでしょうか?

労働生産性 2017年

図3 労働生産性 各国比較 2017年
(OECD統計データ より)

図3が、OECD各国の労働生産性(労働時間あたりGDP)を比較したグラフです。
 参考記事: 日本は生産性が低いは本当?

日本は41.8ドル/時間で、図2の全規模平均とほぼ一致していますね。

この水準は実は、先進国の中では下位に位置します。
G7で最下位、36か国中20番目の水準ですね。

G7の平均(56.5ドル/時間)はともかくとして、OECDの平均(48.2ドル/時間)すら大きく下回っています。
アメリカ(64.2ドル/時間)やドイツ(60.5ドル/時間)からすると、6~7割の水準でしかありません。
残念ながら、日本の労働者の平均的な労働生産性は低いと言えます。

大企業の労働生産性がちょうど、アメリカやドイツの平均値と同じくらいです。
中小零細企業の労働生産性は、ギリシャやラトビアの平均値と同程度だと言えそうです。

したがって、中小零細企業や中堅企業の労働生産性が低く「全体の足を引っ張っている」と言われてしまえば、否定できません。
逆に言えば、経済大国かつ先進国としては、中小零細企業や中堅企業も、現在の大企業と同じくらいの労働生産性があってしかるべき、という事ですね。
経済成長していくうえで、「中小零細企業の労働生産性を上げていく事が必要」という指摘はその通りと思います。

労働生産性 = 1人あたり付加価値 ÷ 労働時間です。

投入する労働時間は減少していますので、時間あたりの付加価値である労働生産性を上げていく事が必要という事ですね。
決して「たくさん作っても需要不足で売れない製品を、必要以上に効率よく作る事」が、労働生産性を上げる事ではないと思います。

5. 労働生産性と時間単価

今回の労働生産性は、全ての労働者の平均的な生産性を示します。

そして、労働生産性=時間単価(値付け)ではない点にも、ご注意いただきたいと思います。

当社のような製造業では工数という言葉を使います。
例えば「Aという部品の加工」という仕事に対して、実際に労働者や工作機械が働いた時間が工数と言う事ですね。
この工数に対して、時間単価をかけたものが、工賃(粗利≒付加価値)と言えます。

工賃 = 工数 x 時間単価

私達町工場のビジネスは、このようにシンプルな値付けが基本となります。
もちろんライバルとの競争がありますので、工数を低減してより効率よく製造する事が求められます。
この辺りの生産効率は、日本は非常に優れている部分ではないでしょうか。

一方で、時間単価はどうでしょうか?
この時間単価に、図3の労働生産性を使っても、会社は赤字です。

何故ならば、直接付加価値を生む作業者だけではなく、会社を維持するための人員(間接部門など)を抱えているからです。
つまり、直接関係する作業者の労働力に追加して、間接部門の従業員の稼ぐ付加価値分も上乗せして時間単価を設定しないといけないわけですね。

したがって、本来の値付けの時間単価は、図2の労働生産性よりも高くなって当然と思います。

15年ほど前の感覚では、大手メーカー :1万円/時間、中堅メーカー・1次サプライヤー:7,000~8,000円/時間、下請け加工業者:5,000円/時間の時間単価が一般的でした。

現在は、これがかなり引き下げられている印象です。
実感値としては、概ね約半分くらいのイメージですね。

6. 日本企業の労働生産性の特徴

今回は日本企業の企業規模別にみた労働生産性についてご紹介しました。

労働者1人あたりで見ると、全体としては長期間停滞が続いています。
特に中小零細企業での停滞感が大きくやや減少すらしています。
大企業は上昇傾向のようにも見えますが、アップダウンが大きいのが特徴的です。

中小零細企業と大企業には2倍以上の差がある事になります。

労働時間あたりで見ると、全体的に上昇傾向が強くなります。
平均労働時間が年々短くなっていますので、年間で稼ぐ付加価値が一定でも、時間あたりだと上昇傾向になっていることが確認できます。

近年では、法人企業全体の平均値が1時間あたり3,900円程度、中小零細企業で2,700円程度、大企業で8,200円程度となります。
中小零細企業と大企業には大きな生産性がある事になります。

確かに規模が大きくなるほど生産性が高まるという傾向が統計データからも確認できました。
一方で、中小零細企業からすれば、それだけ生産性向上の余地があるとも考えられるかもしれませんね。

皆さんはどのように考えますか?

参考: 最新データ

(2023年8月追記)

図4 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算 2022年
(OECD統計データより)

図4は最新の2022年の労働時間あたりGDP(労働生産性)です。

日本は48.0ドル/時間で、2017年時点よりも成長していますが、37か国中21位で先進国の中の順位としては1つ下がっています。

他国の成長に対して、日本の成長が緩やかであることが言えそうです。

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