200 労働生産性の高い産業は何か? - 産業別1人あたり付加価値

主要先進国の産業ごとに、労働生産性(労働者1人あたり付加価値)を計算してみます。生産性の高い産業の共通点なども見えてきそうです。

1. 産業別の労働生産性とは

前回は、産業ごとの労働者数シェアにフォーカスしてみました。
以前当ブログでは、産業ごとのGDP(付加価値)を取り上げたことがあります。
 参考記事: 工業の縮小する工業立国日本

今回は、産業別の労働生産性について、各国の推移を見てみましょう。
OECDのデータベースでは、産業別のGDPと労働者数(Total employment)が公開されています。

GDPを労働者数で割れば、労働者1人あたり付加価値として労働生産性が計算できます。

各国ごとに産業による特徴があるのか、確認していきましょう。
ただし、不動産業は持家の帰属家賃が含まれ計算値が現実と乖離するため、除外します。

2. 日本の産業別労働生産性

まずは日本のデータからです。

労働者1人あたり付加価値 産業別 日本

図1 労働者1人あたり付加価値 産業別 日本
(OECD統計データより)

図1は日本の産業別に見た労働生産性(労働者1人あたり付加価値)の推移です。

日本の場合は全体的に労働生産性が停滞傾向ですが、いくつか傾向が確認できますね。

まず、情報通信業と金融保険業がかなり高い水準です。
情報通信業は2000年代初頭からやや減少傾向で、金融保険業は2000年代に急激に上昇した後、2008年に急減して停滞しています。

次いで水準が高いのが工業で、緩やかに上昇傾向です。
逆に、その次に水準の高い公務・教育・保健が緩やかに減少傾向となっています。

一般サービス業、専門サービス業は停滞していますが、建設業は2010年代からやや上昇傾向となっていてこれら2産業を上回っています。

日本 労働者1人あたり付加価値
2021年 単位:百万円
14.0 金融保険業
12.8 情報通信業
11.6 工業
7. 1 公務・教育・保健
6.4 建設業
6.3 専門サービス業
5.8 一般サービス業
3.4 その他サービス業
2.1 農林水産業
7.2 全産業平均(不動産業を除く)

3. アメリカの産業別労働生産性

続いてアメリカの推移を見てみましょう。

労働者 1人あたり付加価値 産業別 アメリカ

図2 労働者1人あたり付加価値 産業別 アメリカ
(OECD統計データより)

図2がアメリカの推移です。

明らかに全体的に右肩上がりですね。
日本と同様に情報通信業と金融保険業の水準が高く、かつ成長率も高いようです。
次いで工業の水準が高いですが、同じくらいなのが専門サービス業です。

専門サービス業は日本では平均値を下回っていましたが、アメリカの場合は平均値を大きく超えているのが特徴的ですね。

アメリカ 労働者1人あたり付加価値
2021年 単位:ドル
256,573 金融保険業
249,878 情報通信業
187,769 工業
181,687 専門サービス業
108,502 公務・教育・保健
97,696 農林水産業
95,220 一般サービス業
83,650 建設業
61,339 その他サービス業
130,305 全産業平均(不動産業を除く)

4. ドイツの産業別労働生産性

続いてドイツの推移です。

労働者1人あたり付加価値 産業別 ドイツ

図3 労働者1人あたり付加価値 産業別 ドイツ
(OECD統計データより)

図3がドイツの推移です。

全体的に緩やかな上昇傾向ですが、産業ごとの上下関係は日本に近い状況ですね。

専門サービス業が2009年に向けて減少傾向で、その後上昇傾向に転じているのが印象的です。
情報通信業、金融保険業が同程度で水準が高く、その次の工業というのも共通しています。
建設業の上昇傾向が強く、近年では平均値を超えているのも特徴的です。

ドイツ 労働者1人あたり付加価値
2022年 単位:ユーロ
129,705 金融保険業
116,078 情報通信業
103,880 工業
76,349 建設業
64,178 専門サービス業
64,045 農林水産業
58,708 一般サービス業
55,195 公務・教育・保健
40,633 その他サービス業
70,164 全産業平均(不動産業を除く)

5. フランスの産業別労働生産性

続いてフランスです。

労働者1人あたり付加価値 産業別 フランス

図4 労働者1人あたり付加価値 産業別 フランス
(OECD統計データより)

図4がフランスの産業別労働者1人あたり付加価値です。

傾向は他国と似ていますが、上位3業種以外の差が小さいのが特徴的です。

情報通信業に比べて金融保険業の水準がやや低く、工業に近い水準になっているのが特徴的です。

フランス 労働者1人あたり付加価値
2022年 単位:ドル
124,774 情報通信業
104,405 金融保険業
103,507 工業
67,956 専門サービス業
67,698 農林水産業
66,571 建設業
63,220 一般サービス業
60,915 公務・教育・保健
37,885 その他サービス業
69,705 全産業平均(不動産業を除く)

6. イギリスの産業別労働生産性

続いてイギリスです。

労働者1人あたり付加価値 産業別 イギリス

図5 労働者1人あたり付加価値 産業別 イギリス
(OECD統計データより)

図5がイギリスの労働者1人あたり付加価値です。

金融保険業が圧倒的な水準なのが特徴的です。
情報通信業は金融保険業との差が大きく、近年では工業をやや下回る水準なのも印象的です。

それ以外では、建設業の水準がやや高め、専門サービス業の水準がやや低めという特徴もありそうですね。

イギリスの状況はとても極端で特徴が明確です。

イギリス 労働者1人あたり付加価値
2022年 単位:ポンド
186,999 金融保険業
99,119 工業
97,687 情報通信業
63,744 建設業
57,703 農林水産業
52,788 専門サービス業
51,004 公務・教育・保健
45,194 一般サービス業
40,378 その他サービス業
61,073 全産業平均(不動産業を除く)

7. イタリアの産業別生産性

続いてイタリアです。

労働者1人あたり付加価値 産業別 イタリア

図6 労働者1人あたり付加価値 産業別 イタリア
(OECD統計データより)

図6がイタリアの産業別労働者1人あたり付加価値です。

他の主要先進国と比べると、リーマンショック以降停滞気味なのがわかりますね。
その中でも工業は上昇傾向が強いようです。

金融保険業の水準が情報通信業よりも1段高い事と、公務・教育・保健の水準がやや高めなのが特徴的です。

イタリア 労働者1人あたり付加価値
2022年 単位:ユーロ
124,256 金融保険業
93,812 情報通信業
86,406 工業
57,564 公務・教育・保健
57,213 一般サービス業
53,557 建設業
51,375 専門サービス業
40,369 農林水産業
24,348 その他サービス業
59,969 全産業平均(不動産業を除く)

8. カナダの産業別労働生産性

最後にカナダです。

労働者1人あたり付加価値 産業別カナダ

図7 労働者1人あたり付加価値 産業別 カナダ
(OECD統計データより)

図7がカナダの産業別労働者1人あたり付加価値です。

まず工業が最も生産性の高い産業であることが特徴的ですね。
さらに建設業や農林水産業の水準が高く、第一次産業、第二次産業の強い国という印象です。

カナダ 労働者1人あたり付加価値
2020年 単位:カナダドル
178,055 工業
159,833 金融保険業
153,817 情報通信業
116,652 建設業
112,991 農林水産業
94,414 公務・教育・保健
91,923 専門サービス業
76,091 一般サービス業
46,387 その他サービス業
104,453 全産業平均(不動産業を除く)

9. 産業別労働生産性の特徴

今回は、主要先進国の産業別労働生産性として、労働者1人あたり付加価値の自国通貨建ての推移をご紹介しました。

各国で共通するのが、情報通信業と金融保険業の生産性が高く、次いで工業の水準が高い事です。
専門サービス業、公務・教育・保健、建設業は平均値近辺の国が多いですね。
一般サービス業やその他サービス業はかなり低い水準の国が多いようです。

アメリカは全体的に上昇傾向が強く、特に専門サービス業の水準が高い特徴があります。
イギリスは金融保険業、カナダは工業と強みのある産業が明確ですね。

イタリアは全体的に停滞傾向の中工業の生産性が向上しています。
日本は情報通信業、金融保険業、公務・教育・保健で生産性が低下しています。
また、農林水産業の生産性は他国では平均値近くの国が多いですが、日本では極端に低いのも特徴的です。

自国通貨建てで見ると、各国の状況がより明確にわかり興味深いですね。

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