熱処理とは

熱処理とは、主に炭素の含まれる鋼鉄を加熱・冷却して組織を変化させることで、所望の性質を得られるようにする処理です。

熱処理は、焼入れ/焼きもどし、焼きなましなどの全体熱処理と、高周波焼入れ、窒化処理などの表面焼入れがあります。
ご都合に合わせてご要望ください。

全体熱処理

全体熱処理とは、部品全体を加熱して、冷却することで部品の組織に変化を生じさせるのが全体熱処理です。
焼入れ/焼きもどし、焼きなまし、焼きならし」が一般的です。

焼入れ/焼きもどし

焼入れとは、炭素の含まれる鋼鉄を加熱するとオーステナイトという組織に変化せてた後、急冷してマルテンサイトという硬い組織に変化させる熱処理です。
JIS記号で焼入れ(Quenching)はHQと表記されます。

焼入れを行うと硬くなりますが、その反面脆くなってしまい、そのまま部品として使用するには不向きですので、焼入れ時よりも低い温度にもう一度加熱して、ゆっくりと冷却することで粘り(靭性)を高める処理が焼もどしです。
JIS記号で焼もどし(Tempering)はHTと表記されます。

焼もどしによる再加熱の温度は高いほど硬さが減少し、粘りが増します。
高温で再加熱して硬さよりも粘りを増す手法を高温焼もど」、低温で再加熱して粘りよりも硬さを優先する手法が低温焼もどしです。
通常は、焼入れと焼もどしがセットで行われます(HQ/HT)。

また、焼入れ後に高温焼もどしを行い、硬さや強度、靭性などを調整する熱処理を調質」と呼びます。
特にS50Cなどの炭素鋼やSCM440などは、機械加工ができる程度に予め調質された調質材が多く利用されています。

各種材料メーカーよりプリハードン鋼(NAK55, DH2F, STAVAXなど)としても販売されています。
調質材の硬さはHRC30~40程度と、切削加工が可能な範囲に調整されて用いられることが多いようです。

焼きなまし

焼きなまし(焼鈍:しょうどん)とは、加熱した後に徐々に冷却することで組織が均一化され軟らかくなり、内部応力が除去されて切削性が向上する熱処理です。
JIS記号で、焼なまし(Annealing)はHAと表記されます。

アニール処理とも呼ばれます。

特に薄物の切削加工品などで、素材の状態や荒加工後に焼きなましを行い、歪みを抑えるために用いられる事が多いです。

焼きならし

焼きならし(焼準:しょうじゅん)とは、鋳造や鍛造、圧延など力を受けた状態で製造され素材の組織を、熱処理によって均一化・微細化して機械的性質を確保する手法です。

JIS記号で、焼ならし(Normarizing)はNRと表記されます。

表面熱処理

高周波焼入れ

高周波焼入れとは、交流電源による誘導加熱によって、表面部分だけ800℃以上に加熱する方法で主にシャフト形状やギア形状部品の硬さ向や耐疲労性の向上を目的に用いられます。

JIS記号で、高周波焼入れ(Induction Hardening)はHQI(Induction Hardening)で表記されます。

抵抗熱により部品表面が急速に加熱される原理を利用し、電熱用のコイルを部品に近接させてコイルに高周波誘導電流を通すことで表面付近のみ加熱します。その後、低温での焼もどしにより靭性を回復させます。

<特徴>
・高周波焼入れは表面のみ焼入れが行われますので、表面は硬くなり耐摩耗性などが向上しつつ、内部には靭性を備えた状態が残ります。
・部分的にしか熱が加わらないため、変形や寸法変化も少なくて済みます。
 シャフト形状などは、熱処理後に曲がり等の変形が生じる場合がありますので、プレス機等での歪取りが行われます。
・表面のみ焼入れされることで、表面に圧縮残留応力が発生し、耐疲労性が向上します。
・高周波焼入れによる表面の硬さは、通常の焼入れ/焼もどしよりもやや硬くなります。
・高周波焼入れは加熱時間が短時間で済むため環境にやさしい熱処理と言われています。
・全体焼入れと異なり、焼入れする部位や焼入れの深さを指定できるという特徴もあります。

窒化処理

窒化処理とは、部品の表面を窒素の化合物として硬さを高める手法で、ガス窒化、塩浴窒化、ガス軟窒化、イオン窒化などがあります。
オーステナイト化温度以下の温度域で、アンモニアや窒素を含んだ雰囲気中に暴露することで、表面近傍に窒素を浸透させて硬化させる処理です。
JIS記号で、窒化処理(Nitriding)はHNTと表記されます。

<特徴>
・処理温度を上げる必要がないため、処理後の熱処理が不要となり、変形等が生じにくいという特徴があります。
1000HV程度まで硬くなる窒化処理と、600HB程度の軟窒化処理に分かれます。
・窒化処理は、主に表面を固くして耐摩耗性を向上させる目的で利用されます。
・軟窒化処理は、主に耐疲労性を改善したい場合に利用されます。
・処理温度が低いため、調質鋼などでも内部の硬さを保持したまま表面の硬さを向上させることができます。
・SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレスにも利用される処理として知られています
・処理温度に応じて、窒化層の厚さと硬さが変化し、窒化層の厚さは概ね0.1~0.5mm程度となります。

1000HV程度まで硬くなる窒化処理と、600HB程度の軟窒化処理に分かれます。

浸炭処理

浸炭処理とは、浸炭剤を部品と一緒に加熱して、部品表面に炭素を拡散させ浸透させる熱処理です。

鋼鉄を焼入れするためには、炭素が必要となるため炭素鋼などの炭素含有量の多い鋼鉄は焼入れが可能ですが、低炭素鋼など炭素含有量の少ない鋼鉄は焼入れができません。
このような場合に、表面の炭素分を高めて焼入れを行う手法が浸炭処理です。
JIS記号では、浸炭処理(Carburizing)はHCと表記されます。

浸炭剤の種類に応じて、固体浸炭(炭)、液体浸炭(シアン化塩)、ガス浸炭(炭化水素系ガス)の手法があります。
浸炭処理は、高温で長時間加熱するため、部品の中心部の組織が変質します。このため、浸炭処理後には、焼入れ/焼もどし処理を行います。

<特徴>
・粘りがあり高炭素鋼に比べると安価で加工性に優れている低炭素鋼は通常硬さが劣ります。浸炭処理は表面だけ硬さを高めることができますので、低炭素鋼の良い部分を生かし、劣る部分を強化する事ができます。
主にS15Cなどの低炭素鋼や、SCM415などの炭素含有量の少ないものが用いられます。

・浸炭処理により得られる硬い層(硬化層)には、全体硬化層深さと有効硬化層深さの2種類の深さの規定があります。
有効硬化層深さは、「焼入れのまま又は200℃を超えない温度で焼もどしを行った時の表面から550HVとなる深さまでの距離」(JIS G 0559より)です。
全体硬化層深さは、素材そのものの硬さまでの距離となります。
有効深さは指定が可能ですが、熱処理業者によっては決まった範囲しか対応していないところも多いようです。
有効深さ0.3~1.5mm程度で処理されることが多いようです。

表面焼入れには他に、炎焼入れ(JIS記号でHQF)、電子ビーム焼入れ、レーザー焼入れもあります。

熱処理についてのお問い合わせ

上記以外の熱処理につきましても、お客様のご要望に合わせてご提案差し上げます。

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営業・技術担当 ⼩川宛
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