120 長時間労働は過去の話? - 平均労働時間の国際比較

日本人の多くは長時間労働をしているイメージもありますが、労働者全体の平均労働時間を計算すると既に先進国でも短い方になるようです。平均労働時間の意味や国際的な水準を確認してみます。

1. 平均労働時間とは

前回は、経済統計における付加価値について改めて考えてみました。
付加価値とは、「事業(仕事)を通じて付け加えられた金額的価値」=私達労働者の仕事の価値そのものですね。
付加価値の合計がGDPですし、ある期間あたりの付加価値が労働生産性となります。

これから労働生産性についても、取り上げていきたいのですが、その前に今回は労働時間について確認していきたいと思います。
労働生産性を考えるうえで、労働時間が重要な要素となるからです。

日本人は、働きすぎと言われることが多いですね。
私も、子供のころから日本人の長時間労働が社会問題化しているという話を聞いて育ちました。
「24時間戦えますか?」のCMも何となく覚えています。

労働生産性の計算には、平均労働時間が用いられます。
例えば、労働生産性の指標である労働時間あたりGDPは次の通りです。

労働時間あたりGDP = GDP ÷ 総労働時間 = GDP ÷ 労働者数 ÷ 平均労働時間

平均労働時間 = 総労働時間 ÷ 労働者数

ここで、総労働時間や労働者数の対象は、企業で働いている雇用者ばかりではなく、個人事業者も含みます。
また、雇用者の中にはフルタイム労働者もいれば、パートタイム労働者も含まれます。

平均労働時間とは、これらすべての労働者の年間の労働時間の平均値であるという事になります。

フルタイム労働者の労働時間の平均値ではないという事に注意が必要です。

2. 平均労働時間の国際比較

まずは先進国で日本人の平均労働時間がどの様な水準なのか見てみましょう。

平均労働時間 2019年

図1 平均労働時間 年間 2019年
(OECD統計データ より)

図1は先進国と言われるOECD各国の、労働者の年間平均労働時間です。

平均労働時間の長い国から順に並べています。
日本は1,644時間と、36か国中21番目の水準です。

現在は実は日本人の平均労働時間は、先進国の中でもやや短い方のようです。
OECDの平均は1,667時間、G7の平均は1,612時間です。

日本はイタリアやカナダ等よりも平均労働時間が短いようですね。
韓国が1,967時間と非常に長く、アメリカも比較的長く1,779時間、イタリアで1,718時間です。

やはりドイツや北欧諸国は労働時間が短いですね。
ドイツで1,386時間、デンマークでは1,380時間と日本人の8割くらいの時間しか働いていない事になります。

「日本人は働きすぎ」というイメージからすると、意外な結果ではないでしょうか。

もちろん、パートタイムなども含めた全労働者の平均労働時間になりますので、パートタイム労働者の割合の大きい日本では数値が小さくなりがちなのかもしれません。
さらに、日本企業の特徴である「サービス残業」は、当然ですがこの統計結果には入らないはずですね。

3. 平均労働時間の推移

日本人はブラック労働と言われるくらい、多くの時間働いているイメージでしたが、少なくとも最近はそれほど長い時間働いていないようです。
昔はどうだったのでしょうか?

時系列の推移についても見てみましょう。

平均労働時間 推移

図2 平均労働時間 推移
(OECD 統計データ より)

図2がOECD各国の平均労働時間の推移です。
青が日本、赤がアメリカ、水色がイギリス、緑がドイツ、紫がフランス、ピンクがカナダ、オレンジがイタリア、茶色が韓国です。

日本は1980年代まではやはり世界の中でも平均労働時間の長い国だったようですね。
例えば1980年では、アメリカが1,816時間に対して、日本は2,121時間と2割近く多く働いていたようです。

それが、2000年頃に逆転して、今ではアメリカの方が長く働いているようです。
グラフから見てわかる通り、日本人の労働者は1990年頃を境にして労働時間が短くなり、その後も減少し続けています。

その間に、アメリカやイタリア、カナダよりも労働時間が短くなっているわけですね。
ドイツやイギリス、北欧諸国は昔から労働時間が短かったようです。

4. 平均労働時間の特徴

日本はバブル崩壊を境に、急激に労働時間が短くなったという事が言えそうです。
日本は労働生産性(時間あたりの付加価値)が低い特徴がありますが、以前は長時間労働で何とかこなしていた側面があったのかもしれませんね。
平均労働時間が短くなる事で、年間の稼ぎがその分伸びなくなっているという事も言えそうです。

このデータはあくまでも労働者の平均労働時間ですので、パートタイム労働者も含まれています。
労働者の総労働時間を、全ての就労者数で割った数値という事になります。

一方でブラック労働と言われているように、一部の労働者は過大な長時間労働という負担が強いられている側面もあると思います。
日本は経済が停滞する中で、需要(仕事)が少ないため、結果的に働く時間も短くなっているという事も言えるかもしれません。

日本の平均労働時間は、OECDの平均値と同じくらいでアメリカやイタリアを下回りますが、ドイツやフランス、イギリスなどはさらに労働時間が短いというのも特徴的です。
しかし、これらの国々は、年間に稼ぐ1人あたりGDPは日本より多いです。

仕事の価値が低いという日本経済の特徴は、この平均労働時間にもよく表れているのではないでしょうか。

皆さんはどのように考えますか?

参考:就業形態別の労働時間

今回ご紹介したデータは、パートタイム労働者も含めた年間の平均労働時間です。

毎月勤労統計調査では、一般労働者とパートタイム労働者に分けて労働時間を集計しています。

平均労働時間

図3 総労働時間
(毎月勤労統計調査より)

図3は、事業所規模別、就業形態別の総労働時間です。
年平均の月間の労働時間となります。

就業形態計では、図2のように年々労働時間が減少している事がわかりますね。
一方で一般労働者に限ってみると、確かにやや減少はしていますが、大きくは変わらないようです。
むしろパートタイム労働者の方が月間の平均労働時間が減少傾向なのが興味深いですね。

パートタイムで働く女性や高齢の労働者が増えた事で、合計での平均労働時間が減少しているという面もあるようです。

この就業形態計の総労働時間を12倍して1年間の平均労働時間とすると、ほぼ図2の推移と一致します。

参考:現役世代男性の労働時間

OECDでは1日の時間の使い方という興味深い統計データも公開されています。

1日の時間の使い方 男性 15~64歳

図4 1日の時間の使い方 男性 15~64歳
(OECD統計データより)

一方で、OECDでは図4のような1日の時間の使い方という統計データも公表されています。
図4は15~64歳の男性についてですが、日本は先進国で2番目に労働時間が長いという結果になっています。

無償労働は家事やボランティアですが、日本は先進国で最も短いという結果です。

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