166 フローからストックの停滞へ
1. 資産が増え続けるアメリカ、イギリス
前回までは、住居、機械設備、一般建造物などの生産資産について、1人あたりのドル換算値を比較してきました。
日本はいずれの生産資産についても、1990年代後半までは非常に高い水準を保っていましたが、その後は停滞しています。
停滞が続く中で、国際的な水準も低下していき、住居は今や先進国下位、機械設備は中程度、一般建造物は平均よりやや上といった水準となっています。
日本の場合は、GDPが停滞していて、このような生産資産のフロー面となる総固定資本形成も停滞しています。
建造物などの生産資産は、耐用年数が定められていて、年々その価値が目減りしていきますね。
その目減り分よりも、フローが少ないと、その蓄積である生産資産も減少していきます。
今回は、各国の通貨ベースでの推移を見ることで、生産資産が増えているのか、減っているのかという部分に着目してみたいと思います。

図1 生産資産 推移 アメリカ
(OECD 統計データ より)
図1が、アメリカの生産資産の推移を示したグラフです。
全体的に右肩上がりである事がわかりますね。
住居と一般建造物が概ね同じくらいの水準です。
住居は2006年ころから変調が始まり、2009年を底にしてまた上昇基調ですね。
リーマンショックの発端である住宅バブルの発生と崩壊の状況が垣間見れます。
2009年には一般建造物と機械設備が減少に転じています。
リーマンショックの影響と考えてよさそうですね。
各生産資産の1997年からの変化量は次の通りです。
アメリカ 生産資産 成長率
1997年→2018年
住居: 2.8倍
機械設備: 2.0倍
一般建造物: 2.9倍
知財: 2.8倍
(GDP: 2.5倍)

図2 生産資産 推移 カナダ
(OECD 統計データ より)

図3 生産資産 推移 イギリス
(OECD 統計データ より)
図2がカナダ、図3がイギリスのグラフです。
両国ともG7の中ではGDPの成長も大きい国です。
アメリカ同様両国とも住居と一般建造物が近い水準で、大きく成長している事がわかります。
一方で、機械設備は水準も小さく、成長率も高くなさそうですね。
カナダ 生産資産 成長率
1997年→2019年
住居: 3.6倍
機械設備: 1.8倍
一般建造物: 3.4倍
知財: 3.4倍
(GDP: 2.5倍)
イギリス 生産資産 成長率
1997年→2019年
住居: 3.3倍
機械設備: 1.6倍
一般建造物: 3.2倍
知財: 2.7倍
(GDP: 2.3倍)
各国ともこの20年程度にこれだけの資産を増大させていることになります。
これらの国はGDPの成長率も極めて高い事がわかります。
2. 低成長な各国の資産
同様に、G7の中で比較的低成長なドイツ、フランス、イタリアについても生産資産の推移を見てみましょう。

図4 生産資産 推移 ドイツ
(OECD 統計データ より)
ドイツ生産資産 成長率
1997年→2019年
住居: 1.9倍
機械設備: 1.6倍
一般建造物: 1.6倍
知財: 2.4倍
(GDP: 1.8倍)

図5 生産資産 推移 フランス
(OECD 統計データ より)
フランスは一般建造物よりも住居の方がかなり大きな規模となるようです。
フランス 生産資産 成長率
1997年→2019年
住居: 2.4倍
機械設備: 1.8倍
一般建造物: 2.1倍
知財: 2.3倍
(GDP: 1.9倍)

図6 イタリア 生産資産 推移
(OECD 統計データ より)
イタリアは2011年あたりから変調がありますね。
フロー面もリーマンショックから大きく停滞している国です。
イタリア 生産資産 成長率
2000年→2019年(住居、GDPは1997年→2019年)
住居: 2.0倍
機械設備: 1.4倍
一般建造物: 1.7倍
知財: 1.9倍
(GDP: 1.6倍)
3. 成長著しい韓国は資産も激増
G7以外の国についても見てみましょう。

図7 生産資産 推移 韓国
(OECD 統計データ より)
韓国は極めて高い成長率を誇っています。
特に一般建造物の規模も成長率も大きい事に驚きますね。
韓国 生産資産 成長率
1997年→2019年
住居: 5.5倍
機械設備: 2.9倍
一般建造物: 5.2倍
知財: 8.4倍
(GDP: 3.5倍)

図8 生産資産 推移 スウェーデン
(OECD 統計データ より)
北欧のスウェーデンも非常に高い成長をしていますね。
スウェーデン 生産資産 成長率
1997年→2019年
住居: 3.6倍
機械設備: 2.7倍
一般建造物: 3.0倍
知財: 2.8倍
(GDP: 2.5倍)
4. ストックも停滞が続く日本
それでは、改めて日本のグラフも見てみましょう。

図9 生産資産 推移 日本
(OECD 統計データ より)
図9が日本のグラフです。
他の国と比べれば明らかに停滞している事がわかりますね。
住居は1997年あたりから、機械設備は1992年あたりから停滞しているように見えます。
このあたりのタイミングもGDP総固定資本形成の停滞タイミングと一致します。
一方、一般建造物は緩やかな増加が続いていますね。
一般建造物へのフローも他と同様に減少しているはずですが、ストック面では増大しています。
恐らく、一般建造物の耐用年数は総じて長いはずですので、資産価値を蓄積しやすいという特徴が出ているのかもしれません。
日本 生産資産 成長率
1997年→2018年
住居: 1.0倍
機械設備: 0.9倍
一般建造物: 1.2倍
知財: 1.5倍
(GDP: 1.0倍)
機械設備は増えるどころかむしろ減少しているというのが、とても印象的です。
フロー面の成長が止まれば、当然ストック面も停滞するというのが良くわかりますね。
蓄積した資産が、停滞によりその価値を相対的に減じているというのが、今の日本の姿と思います。
このまま停滞が続けば、さらに加速的に世界の中での存在価値が低下していくように思います。
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