268 金融勘定で見る日本経済 - 企業の挙動と政府のリアクション

1. 金融勘定とは?

前回までは、G7各国の金融資産・負債残高の比較をしてみました。
バブル崩壊までの日本経済の特殊性や、その後の変化が見えてきた気がします。
金融資産・負債残高はストック面となりますので、株式などは時価評価となります。
過去の金融資産の値上がりなどで時価額が変化しますので、実態が掴みにくい部分もありますね。

今回からは、各経済主体の金融勘定(フロー面)に注目してみたいと思います。
各経済主体のその都度の挙動がより明確に表現されると思います。

以前は金融資産と負債の増減に注目してみましたが、今回はさらに踏み込んでより詳細の変化を見てみましょう。
是非前回のグラフと照らし合わせながらご覧いただければと思います。
 参考記事: 資金過不足って何?

また、金融勘定の取引項目については、是非下記記事にてご確認下さい。
 参考記事: 資金循環って何?

経済主体: 家計、企業、政府、海外、金融機関
取引項目: 現金・預金、貸出、債務証券、株式等、保険・年金・定型保証、対外直接投資、対外証券投資、その他

金融勘定は、1年間の金融資産や負債の増減の記録となりますので、資金過不足への寄与の仕方として次の4パターンが考えられます。
(1) 金融資産増える → 資金過不足プラス寄与
(2) 金融資産減る → 資金過不足マイナス寄与
(3) 負債増える → 資金過不足マイナス寄与
(4) 負債減る → 資金過不足プラス寄与

今回は従来通り、金融資産は青・緑系、負債は赤・橙系の色として表現します。

2. 家計の金融勘定

それでは、まずは家計の金融勘定から見ていきましょう。

日本 家計 金融勘定

図1 日本 家計 金融勘定
(日本銀行 資金循環統計 より)

図1が日本家計金融勘定のグラフです。

1999年頃まで、2000~2011年で、2012年以降で傾向が異なるようです。

1999年頃までは、負債(主に貸出、一般的には負債なので借入)を増やし、金融資産も大きく増えています。
特に現金・預金(青)が増えていますが、保険・年金(水色)もかなり大きな割合を占めていますね。

2000~2011年は、負債のうち貸出(赤)がプラス側です。
プラス寄与なので、家計がそれだけ負債を減らしているという挙動になります。
新規で借入が増える分よりも、返済などで減る分の方が多い事を意味します。
この辺りは企業も同様の挙動が見られますが、家計も負債を減らしていたわけです。

2012年以降は再度負債が増え、金融資産のうち現金・預金も増えるような挙動に戻っています。
ただし、負債のうち貸出や、金融資産のうち現金・預金の水準はかつてほど高くないですね。
更に保険・年金が大きく減少しているのも特徴的です。
差し引きの資金過不足では、黒字主体であることは継続していますが、かつてほどの水準ではありません。

また、他国との比較で明らかになると思いますが、金融資産のうち株式等の存在感が薄いのも日本の家計の特徴ですね。
そして、金融資産残高では現金・預金ばかりが積みあがっているのも、この金融取引から見てもよくわかります。

3. 企業の金融勘定

続いて企業の金融勘定を見てみましょう。
日本の経済主体で最も変化しているはずですので、注意深く眺めてみたいと思います。

日本 非金融法人企業 金融勘定

図2 日本 企業 金融勘定
(日本銀行 資金循環統計 より)

図2が日本企業金融勘定のグラフです。

1989年までは企業は負債側の貸出を大きく増やし、金融資産も増大させていました。
バブル崩壊により、1989年→1990年で極端に収縮している様子がわかりますね。
その後も1993年頃まで、負債を増やしますが、一方で金融資産を減らし始め、差引としては大きく赤字主体であることを継続します。

1994年から急激に赤字水準が縮小し、1998年から黒字主体化しています。

1998年から2010年頃までが、負債のうち貸出を減らす挙動が見られます。
この挙動が主要国の中では特殊な部分ですね。
ところどころ金融資産を減らしていますが、多くは企業間・貿易信用です。
これは手形等を回収している事を意味していると思います。
つまり、この期間は企業は取引を収縮させ、借入金の返済、手形の回収が進んだ時期であることがわかります。

2011年以降は、負債が増え、金融資産も増えていますので、また局面が変化しているようです。
ただし、大きく黒字主体であることは変わりません。

金融資産増加分の構成をよく見ると、現金・預金(青)が増えているのに加え、対外直接投資(紫)も大きく増加しています。
企業が国内への事業投資ではなく、海外への直接投資(再投資を含む)を増やしている様子が可視化されていますね。

4. 政府の金融勘定

続いて政府の金融勘定を眺めてみましょう。
企業や家計の変化を受けて、政府の挙動も変化しているはずです。

日本 一般政府 金融勘定

図3 日本 政府 金融勘定
(日本銀行 資金循環統計 より)

図3が日本政府金融勘定のグラフです。

基本的には赤字主体ですが、1992年にかけて黒字主体化していた時期もあるようです。
1992年から赤字主体化し、主に債務証券(橙)が増えている様子がわかります。
債務証券の多くは国債です。
特に企業の変化が著しくなる1998年に、極端に負債のうち債務証券を増やしています。
2001~2008年にかけては財政融資資金預託金を減らしている様子や、2004年以降では負債のうち貸出を減らしている挙動も見られます。

1992~2004年(特に1998~2004年)までは資金過不足の赤字水準が大きい時期が続きますが、明らかにバブル崩壊を受けた変化で、企業が黒字主体化している時期と重なることがわかりますね。

企業や家計の挙動変化へのリアクションとして、政府が負債を増やしているような状況のように見受けられます。

5. 海外の金融勘定

続いて海外の金融勘定を見てみましょう。

日本 海外 金融勘定

図4 日本 海外 金融勘定
(日本銀行 資金循環統計 より)

図4が日本に対する海外金融勘定のグラフです。

1981年以降赤字主体が続いています。
海外は日本に対して負債を増やし続ける主体であることが確認できます。

1989年までは負債側の貸出が大きく増えていましたが、1990年からはそれを減らす方向に変化しています。
金融資産のうち現金・預金(青)、貸出(薄青)も減らす方向に変化していますね。
負債のうち対外証券投資(ピンク)、対外直接投資(紫)は一貫して増え続けています。
特に対外直接投資は2005年頃から本格的に増え始めています。

企業の金融資産側の対外直接投資側とほぼ符合する推移となっていることも確認できますね。

近年では、金融資産側では株式等、債務証券、貸出の増え方が大きいようです。
すでに金融取引の規模ではバブル期を超えていますが、基本的に日本から見た海外は赤字主体で、純金融負債を増やす存在のようです。

6. 金融機関の金融勘定

最後に金融機関の金融勘定を見てみましょう。

日本 金融機関 金融勘定

図5 日本 金融機関 金融勘定
(日本銀行 資金循環統計 より)

図5が日本金融機関金融勘定のグラフです。

まずプラスとマイナスがほぼ均衡していて、差し引きの資金過不足はほぼゼロで推移していることが確認できますね。
そして、金融資産・負債の取引規模が、家計や企業が数十兆円程度だったのに対して、金融機関は100兆円を超えることが多いようです。

1989年までにかけて拡大していましたが、バブル崩壊で一気に収縮しています。
それまでは主に、金融資産側の貸出(他者の借入金、薄青)と、負債側の現金・預金(他者の金融資産、赤)が増えていたようです。

その後全体的に取引規模の収縮状態が続いた後に、1998年頃から負債と金融資産が「減少」する挙動が見受けられるようになります。
減少する金融資産は主に貸出と、負債側は財政融資資金預託金です。
貸出は主に企業と家計の負債が減っている事と、財政融資資金預託金は政府の金融資産が減っている事と符合しますね。

2011年あたりから、負債と金融資産が拡大する状態に戻ってきたようです。

7. 日本の金融勘定の特徴

今回は日本の経済主体ごとの金融勘定を眺めてみました。

やはり、バブル・バブル崩壊を機に進んだ変化が大きいように思います。

特に企業では、バブル期に膨らんだ借入を減少させ、黒字主体化するという挙動が見られます。
その後も、対外直接投資を増やす事で、黒字主体であり続けています。

家計は黒字主体が継続していますが、かつての水準からはかなり目減りしています。

政府は、この変化の間に負債を増やし、この時増えた負債が今の国債残高の中でも大きな割合を占めていることになりますね。

2011年以降で、どの経済主体もバブル崩壊前のような状況に戻りつつあるように見えますが、変質した企業が今後どのような挙動になっていくのか、大変興味深いところですね。

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