298 工業の平均時給 - 比較的高い日本の水準

1. 工業の平均時給

前回は平均時給に相当する労働時間あたり雇用者報酬について国際比較してみました。
生活実感に近い購買力平価でドル換算した数値で比較すると、日本は2021年で28.3ドルとなり、OECD33か国中21位、G7中最下位、OECD平均値35.9ドルを大きく下回る立ち位置のようです。
アメリカ(48.9ドル)、フランス(49.2ドル)、ドイツ(48.6ドル)と比べても大きな差がついています。

今回からはもう少し詳細に産業ごとの平均時給についてご紹介していきます。
また、OECDの産業区分についても、国際標準産業分類(ISIC REV4)との対応を改めてご紹介します。

まず、今回は比較的生産性の高い工業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)についてです。

労働時間あたり雇用者報酬 日本

図1 労働時間あたり雇用者報酬
(OECD統計データより)

図1が、日本の各産業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)の推移です。

労働時間あたり雇用者報酬は、産業別の雇用者報酬(Compensation of employees)を、産業別の総労働時間で割った数値です。
本来であれば、雇用者報酬ではなく賃金(Wages and salaries)を利用すべきですが、日本の産業別賃金が公開されていないため、雇用者報酬を用いています。
雇用者報酬は、労働者に分配される賃金に、企業側の負担する社会保険料などの雇主の社会負担(Employers' social contributions)を加えたものです。
企業側から見た人件費に相当すると考えれば良いと思います。

また、この統計には個人事業主(Self employment)は含まれず、雇用者(Employees)の数値となります。
OECDの統計データでは、労働者(Employment) = 雇用者 + 個人事業主となりますが、今回は雇用者に限った統計データとなります。

工業(赤)は、全産業の平均値(黒)よりやや高い水準が続いて言いますね。
金融保険業や情報通信業よりはかなり低く、近年では専門サービス業、建設業、公務・教育・保健と同程度です。

1990年代後半から横ばい傾向が続いていましたが、2010年あたりから上昇傾向となっていて、2021年には3,100円くらいです。

2. 工業とは何なのか?

OECDの統計上の産業区分である工業には、そもそもどのような業種が含まれるのでしょうか。
まずは改めてご紹介したいと思います。

OECDの産業区分では、B~E Industry, including Energyと表記されます。
このB~Eというアルファベットは、国際標準産業分類(ISIC: International Standard Industrial Classification of All Economic Activities)に基づくものと考えられます。
この国際標準産業分類における項目との対応をご紹介します。

なお、日本語表記は下記サイトを参照しています。
国際連合 Classification on economic statistics ISIC rev4 Jp

表1 工業の産業区分

OECD 産業区分ISIC REV4 大分類ISIC REV4 中分類
B-E 工業
Industry, including Energy
B 鉱業及び採石業
Mining and quarrying
05 石炭・亜炭鉱業
06 原油及び天然ガス再修業
07 金属鉱業
08 その他の鉱業及び採石業
09 鉱業支援サービス業
C 製造業
Manufacturing
10 食料品製造業
11 飲料製造業
12 たばこ製造業
13 織物製造業
14 衣服製造業
15 皮革及び関連製品製造業
16 木材、木製品及びコルク製品製造業
 (家具を除く)
 わら及び編み物素材製造業
17 紙及び紙製品製造業
18 印刷業及び記録媒体複製業
19 コークス及び精製石油製品製造業
20 化学品及び化学製品製造業
21 基礎医薬品及び医薬調合品製造業
22 ゴム及びプラスチック製品製造業
23 その他の非金属鉱物製品製造業
24 第一次金属製造業
25 金属製品製造業
 (機械器具を除く)
26 コンピュータ、電子製品、光学製品製造業
27 電気機器製造業
28 他に分類されない機械器具製造業
29 自動車、トレーラ及びセミトレーラ製造業
30 その他の輸送用機械器具製造業
31 家具製造業
32 その他製造業
33 機械器具修理・設置業
D 電気、ガス、上記及び空調供給業
Electricity, gas, steam and air conditioning supply
35 電気、ガス、上記及び空調供給業
E 水供給業、下水処理並びに廃棄物管理及び浄化活動
Water supply; sewerage, waste management
and remediation activities
36 水収集・処理・供給業
37 下水処理
38 廃棄物収集・処理・処分活動、材料再生業
39 浄化活動及びその他の廃棄物管理業務

この工業の大部分は製造業となります。
OECDのデータによれば、2021年のGDPを見ると工業は128兆円で、そのうち製造業は113兆円となります。
また、労働者数(Total employment)では、工業が1,107万人で、そのうち製造業は1,044万人となります。

ISIC REV4の産業分類については、下記サイトにもまとめていますのでご参照いただければ幸いです。
 参考記事: 国際標準産業分類

3. 工業の平均時給の推移

それでは、工業の労働時間あたり雇用者報酬について、時系列での変化を眺めてみましょう。

まずは為替レート換算値からです。

労働時間あたり雇用者報酬 工業 名目 為替レート換算

図2 労働時間あたり雇用者報酬 工業 為替レート換算
(OECD統計データより)

図2が工業の労働時間あたり雇用者報酬の為替レート換算の比較です。
年間の数値では日本は1990年代に極めて高い水準に達するのですが、労働時間あたりの数値だとピークでもドイツを下回るのが印象的です。

日本はその後横ばい傾向が続き、2010年代からはOECD平均値やイタリアの水準を下回りますね。

労働時間あたり雇用者報酬 工業 名目 購買力平価換算

図3 労働時間あたり雇用者報酬 工業 購買力平価換算
(OECD統計データより)

図3がより生活実感に近い購買力平価換算の推移です。
購買力平価換算では、アメリカとの物価比率分だけ調整されますので、日本の1990年代の高水準は打ち消されます。
また、国内物価が停滞していてもアメリカの物価が上昇している限り、換算値は上昇傾向となる点にも注意が必要です。

日本は購買力平価換算だと右肩上がりに成長しているようなグラフとなりますが、他国よりも低い水準が続いています。
2008年頃からOECDの平均値を下回り、他の主要先進国との差が開いていくのが良くわかりますね。

日本の工業の平均時給は、一般的な産業よりも高い水準ではありますが、主要先進国の中ではかなり低い水準となるようです。

4. 工業の平均時給の国際比較

最後に、OECD各国の最新の水準について比較してみましょう。

労働時間あたり雇用者報酬 工業 名目 勾配y六平価換算 2021年

図4 労働時間あたり雇用者報酬 工業 購買力平価換算 2021年
(OECD統計データより)

図4は工業の労働時間あたり雇用者報酬について、2021年の購買力平価換算値を比較したグラフです。
黒丸は各国の全産業平均値となります。
各国での給与水準の比較ですので、本来は民間最終消費支出ベースの購買力平価を用いるべきところですが、よりわかりやすさを優先してGDPベースの購買力平価で換算しています。

日本は27.9ドルで、全産業平均値をやや上回ります。
OECD30か国中18位で、全産業平均値が19位だったことと比べると順位はやや上がっていますね。
ただし、OECDの平均値を下回り、ドイツ(56.5ドル)やフランス(49.7ドル)、アメリカ(51.2ドル)などと比較すると随分と低い水準のようです。

労働時間あたり雇用者報酬 工業
購買力平価換算 2021年 単位:ドル 30か国中
1位 60.3 ベルギー
3位 56.5 ドイツ
5位 51.2 アメリカ
7位 49.7 フランス
12位 42.0 イギリス
14位 37.6 イタリア
19位 27.9 日本
平均 34.6

工業は一般的に生産性や給与水準の高い産業と言われますが、図4を見ても概ね当てはまりそうです。
ただし、ルクセンブルクやアイルランド、ポルトガルなど、平均値を下回る国もいくつかあるようです。

5. 工業の平均時給の特徴

今回は、工業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)についてご紹介しました。

日本の工業は、全産業平均値よりもやや高い水準ですが、国際比較すると大分低い水準となります。
最新の状態ではOECDの中でも低い順位ですが、産業間で見ると全産業平均値よりは上位となります。

日本の工業は労働者数も国内総生産(GDP)も減少しています。
工業の労働者数が減少傾向にあるのは各国共通ですが、GDPまで減少しているのは日本くらいです。
 参考記事: 工業の縮小する工業立国日本
 参考記事: 労働者数が増える産業とは?\

産業別 労働者数 シェア 2019年

図5 産業別 労働者数シェア 2019年
(OECD統計データより)

日本の工業の労働者は減少傾向と言えど、2019年では全体の17%程度を占め、労働者数の多い産業です。
比較的生産性や給与水準が高く、労働者数の多い稼ぎ頭の産業とも言えそうです。

非常に重要な産業と言えますが、2022年に円安が急激に進んだり、自動車産業のEVシフトが加速するなど環境の変化も著しいですね。
今後の変化に注目していきたいと思います。

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