198 労働者が増える産業とは? - 産業別労働者数の推移
主要先進国の産業別労働者数の推移を可視化してみます。各国で公共的な産業の労働者数が多いのが特徴的です。
目 次
1. 労働者数の推移
前回は、長期の物価推移について、GDPデフレータと消費者物価指数の比較をしてみました。
日本は1970年を基準とした長期の推移でも、この2指標は停滞し、さらにGDPデフレータが大きく下振れをしている状況です。
企業間取引が含まれるGDPデフレータの方が上がりにくいという事情もあるのかもしれませんね。
今回は、労働者の人数について注目していきたいと思います。
労働者数は統計データによっていろいろと集計の仕方が異なると思いますが、今回はOECDの統計データ(Population and employment by main activity)を利用します。
図1 労働者数 成長率 G7+韓国
(OECD統計データ より)
図1が主要国の労働者数(Total employment)の成長率です。
これまでも見てきた通り、日本は2009年ころから人口減少局面に入っていますが、労働者数は全体としては横ばい傾向です。
以前ご紹介した通り、現役世代の男性労働者が減った一方で、主に女性や高齢の労働者が増えたためです。
人口が停滞中のドイツでも労働者数は増加傾向していますね、イギリスや韓国も増えています。
一方でフランスやイタリアはリーマンショック以降停滞気味です。
2. 日本の産業別労働者数
それでは、各国について産業ごとの労働者数の推移をみていきましょう
どのような産業で働く人が多いのか、そして増加傾向なのか減少傾向なのか確認していきます。
図2 産業別 労働者数 日本
(OECD統計データ より)
図2が日本の産業別労働者数を表したグラフです。
ISIC rev4に従った区分となります。
農林水産業: A 農業、林業、漁業
工業: B 鉱業、 C 製造業
建設業: F 建設業
一般サービス業: G 卸売り・小売り・自動車修理業、H 運送・倉庫業、I 飲食業
情報通信業: J 情報通信業
金融保険業: K 金融・保険業
不動産業: L 不動産業
専門サービス業: M 専門・科学・技術サービス、 N 業務・支援サービス
公務・教育・保健: O 公務・防衛・社会保障、P 教育、 Q 健康・福祉
その他サービス業: R 芸術・娯楽、 S その他サービス業、 T 分類されない個人事業、 U その他
日本の場合は、最大産業である工業の労働者数が1200万人を切っており、近年では3番目の労働者規模です。
最も労働者数が多いのが一般サービス業、次いで公務・教育・保健です。
一般サービス業は人数が停滞しやや減少気味ですが、公務・教育・保健の労働者数が大きく増加しています。
専門サービス業が増加し、建設業が減少しています。
情報通信業は人数は少ないですが、増加傾向のようです。
3. アメリカの産業別労働者数
次はアメリカです。
図3 産業別 労働者数 アメリカ
(OECD統計データ より)
図3がアメリカのグラフです。
日本と異なり、公務・教育・保健の労働者が圧倒的に多く、しかも増加しています。
2020年で各産業の労働者が減少しているのは、コロナ禍の影響とみてよさそうですね。
2009年にもリーマンショックの影響と思われる減少が見られます。
工業は大きく減少し、専門サービス業がやや増加しているのは日本と同じような傾向ですね。
4. カナダの産業別労働者数
次はカナダの産業別労働者数の推移です。
図4 産業別 労働者数 カナダ
(OECD統計データ より)
図4がカナダのグラフです。
アメリカと同様に公務・教育・保健の人数が多く増加傾向ですが、一般サービス業の人数も多く増加しています。
工業の労働者数が減り、専門サービス業の労働者が増えているのは共通ですね。
日本やアメリカと異なって建設業の労働者が増えているのが特徴的です。
5. ドイツの産業別労働者数
次はドイツの産業別労働者数の推移です。
図5 産業別 労働者数 ドイツ
(OECD統計データ より)
図5がドイツのグラフです。
最も人数が多いのが公務・教育・保健で、しかも大きく増加しています。
専門サービス業の増加が著しいですね。
工業は一度人数が減っていますが、その後は停滞しながらも近年はやや増加傾向のようです。
一般サービス業や専門サービス業は増加していますね。
建設業も一度減少していますが、2006年あたりからやや増加傾向に転じています。
6. イギリスの産業別労働者数
次はイギリスの産業別労働者数です。
図6 産業別 労働者数 イギリス
(OECD統計データ より)
図6がイギリスのグラフです。
ドイツと同様で公務・教育・保健の労働者数が最も多く、大きく増加傾向が続いていますね。
一方で工業は大きく減少していて、2000年時点に対して100万人以上減っています。
一般サービス業はやや増加傾向です。
専門サービス業は大きく増えていて、工業と逆転しています。
イギリスでは工業のGDPシェアも大きく減少しているのが特徴です。
7. フランスの産業別労働者数
次はフランスのデータです。
図7 産業別 労働者数 フランス
(OECD統計データ より)
図7がフランスのグラフです。
やはり公務・教育・保健と専門サービス業が大きく増加し、工業が減少しています。
フランスは公務・教育・保健の労働者数が以前から多いのが特徴ですね。
2番目の規模の一般サービス業は停滞気味です。
建設業は2009年をピークにやや減少しています。
8. イタリアの産業別労働者数
次はイタリアの産業別労働者数です。
図8 産業別 労働者数 イタリア
(OECD統計データ より)
図8がイタリアのグラフです。
ドイツやフランスと様相が異なりますね。
公務・教育・保健の人数が比較的少なく、しかも停滞気味です。
一般サービス業が2019年まで最大規模で、しかも増加傾向です。
2020年にはコロナ禍の影響なのか、減少している様子が見て取れます。
工業は2008年からの推移ですが、一度減少し、やや増加傾向になっているようです。
専門サービス業が増加、建設業が2009年以降大きく減少しています。
その他サービス業の労働者数が多いことも特徴です。
9. 韓国の産業別労働者数
続いて韓国のデータを見てみましょう。
図9 産業別 労働者数 韓国
図9が韓国のグラフです。
一般サービス業が突出して多く、停滞気味です。
工業は停滞気味ですがやや増加しています。
公務・教育・保健は大きく増加していて、2004年の2倍近くに増えています。
専門サービス業も大きく増加しています。
農林水産業が他国と比べると人数が多かったのですが、やや減少傾向ですね。
10. 産業別労働者数の特徴
今回は、産業ごとの労働者数についてご紹介しました。
主要国の変化のポイントが見えてくるのではないでしょうか。
概ね次のような傾向が見て取れるのではないかと思います。
・ 工業の労働者数が停滞もしくは減少している
・ 公務・教育・保健の労働者数が大きく増加している
・ 専門サービス業の労働者数が増加している
・ 建設業の労働者数が停滞もしくは減少している
ドイツ、イギリス、フランスでは公務・教育・保健と公共性の高い産業の労働者数が多く、しかも大きく増えています。
日本も増えていますが、水準としては少ない方と言えますね。
よく日本は公務員が少ないと言われますが、そいういった面も反映されているように思います。
工業については、アメリカ、イギリス、フランスで減少していますが、リーマンショックを機に減少傾向に歯止めがかかっているように見受けられます。
日本は一度減少してから停滞しています。
どのような産業に労働者が多いのかというのは、国の経済の形を見るうえでも非常に重要な観点と思います。
特に公共性のある産業と専門的・業務支援的な産業で労働者が増えているのが特徴的ですね。
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