069 負債が増えない日本企業 - 金融資産・負債残高の推移
企業は本来負債を増やして事業投資をして、生産性を向上させ、付加価値とその分配を増やす主体です。金融資産・負債残高を見ると、日本の企業は借入をむしろ減らしている期間があったようです。
1. 企業の金融資産・負債残高
前回は、日本銀行の資金循環統計の中で家計、企業(非金融法人企業)、金融機関、政府、海外の経済主体のうち、家計についての金融資産、負債及びその正味の金融資産・負債差額について取り上げました。
家計の金融資産は増大を続け、負債が停滞していることから、金融資産・負債差額(純金融資産)は1,500兆円という規模まで積みあがっているという状況が明らかとなりました。
この中には、年金受給権など実際には保有していない分も金融資産として計上されていますが、現金・預金だけ見ても900兆円という規模に達しています。
また、貯蓄の約7割は60歳以上の高齢層が保有していますが、資産のある層とゼロ貯蓄層とで二極化しているような状況です。
家計全体では豊かになっていますが、世代間、世代内の資産格差が広がっている状況ともいえそうですね。
詳しくは日本銀行の統計データをご参照ください。
参考URL: 日本銀行 資金循環 統計データ
今回は、もう一方の経済の主役ともいえる、企業(非金融法人企業)の金融資産や負債ついてご紹介します。
企業は、投資を行って生産能力を高め、付加価値とその分配を増やしていく主体ですね。
金融資産や負債の面で見れば、借入などの負債が増えていくはずです。
図1 非金融法人企業 金融資産・負債 積上
(日本銀行 資金循環統計 より)
図1が日本の企業の金融資産と負債の積上げグラフです。
金融資産のグラフ(青系)をプラスに、負債のグラフ(赤系)をマイナスとしています。
金融資産と負債の差し引きである金融資産・負債差額(純金融資産)を黒い折れ線グラフで表現しています。
企業は2018年では金融資産が1,245兆円、負債が1,907兆円となり、金融資産・負債差額は-662兆円です。
家計が右肩上がりであったのに対して、企業は全体的に横ばいな印象がありますね。
他国では、主に企業が純金融負債を増加させていき、家計が純金融資産を増やすというのが基本形となるようなのですが、日本の場合は企業が純金融負債を増やしていない事になります。
2. 項目別の金融資産・負債残高
詳細の項目ごとの推移も見ていきましょう。
図2 非金融法人企業 金融資産・負債 詳細
(日本銀行 資金循環統計 より)
図2が資産・負債の詳細項目についてのグラフです。
金融資産(青、緑系)はプラス側、負債(赤、橙系)はマイナス側で表現しています。
資産側を見ると、現金・預金(青)は少しずつ増加していて、2018年で約300兆円くらいです。
もう一つ右肩上がりなのが、対外直接投資(薄緑)ですね。
日本企業の海外事業が増えている様子がここにも表れていますが、2018年で約140兆円となります。
企業間・貿易信用(水色)という聞きなれない項目がありますが、資金循環統計では次のように定義されているようです。
「財・サービスの経常的な取引に伴って、非金融部門に格付けされる主体間(国内と海外の取引を含む)で発生する債権・債務。」
手形等も含めてのある時点での売掛金・買掛金と考えればよさそうです。
企業間・貿易信用は資産で約240兆円、負債で約210兆円となり、ほぼ相殺されます。
負債側を見ると、まず金融機関からの借入金を示す貸出(赤)が1994年をピークに減少し、近年やや増加傾向ながら停滞を続けています。
2018年では約500兆円くらいです。
負債に計上されている貸出は、本来は借入と表記すべきと思いますが、資金循環統計では資産側でも負債側でも貸出で統一表記しているようです。
株式等(オレンジ)が負債側にも計上されていて、アップダウンしています。
資金循環統計では株式等は以下のように定義されているようです。
「株式等は、法人に対して出資された資金を計上する項目である。資本金、資 本剰余金といった拠出資本を、法人の出資者に対する債務とみなして、当項目 に計上している。これに対し、法人の純財産(資産-負債)のうち、利益剰余金として計上される稼得資本は、原則として、資金循環統計の記録対象とはな らない。」
企業の負債扱いとなっているのはやや違和感を覚えますが、企業の所有者である株主に対する負債という事になるわけですね。
逆に、株主から見れば、自分の所有している株式分だけ、企業に対する金融資産を保有している事になります。
2018年では約1,000兆円程度となります。
3. 企業の金融資産・負債の特徴
私たちの経済は本来、企業が負債を増やして設備等を投資し、生産能力を高めて付加価値と利益を増やし、労働者や株主に分配して、さらに消費が増え・・・という形で発展するものだと思っていたのですが、日本における企業の状況は少々異なるようです。
金融資産・負債差額でも、負債計上されている株式(約1,000兆円)を除外すればプラスになります。
また、資金循環統計で扱っているのはあくまでも金融資産や負債なので、設備や建物などの固定資産は計上されていません。
通常の貸借対照表の感覚で考えれば、実体としては資産側にさらに大幅にプラスになるはずです。
以前の法人企業統計調査では、全法人企業の純資産はプラス700兆円という状況でした。
日本企業は1990年代以降、本来の役割を十分に果たせていないようにも見受けられます。
企業が負債を増やさないという事は、家計の純金融資産が増え続けている以上、別の誰かが負債を増やすか、資産を減らすことになります。
前々回の内容を見る限りでは、それが政府と海外という事ですね。
参考記事: お金は誰の手元にある?
ここまでの結果を見ると、家計は右肩上がりで資産が増え、企業は借入を増やさなくても事業を継続していて、むしろ金融・海外投資する存在へと変化しているようです。
そして、国内事業では付加価値は上がらず、人件費を抑制しているわけですが、利益は増えています。
このような状況は本ブログで取り上げてきたような閉塞感や行き詰まりとは無縁の状況のように思えますね。
これだけ良い状況のはずなのに、何故サラリーマンの給与は減り、家計の低所得化が進んでいるのでしょうか?
少しずつこの謎についても探っていきたいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
参考:最新データ
(2023.08.10追記)
図3 日本 非金融法人企業 金融資産・負債残高
(日本銀行 資金循環より)
図3が2022年のデータまで延長したグラフです。
負債のうち貸出がやや増え、資産のうち現金・預金がやや増加しています。
負債のうち株式等が2019年から2020年で大きく増えています。
正味の金融資産・負債差額(純金融負債)は横ばい傾向が続いています。
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