186 増え続ける企業のお金 - 金融資産の国際比較

日本の企業は、海外や金融投資により金融資産を増やしています。他の主要先進国との国際比較により、日本企業の金融資産の特徴を可視化してみます。

1. 日本企業の金融資産

前回は企業の金融資産と負債の差額である、純金融資産(Financial Net Worth)についてフォーカスしてみました。
家計、企業、政府、金融機関、海外の経済主体ごとに、純金融資産(負債)を合計するとゼロになります。
基本的にはどの国も、家計の純金融資産が増え続けます。

その一方で、純金融負債を増やす主体が必要になりますが、通常その役割を担うのが企業です。
しかし主要国では日本だけ企業の純金融負債が目減りしているため、その代わりに政府と海外が純金融負債を増やしている状況です。
上記のように、日本の経済は企業の変質という他国にはない事情を抱えているようです。

今回からはさらに企業の詳細な状況について深堀してみましょう。
今回は企業の金融資産(Financial assets)について着目してみます。

まずは、日本の企業の金融資産の推移を見てみましょう。

金融資産 非金融法人企業 日本

図1 金融資産 企業 日本
(OECD統計データより)

図1は日本企業の金融資産の推移です。
企業の金融資産はバブル崩壊の年となる1989年をピークにしていったん減少し、アップダウンを繰り返しながら停滞傾向でした。
リーマンショック後の2009年から増加傾向が続き、過去最高を更新しています。

大きくは現金・預金(Currency and deposits)、株式等(Equity and investment fund shares/units)、その他が多いようです。
1989年の水準から比べると、現金・預金も株式等も2倍程度になっています。
ただし、その他はやや減少していますね。

その他の大部分は企業間信用・貿易信用(Trade credits and advances)で、負債側の企業間信用・貿易信用とほぼ相殺します。
企業間・貿易信用は約束手形などのように、取引上まだ支払いが済んでいない分と考えれば良さそうです。

内閣府の「2008SNA に対応した我が国 国民経済計算について」では次のように説明されています。
「「企業間信用・貿易信用」は、財貨・サービスの経常的な取引(その主体の本来の業務)に伴って、非金融法人企業部門に区分される主体間(居住者間、及び居住者と非居住者間を含む)で発生する債権・債務を指し、具体的には、売掛金・買掛金、受取手形・支払手形が含まれる。」

このため、実質上の企業の金融資産は、現金・預金と株式等が占めていると考えられそうですね。

日銀の資金循環統計では、金融資産側の対外直接投資は別項目に分けられているのですが、OECDのデータの場合は株式等にまとめられているようです。

2. 企業の金融資産の推移

次に、企業の金融資産についてドル換算値での国際比較をしてみましょう。

企業 金融資産

図2 企業 金融資産 ドル換算 推移
(OECD統計データより)

図2は企業金融資産のドル換算値について推移をグラフ化したものです。
やはりアメリカが圧倒的に企業が金融資産を増やしていますが、他国も右肩上がりに増加させている事がわかります。

日本は1995年にはアメリカよりも大きな金融資産を持っていた事になります。
その後もドル換算値では増加傾向ではありますが、増え方は緩やかなようです。

一方でフランスの企業は金融資産を多く持っていて、近年では日本を抜いています。
人口や経済規模からすると、フランスの企業の金融資産がここまで多いというのは意外ですね。

3. 企業の1人あたり金融資産の推移

それでは、企業の金融資産を人口1人あたりの水準に直して比較してみましょう。

金融資産 1人あたり 非金融法人企業

図3 企業 金融資産 1人あたり ドル換算
(OECD統計データ)

図3が企業金融資産 1人あたりの推移グラフです。
やはり日本は1990年代中頃に極めて高い水準ですが、その後は増加傾向ながらも緩やかな伸びで、アメリカやカナダに追い抜かれています。
ドイツにもかなり差を縮められており、フランスとは大きな差をつけられています。

イタリアやイギリスがリーマンショック以降横ばいというのも大きな特徴ですね。

企業の金融資産はフランスが圧倒的な水準であることが興味深いです。

4. 企業の1人あたり金融資産の国際比較:1997年

それでは、特徴的な年を切り取って日本の企業の金融資産の水準がどの程度に位置するのか順位を見てみましょう。

企業 金融資産 1人あたり 1997年

図4 企業 金融資産 1人あたり 1997年

図4が1997年の水準を比較したグラフです。
ルクセンブルクやノルウェー、デンマークなどの国々に続いて、日本が43,844ドルで6番目に高い水準だったようです。
次いでG7ではフランス、ドイツ、アメリカが続きます。

OECD平均値(26,839ドル)に対して1.5倍以上の高水準です。

5. 企業の1人あたり金融資産の国際比較:2019年

企業 金融資産 1人あたり 2019年

図5 企業 金融資産 1人あたり 2019年

図5は2019年のグラフです。

日本は83,502ドルと、1997年と比較すると約2倍に増加はしていますが、他国はそれ以上に成長していて順位を大きく落としています。
ただし、36か国中12位と上位には位置します。

フランスが極めて高い水準で、ベルギーやデンマークを抑えて、7位に食い込んでいるというのがとても特徴的と言えそうです。

ルクセンブルクとアイルランドが極端に高い水準なので平均値が大きく上がっていますが、これら2国を除けば日本はまだ上位で先進国の平均水準を超える水準と言えそうです。

6. 企業の金融資産の増加度合

それでは、自国通貨ベースでの成長率についても比較してみましょう。

企業 金融資産

図6 企業 金融資産

図6が企業の金融資産について1995年を基準(1.0)とした倍率を示したものです。
日本は1995年の水準に対して1.5倍程度になってはいますが、他国はそれ以上に大きく成長している事がわかります。
イタリアやドイツで2~2.5倍、イギリスで5倍、アメリカ、カナダ、フランスで5.5~6倍ほどです。
日本は成長はしていますが、その成長率はかなり低いという事がわかりますね。

7. 企業の金融資産の特徴

今回は、企業金融資産についてフォーカスしてみました。

日本は確かに企業の金融資産は増えていますが、他国と比べると非常に緩やかな増加と言えそうです。
1990年代の水準が極めて高かったため、そこからの変化率となりますので、緩やかなのは当然ですね。

1人あたりの水準で見れば、他国にどんどん抜かれている状況で、まだ上位と呼べる水準はキープしているものの、今後の推移次第では更に順位を落としていってもおかしくありません。

企業が事業投資をすると負債と固定資産が増えます。
一方で、企業が海外投資や金融投資をすると金融資産が増えます。

企業の金融資産や負債を見る事で、その企業がどのような活動を優先しているのかが見えてきますね。
今回は金融資産に着目しましたが、負債についても気になるところです。

次回は企業の負債に着目してみたいと思います。

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