262 金融機関の金融資産・負債残高 - 経済活動を写す鏡
主要先進国の金融機関について、金融資産・負債残高の推移をご紹介します。各国の経済主体がどのように挙動しているかが、金融機関の金融資産・負債残高として反映されているようです。
目 次
1. 金融機関の金融資産・負債残高:日本
前回はG7各国に対する海外の金融資産・負債残高をご紹介しました。
各国とも海外の金融資産も負債も増えていますが、負債が超過している日本、ドイツに対して、アメリカは金融資産が超過していて海外との関係性もやや異なる様子がわかりました。
今回は、各国の金融機関の金融資産・負債残高を眺めていきたいと思います。
図1 金融資産・負債残高 金融機関 日本
(OECD統計データ より)
図1が日本の金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
左が積上、右が各項目個別の推移です。
金融資産をプラス側、負債をマイナス側として表現しています。
1995年からのデータとなりますが、金融資産も負債も横ばい傾向が2011年頃まで続き、2012年から増え始めています。
金融資産と負債はほぼ相殺し、純金融資産は若干のプラスです。
近年では150兆円ほどですね。
日本経済の変化の大きな特徴はバブル後の企業の変調です。
金融機関にとって資産側に計上される貸出は、融資等による他者(多くは企業)の借入ですね。
日本の場合、金融機関の資産側の貸出は1997年をピークにして、2011年頃まで減少傾向が続いています。
これは、平均給与が1997年をピークに減り始め、2011年頃から再度増え始めるのとタイミングが一致していて大変興味深いですね。
金融資産側では他にも、債務証券、現金・預金(多くは日銀預け金)、株式等が増えています。
負債側で最も大きいのは現金・預金で、停滞するタイミングもありますが増加傾向が続いています。
金融機関の負債側に計上される現金・預金とは、他の主体の金融資産の現金・預金となります。
その他の負債については、保険・年金、貸出が横ばい傾向です。
株式等は増えてはいますが、規模としては小さいようです。
家計や企業の金融資産・負債の水準が1,000~2,000兆円程度であったのにたいして、金融機関はどちらも5,000兆円に迫る規模であるのが特徴的です。
このような日本の傾向が他国とどのような点が異なり、どのような点が共通しているのか、比較しながら他国のデータも見ていきましょう。
2. 金融機関の金融資産・負債残高:アメリカ
まずは、アメリカのデータです。
図2 金融資産・負債残高 金融機関 アメリカ
(OECD統計データ より)
図2がアメリカの金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
日本と異なり基本的に金融資産も負債も増え続けています。
2008年にリーマンショックの影響とみられる収縮がありますが、その後もすぐに拡大傾向が続いていますね。
金融資産側では、株式等、債務証券、貸出が同じくらいの割合でバランスしています。
2008年→2009年では貸出が減少していますが、その後すぐに増え始めています。
日本と異なり、金融資産側の現金・預金があまり多くありません。
これは、他の主体(特に企業)の負債のうち借入金の割合が小さい事とも符合します。
負債側では、株式等、保険・年金が増え続けています。
この2つは日本の場合存在感が薄かったのに対して、アメリカの場合は大きな割合を占めています。
逆に、負債側の現金・預金は家計や企業などの金融資産になりますが、そこまで多くはないようです。
家計の金融資産のうち現金・預金が少なかったり、企業の金融資産が少ない事とも符合しますね。
圧倒的に多かった日本の状況とはまるで異なりますね。
3. 金融機関の金融資産・負債残高:ドイツ
続いてドイツのデータを見てみましょう。
図3 金融資産・負債残高 金融機関 ドイツ
(OECD統計データ より)
図3がドイツの金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
全体としては、やはりリーマンショック後に停滞期間が見られますが、その後拡大しています。
金融資産と負債はほぼ相殺し、正味の純金融資産はほぼゼロです。
金融資産は、現金・預金、貸出、株式等、債務証券がバランスよく構成されています。
負債側を見ると、日本と同様に現金・預金の存在感が大きいようです。
株式等、保険・年金もそれなりに規模が大きく、増加具合も大きいようです。
比較的日本に近い状況と言えそうです。
4. 金融機関の金融資産・負債残高:イギリス
次はイギリスのデータです。
図4 金融資産・負債残高 金融機関 イギリス
(OECD統計データ より)
図4がイギリスの金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
アメリカやドイツと異なり、2008年以降金融資産も負債も停滞気味です。
金融資産側の現金・預金、貸出は停滞していて、債務証券、株式等が増加傾向です。
負債側では現金・預金が2015年頃まで停滞が続きましたが、その後は増加傾向になっています。
日本やドイツよりも保険・年金の存在感が大きく、かつ増加している様子がわかりますね。
イギリスは家計の金融資産のうち、保険・年金のシェアが大きいという特徴とも一致しそうです。
イギリスは海外の金融資産・負債も2008年を機に大きく変調しています。
リーマンショックの影響を強く受けた国と言えそうですね。
5. 金融機関の金融資産・負債残高:フランス
続いてフランスのデータを見てみましょう。
図5 金融資産・負債残高 金融機関 フランス
(OECD統計データ より)
図5がフランスの金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
2008年にやや増大傾向が緩まりますが、基本的には金融資産も負債も増大し続けています。
金融資産側では、現金・預金、債務証券、貸出、株式等のバランスが良い構成です。
負債側ではやはり現金・預金が存在感が大きく、株式等、保険・年金が続きます。
特に現金・預金は近年急激に増大しています。
構成としてはドイツと似たような状況ですね。
6. 金融機関の金融資産・負債残高:カナダ
続いてカナダのデータです。
図6 金融資産・負債残高 金融機関 カナダ
(OECD統計データ より)
図6がカナダの金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
金融資産も負債も増加傾向が続いています。
アメリカに似て金融資産側も負債側も株式等の存在感が大きく、しかも増大が続いています。
金融資産側の貸出も順調に増加が続いていますね。
負債側では、現金・預金、保険・年金が株式等に次いで大きなボリュームがあるようです。
経済の形としては、アメリカとカナダは似ている部分が多いようです。
7. 金融機関の金融資産・負債残高:イタリア
最後にイタリアのデータです。
図7 金融資産・負債残高 金融機関 イタリア
(OECD統計データ より)
図7がイタリアの金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
他国と比較して緩やかではありますが、金融資産も負債も増えています。
2008年以降で正味の純金融資産がプラスになっているのが特徴的ですね。
金融資産でボリュームが大きいのは、貸出、債務証券、現金・預金です。
貸出は2008年から停滞傾向が続いていますが、債務証券は増加が続いています。
負債側では、現金・預金が増加を続けています。
一方で、債務証券は2013年以降減少していて、株式等は2008年に急激に減少しています。
やや日本に近い状況に見受けられます。
8. 金融機関の金融資産・負債残高の特徴
今回は、G7各国の金融機関について、金融資産・負債残高を眺めてみました。
基本的に金融資産も負債も増えていて、両者がほぼ相殺する点は共通しているように思います。
リーマンショックを機に、特にイギリスとイタリアが変調している様子がよくわかりましたね。
負債側で特徴的なのはアメリカとカナダです。
両国とも負債のうち主要なのは株式等で、現金・預金が主体の他国とは大きく傾向が異なります。
金融資産のうち貸出(他者の借入)が長期間目減りしているのは日本特有ですが、イタリアも近年停滞傾向が続いています。
各経済主体の金融に関する挙動が、金融機関の金融資産・負債という形で表れているようにも見えます。
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