170 日本製造業の歪なグローバル化 - 産業の空洞化は日本だけ?

日本の企業は多国籍化し、対外活動を活発化させています。一方で、海外企業による日本国内での対内活動は極端に少ない偏ったグローバル化が進んでいます。製造業についての統計データを確認してみます。

1. 海外活動とは

前回は、日本企業株式総額純資産為替の奇妙な関係について取り上げてみました。
近年では、日本企業は円高だと株安、円安だと株高となるようです。
一般的には、日本の上場企業は輸出型産業が多いので、このような関係になると説明されることが多いようです。

一方で、現在日本の企業、とりわけ製造業は海外展開を進めていて、輸出は相対的に少ない状態ですね。
今回は、日本の製造業の海外展開についてフォーカスしてみたいと思います。

企業のグローバル化には2つの側面があると思います、つまり輸出・輸入といった自国を拠点としての貿易の活発化と、企業が国を超えて活動範囲を広げる多国籍企業化による海外活動です。

貿易に輸出と輸入があるように、多国籍企業によるグローバル化にも2つの方向が考えられます。
日本企業が外国へ現地法人などを作って海外展開を進める対外活動(Outward Activity:流出側)と、海外企業が日本に進出してくる対内活動(Inward Activity:流入側)です。

日本は、日本型グローバリズムとも呼べるような対外活動に偏ったグローバル化が進んでいます。
 参考記事: 日本型グローバリズム

今回は製造業に絞ってデータを確認していきましょう。

2. 対外活動売上高の国際比較

まずは、各国製造業の対外活動における売上高(Turn over)を国際比較してみましょう。

多国籍企業 製造業 売上高 対外活動 2016年

図1 多国籍企業 製造業 売上高 対外活動 2016年
(OECD 統計データ より)

図1が製造業の多国籍企業の、対外活動での売上高(Turn Over) を示します。
単位は10億ドルです。
アメリカが2,462で1位、日本が1,037で2位、ドイツが927で3位です。
経済規模などからすると、順当な並び順と言えそうですね。

3. 対外活動労働者数の国際比較

つづいて、対外活動によって雇用される労働者数の国際比較です。

多国籍企業 製造業 労働者数 対外活動 2016年

図2 多国籍企業 製造業 労働者数 対外活動 2016年
(OECD 統計データ より)

図2が多国籍企業の対外活動による労働者数についての国際比較となります。
海外現地法人でどれだけの労働者を雇用しているかという人数ですが、大部分は進出先国の労働者を雇用している事になると思います。

アメリカとカナダは雇用者数(Number of employees)、それ以外は労働者数(Number of persons employed)となります。
労働者数は雇用者数に個人事業主を加えた人数になりますので、アメリカとカナダは実態よりも少な目の数値となっている可能性があります。

アメリカが541.1万人、日本が379.1万人、ドイツが280.2万人です。
売上高の関係から言っても順当な水準ではないでしょうか。

日本の労働者は5,000~6,000万人程度なので、その7%程度に相当する労働者が日本企業によって海外で雇用されている事になります。
日本の製造業は、経済規模なりに多国籍化し、海外での事業活動を広げている様子がわかります。

4. 対内活動売上高の国際比較

次に、流入側となる対内活動についても見てみましょう。

対内活動とは、外国企業の自国への進出という事を意味しますね。
いわゆる外資企業という事になります。

多国籍企業 製造業 売上高 対内活動 2016年

図3 多国籍企業 製造業 売上高 対内活動 2016年
(OECD 統計データ より)

図3が多国籍企業の対内活動における売上高についての国際比較です。

アメリカが1,682で1位、ドイツが667で2位、日本は103で13位です。
対外活動と比べると明らかに日本の順位が低く数値も極端に少ない事がわかります。
日本の場合、対外活動が1,037ですのでその10分の1程度です。

他国は対外活動と相応の水準のようです。

5. 対内活動労働者数の国際比較

つづいて、対内活動の労働者数の国際比較です。

多国籍企業 製造業 労働者数 対内活動 2016年

図4 多国籍企業 製造業 労働者数 対内活動 2016年
(OECD 統計データ より)

図4が多国籍企業の対内活動による労働者数についての国際比較です。
つまり、外資系企業によってどれだけの自国の労働者が雇用されたかという人数になります。

やはりアメリカが247.8万人で1位です。
ドイツが142.6万人で2位、日本は14.0万人で16位ですね。
ドイツやアメリカは対外活動と対内活動がそれなりに近い規模です。
日本の場合対外活動が379.1万人なので、対内活動による労働者数が桁違いに少ない状況です。

どうやら日本の製造業は、自国企業の海外進出が多いわりに、他国企業の日本への進出は極端に少ないと言えそうです。

6. 対内活動と対外活動の正味の国際比較

それでは、流入と流出の差し引きの正味の数値に着目してみましょう。

多国籍企業 製造業 売上高 正味 2016年

図5 多国籍企業 製造業 売上高 正味 2016年
(OECD 統計データ より)

多国籍企業 製造業 労働者数 正味 2016年

図6 多国籍企業 製造業 労働者数 正味 2016年
(OECD 統計データ より)

図5が売上高、図6が労働者数正味のグラフです。
正味は対内活動から対外活動を差し引いた数値です。
日本は売上高の正味がマイナス933、労働者数がマイナス365.1万人と、いずれもデータのある国の中で最もマイナスが大きい国です。

つまり、日本の製造業は圧倒的に対外活動による流出側に偏ったグローバル化が進んでいると言えます。

7. 対内活動と対内活動の比率の国際比較

対外活動に偏ったグローバル化が進んでいる事を、正味の数値で見るだけでなく、流出と流入のバランスでも確認してみましょう。

多国籍企業 製造業 売上高 比率 2016年

図7 多国籍企業 製造業 売上高 比率 2016年
(OECD 統計データ より)

多国籍企業 製造業 労働者数 比率 2016年

図8 多国籍企業 製造業 労働者数 比率 2016年
(OECD 統計データ より)

図7が売上高、図8が労働者数についての、対外活動に対する対内活動の割合[%]を表しています。

対外活動に対して対内活動がどれだけ大きいか、という数値ですね。
100よりも大きいと、対外活動(流出)に対して対内活動(流入)の方が多い事を示し、100未満だと少ない事を示します。

50~200くらいが、双方向的なグローバル化と言って良いのではないかと思います。
チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、ラトビア、ポルトガル、スロベニア、スペインのあたりは、対外活動に対して極端に対内活動の多い国々ですね。

外資系企業がどんどん自国に流入してきている状態の国と言えそうです。
カナダやイギリスも、対外活動より対内活動の多い国のようです

一方で、ドイツ、イタリア、アメリカ、フランスは対内活動よりも対外活動の方が多い国のようです。
ただ数値を見る限りは、30~70%とそれなりに流入も多く双方向的なグローバル化と言えそうですね。

日本は売上高で9.9%、現地雇用者数で3.7%と、対外活動に対して対内活動が圧倒的に少ない国です。
ルクセンブルクやスイスより低い水準ですね。

8. 製造業の海外活動の特徴

今回は、製造業の海外活動について、売上高と労働者数の国際比較をしてみました。

日本は、企業(製造業)の多国籍化により自国企業の海外進出が進んでいる割には、外国企業の自国への進出がほとんどない、対外活動一方に極端に偏ったグローバル化が進んでいる事が確認できました。

改めて、企業活動の対外活動はどんなことを意味するのか、おさらいしてみましょう。

自国企業が、海外へ現地法人を作って進出すると、①生産活動が現地で行われる(GDPの流出)、②基本的には現地法人では現地人が雇用される(雇用の流出)、③現地ビジネスに付随する税金は現地国に収められる(税収の流出)となります。

もちろん、この流出分については、そのまま日本国内から流出してしまった分と考えれば良いかというと、そうでもないと思います。
日本で生産していたら成立しないようなビジネスが海外で行われている可能性が高いためです。
為替レートなども勘案した上で、より消費地に近い現地国での生産の方が合理的であるという企業の判断の結果とも受け取れます。
また、実際に消費地に近い場所で生産するという合理化の一環であるとも説明されます。
この流出分を「企業が海外進出しなければ国内に加算された分」と単純に考える事はできないと思います。

現地法人で稼いだ利益は、配当金として日本本社に還流される事になりますね。
日本本社では、この配当金は営業外収益となります。
この配当金には、受取配当金の益金不算入の制度が適用され、その95%は税金の対象外となります。
(既に進出先国で税金を支払っているため)

したがって、海外進出を進める企業は、海外で行ったビジネスの成果を本社に還流させて、本社の利益を底上げする事ができますね。
このようなグローバル化は多くの日本企業が、国内事業での付加価値が停滞していても、利益が増大している大きな要因の1つと言えそうです。

海外進出により、安価に生産された製品は、日本に逆輸入する事で、消費者としても恩恵を受ける面があります。
この逆輸入については、日本企業の場合逆輸入比率20%程度で、あまり多くはありません。
 参考記事: 製造業の海外生産

流出一方に偏ったこのような企業のグローバル化により、差し引きで国内から仕事が流出している可能性は高そうです。
特に流出の大きい製造業は国内の付加価値額(GDP)が減少している事でも明らかではないでしょうか。
日本の製造業のGDPは、1990年代から2020年頃までで約10兆円目減りしています。

対外活動が多すぎるのか、対内活動が少なすぎるのか、見る人によって意見は異なると思います。

他国とのバランスで見れば、対外活動は順当な水準でもあると思います。
一方で、対内活動は明らかに極端に少ないですね。

規制が厳しく外資企業の参入が阻まれているのか、既に日本は外資企業から見て投資するには分が悪いと見られているのか、とても興味深い状況と思います。
日本の国民性からすると、外資企業の日本進出に対して抵抗を感じる人も多くいるのではないでしょうか。

日本の製造業は流出一方に偏った日本型グローバリズムとも言うべき特殊な状況である事は確かなようです。

私たち企業から見た場合、国内事業よりも、海外事業の方がメリットがあると合理的に考えて海外進出を進めているわけですね。

「その結果日本から仕事が流出して困窮が進んだ」と考えるよりも、「そもそも日本では成立しなかったようなビジネスが国内から出ていったに過ぎない」と捉えるべきかもしれません。
一方で、国内には海外からの「仕事」が殆ど流入してきません。

国内を主体とした事業者、多くの消費者でもある労働者が国内経済を活性化させていく主なプレーヤーと言えそうです。

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