151 海外とのお金の関係 - 海外の純金融資産の国際比較

経済主体別の金融資産・負債差額を見ると、家計の純金融資産が増えるのは各国共通ですが、海外との関係は各国で大きく異なります。統計データを整理し国際比較する事で、その特徴を確認してみます。

1. 海外の1人あたり純金融資産の国際比較

前回は、政府純金融資産(Financial net worth: 金融資産・負債差額)について各国比較をしてみました。
日本は1人あたりの政府の純金融負債がアメリカに次いで大きいようです。
その背景には、企業が負債を減らしている分、政府の支出が増えているという事がありそうですね。

また、重要な観点として、負債を増やした分で投資をしていればインフラや生産設備などの固定資産が増えているはずです。
金融資産や負債だけを見ていると、この固定資産(生産資産)という観点が抜けてしまいます。
固定資産を含めた正味資産(国全体の場合は国富とも呼ばれます)は、別の記事にてご紹介いたします。

日本の場合、政府と共に負債を増やしている主体が海外です。
今回は、海外純金融資産について見ていきましょう。

海外 純金融資産 1人あたり

図1 海外 純金融資産
(OECD 統計データ より)

図1が海外純金融資産について、人口1人あたりドル換算したグラフです。

あくまでも当該国から見た海外の資産になりますので、このグラフの数値がプラスだとその国に対して海外の持っている資産が超過している事になります。
つまり、海外からの投資の方が多い国ですね。
マイナスだと、その国が海外に対して持っている資産の方が多く、海外に対してより多く投資している国という事です。
海外の純金融資産がプラスの国は海外から投資等が集まっている国ですね。
ポーランドやハンガリーなど経済成長中の国や、ギリシャやポルトガルなど経済が変調しているとされる国が多いようです。

海外の純金融資産がマイナスの国は海外への投資が超過している国ですね。
海外に対して資産を持っているという事になります。
資源大国ノルウェーはその潤沢な資金で、自国企業や海外に投資をしているとされていて、断トツの水準です。
その他にもスイスやルクセンブルク等の高所得国が続きますが、次いで多いのが日本とドイツです。

日本は人口1人あたり25,459ドルの対外純資産を持っているという事になります。

2. 海外の1人あたり純金融資産の推移

主要国の推移についても見てみましょう。

海外 純金融資産 1人あたり

図2 海外 純金融資産 1人あたり
(OECD 統計データ より)

図2が主要国の海外純金融資産(1人あたり)の推移です。

G7に韓国、スウェーデンを追加しています。

日本の海外への投資は1995年の段階から高い水準ですが、近年は停滞気味のようです。
対外純資産の多くは企業や政府が持っていますね。
企業の場合は対外直接投資が多いようです。
政府や金融機関は対外証券投資となります。

ドイツは近年になって急速に対外純資産を増やしていますね。
現在は日本とほぼ同じくらいの水準になります。

アメリカは逆に、海外に対して負債が超過している状況です。
海外から投資が集まっている国と言う表現もできますね。

3. 海外の純金融資産の特徴

今回は各国に対する海外の純金融資産についてご紹介しました。

日本は対外純資産がプラスの国です。
総額で見れば世界一とも言われます。
この事実をもって、日本は「お金持ちの国」としても語られる事が多いですが、実際にはどのような意味になるのでしょうか。

今まで見てきたように、日本は国内の投資(総資本形成)を減らしています。
その一方で海外への投資を増やしている状況です。

国内は投資が減って経済停滞が続き、労働者が低所得化しています。
本来は国内に向かうべき投資が、海外に流出しているというようにも見れそうです。
対外純資産がプラス=資本流出という見方もできるかもしれません。

一方でドイツは、近年急速に対外純資産を増やしていますが、国内の投資も増やしています。
バランスを取りながら、少しずつ国民が豊かになっているようにも見えます。

日本とドイツは工業が盛んで、人口が停滞していたりと似た部分の多い国同士です。
ただ、中身をよく見ると、全く異なるところも多いのが興味深いです。

日本では流出一方の企業のグローバル化が進んでいます。
特に、製造業など企業が海外に拠点を移し、海外での事業を行う多国籍企業化が進んでいます。
 参考記事: 日本型グローバリズム

企業が、海外での事業に投資する事を対外直接投資と言いますね。
単に株価の値上がりや配当金を目的とした対外証券投資とは区別されます。

非金融法人企業 金融資産・負債

図3 非金融法人企業 金融資産・負債

図3が日本企業資産負債の推移です。
負債側の貸出が企業の借入金ですね。
見事に停滞している一方で、資産側の対外直接投資は右肩上がりで150兆円程度の規模になります。

企業は負債を増やさず国内への事業投資を減らし、海外に投資する存在になっています。
この場合は、多くが海外現地法人等の海外事業という事になります。
(ちなみに企業の対外証券投資は、直近で23兆円くらいです)

逆に日本は海外からの直接投資が極めて少ない歪なグローバル化が進んでいます。

日本の場合、対外純資産がプラスというのは、その分国内への投資が減っていて、海外からの投資とのバランスがその分歪になっている事を理解しておいた方が良いかもしれません。

皆さんはどのように考えますか?

参考:対外直接投資と対内直接投資

各国の対外直背等投資と対内直接投資の残高の比較です。

図4 対外直接投資残高 1人あたり 2022年
(OECD統計データより)

図4が各国の人口1人あたり対外直接投資残高です。

日本は先進国で中程度の水準となっています。

図5 対内直接投資残高 1人あたり 2022年
(OECD統計データより)

図5が対外直接投資残高です。

日本は先進国最下位の水準で、中国を下回ります。
極端に対内直接投資が少ない国という特徴があるようです。

対外直接投資残高に対する対内直接投資残高の比率 2022年

図6 対外直接投資残高に対する対内直接投資残高の比率 2022年
(OECD統計データより)

図6が対外直接投資残高に対する対内直接投資残高の比率です。

アメリカ、イギリスは対内直接投資が超過していて、イタリア、カナダ、フランス、ドイツは50~80%で双方向的な直接投資の関係となります。

日本だけ12%と極端に対外直接投資に偏ったバランスとなっているようです。

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・本ブログに用いられる統計データは政府やOECDなどの公的機関の公表しているデータを基にしています。
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