162 日本の生産資産は多い? - 1人あたりの推移と国際比較
非金融資産と、その内訳である非生産資産、生産資産について、人口1人あたりの推移について国際比較してみます。
1. 1人あたり非金融資産の推移
前回は、物質的な豊かさの蓄積を表す、非金融資産についての推移を見てみました。
非金融資産のうち、土地などの非生産資産は日本だけバブルの影響を受け1990年ころに極端に高い水準となり、その後下落傾向が続きます。
一方、住居や橋梁、機械設備などの生産資産は、ある程度高い水準は維持しているものの、総額としては停滞が続いています。
N 非金融資産(Non-financial assets)
N1 生産資産(Produced assets)
N11 固定資産(Fixed assets)
N111 有形固定資産(Tangible fixed assets)
N1111 住宅(Dwelling)
N1112 その他の建物・構築物(Other buildings and structures)
N1113 機械・設備(Machinery and equipment and weapon system)
N1114 育成生物資源(Cultivated biological resources)
N112 知的財産生産物(Intellectual property product)
N1121 鉱物探査・評価(Mineral exploration and evaluation)
N1122 ソフトウェア・データベース(Computer software and database)
N1123 娯楽作品原本(Entertainment, literary or artistic originals)
N1124 研究開発(Research and development)
N1125 その他知的財産生産物(Other intellectual property product)
N12 在庫(Inventories)
N2 非生産資産(Non-produced assets)
N21 自然資源(Natural resource)
N211 土地(Land)
N212 鉱物・エネルギー資源(Mineral and energy reserves)
N213 非育成生物・水資源(Non-cultivated biological resources and water reserves)
生産資産は、投資である総資本形成の蓄積となりますね。
日本では、フローとしての総資本形成が停滞していますので、その蓄積である生産資産も停滞しています。
実際には、固定資産は経年劣化などで、年々資産価値が減少していきます。
この減少分は、固定資本減耗と呼ばれ、企業会計における減価償却費に相当します。
新規に投資される資本形成のプラス分と、資本減耗により目減りする分がちょうど釣り合っているくらいの状況という事だと思います。
今回は1人あたりの価値として、これら非金融資産はどの程度の水準なのかを比較してみましょう。
図1 非金融資産 1人あたり ドル換算 推移
(OECD統計データ より)
図1は非金融資産(1人あたり)の合計値の推移グラフです。
やはり日本は1人あたりに直しても、1990年代に突出して資産を多く持っており、そのまま200,000~300,000ドルの間で停滞していますね。
近年ではフランスや韓国に抜かれ、カナダやイギリスにも追い抜かれそうです。
特別に非金融資産を多く持つ国から、先進国で中程度の国に変化しています。
2. 1人あたり非生産資産の推移
非金融資産は土地や漁場などの非生産資産と、住居や機械設備などの生産資産に分かれます。
日本は不動産バブルにより、極端に土地の高騰を招いた経緯があり、それが非生産資産として大きく計上されています。
1990年代~2000年代の非金融資産の多くはこの非生産資産のうち、不動産価格が過剰評価されている分として見ることができると思います。
図2 非金融資産 非生産資産 1人あたり ドル換算 推移
(OECD 統計データ より)
図2が非金融資産のうち、非生産資産のグラフです。
やはり1990年代の不動産バブルの影響が大きいことがわかりますね。
日本の非生産資産は長期的にはマイナス傾向と言えそうです。
グラフ中のピーク(16万ドル程度)からは約半分になっていることがわかりますね。
比較対象が少ないのですが、他の国は基本的には右肩上がりです。
直近では韓国、フランスはおろか、イギリスやカナダにも抜かれて差をつけられています。
日本の不動産バブルの影響は、少なくとも土地の価値という面では解消されているものとみてよさそうです。
国内データをみても、1990年のバブル崩壊から下落一方だった生産資産が、2005年あたりで一度下落傾向から増加傾向に転じるタイミングがあります。
3. 1人あたり生産資産の推移
日本の非金融資産は、バブルの影響による非生産資産の過大評価を含みますので、他国との公平な比較が難しいです。
実際には、生産資産で評価するのが最も実態を反映しているのではないでしょうか。
図3 非金融資産 生産資産 1人あたり 推移
(OECD統計データ より)
図3が非金融資産のうち生産資産のグラフです。
生産資産の多くは、住宅(主に家計)、機械・設備(主に企業)、橋梁などのその他の建物構築物(主に政府と企業)で構成される有形固定資産と、知的財産生産物を合わせた固定資産と、在庫で構成されます。
生産資産はアメリカの統計データも含まれます。
日本は停滞気味ながらやや上向き傾向ではあります。
直近で1人あたり13万ドルの生産資産を持っていることになります。
やはり1990年代は他国と比べて高い水準ではありますが、非生産資産ほどではないですね。
停滞している中で、アメリカに抜かれ、フランスと抜きつ抜かれつしているうちに、韓国やカナダ、イギリスに追いつかれつつあります。
生産資産についても、やはり特別な国から、中位に埋もれる普通の先進国となりつつあるようです。
4. 1人あたり固定資産の推移
生産資産だけでは、公開されている国のデータが少ないので、より長期で多くの国のデータがある固定資産についても眺めてみましょう。
固定資産は生産資産のほとんどの割合を占めます。
図4 生産資産 固定資産 1人あたり
(OECD統計データ より)
図4は固定資産の人口1人あたりの推移(為替レート換算)です。
日本は1980年代前半まではフランスと同程度で、その後バブル期に急激に増大してアメリカと同じくらいになり、さらに1995年にかけて極端に大きな水準となります。
当然急激な円高による影響も大きいですが、当時は固定資産が他国よりもかなり大きな水準に達していた事になります。
その後停滞傾向が続いた末、近年ではアメリカと大きく差が開き、ドイツに追い抜かれ、フランスと同程度といったところが現在地のようです。
ただし、イタリアやカナダ、イギリス、韓国よりもまだ高い水準であることもわかりますね。
5. 1人あたり非金融資産・非生産資産・生産資産の特徴
今回は、国富のうち非金融資産の1人あたりの水準について、国際比較をしてみました。
日本はバブルの影響が顕著ですが、その影響も近年では解消されていると見れそうです。
また、最も重要な物質的豊かさを示す生産資産(あるいは固定資産)では、先進国の中で相対的に水準が低下している状況もわかりました。
やはり、フローであるGDPのうち総固定資本形成が減少・停滞しているので、その蓄積である生産資産(固定資産)も停滞しているという事ですね。
日本は対外投資が盛んですが、別な言い方をすれば、海外に投資用資金が流出していると言えます。
国内への投資が減って停滞しているにもかかわらず、海外への投資を優先している状況ですね。
投資が減れば、当然海外に対する相対的な豊かさの程度も減少していくという事だと思います。
いつまでも国内への投資が減少したままだと、日本は資本の蓄積である生産資産残高でも他国に後れを取る事になりそうです。
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