228 GDPと給与の名目と実質 - 実質化による相違
日本では1人あたりGDPは実質成長していますが、平均給与は実質でも停滞が続いています。この傾向の違いを統計データから可視化してみます。
目 次
1. 1人あたりGDPと平均給与の名目・実質成長
前回は、1人あたりGDPについて実際の推移とバブル直前を基準とした仮想の成長率を比較してみました。
日本は仮にバブル期に嵩上げされて豊かになっていた面があったとしても、その後の停滞が長く続くことで本来の成長曲線からも大きく後れを取ってしまっています。
日本経済の推移は非常に特徴的ですね。
名目GDPは停滞が続いていますが、実質GDPは成長しています。
そして、平均給与は名目も実質も停滞しています。
今回は、改めて実質GDPや実質給与の特徴についてて眺めてみましょう。
図1 日本 1人あたりGDP、平均給与 名目・実質
(OECD統計データ より)
図1が日本の1人あたりGDPと平均給与の名目と実質について、1991年の数値を基準(1.0)とした倍率をグラフ化したものです。
赤が1人あたりGDPの名目値、ピンクが1人あたりGDPの実質値、青が平均給与の名目値、緑が平均給与の実質値です。
まずは名目値(赤と青)から見てみましょう。
これまでのブログでも見てきたように、名目の1人あたりGDPも平均給与も1997年までは上昇傾向でしたが、その後減少、停滞しています。
そして2012年頃からやや増加傾向となっています。
一方で、実質値(ピンクと緑)について眺めてみると、1人あたりGDPは1993年頃から増加傾向が続いていますが、平均給与は横ばいが続いています。
実質成長率は、名目成長率を物価指数(デフレータ)で除したものです。
GDPを実質化する際に用いる物価指数はGDPデフレータです。
平均給与を実質化する際に用いられる物価指数は、民間最終消費支出デフレータとなります。
両指標に用いる物価指数が異なる点にも注意が必要ですね。
(あくまでもOECDのデータの場合になります。)
また、平均給与はパートタイム労働者がフルタイム働いたと見做す調整が行われています。
実際の労働者1人あたりの平均給与よりパートタイム労働者の労働時間が短い分嵩増しされている指標です。
2. 1人あたりGDPと平均給与の名目成長
続いて、1人あたりGDPと平均給与の名目値の成長度合について国際比較してみましょう。
図2 1人あたりGDP 名目値
(OECD統計データ より)
図2はOECD各国の1人あたりGDPについて、1991年を基準(1.0)とした名目値の倍率を比較したグラフです。
日本(青)は横ばい傾向が続いているのに対して、他国は右肩上がりで成長しています。
リーマンショックを機にイタリア(黄)が停滞気味なのが特徴的です。
図3 平均給与 名目値
(OECD統計データ より)
図3が平均給与の名目値について、1991年を基準とした倍率を比較したグラフです。
やはり日本だけ停滞が続いていて、他国は右肩上がりに成長しています。
上記は1991年を基準にした名目成長率について比較したグラフですが、名目値自体の比較については、下記の記事もご参照下さい。
参考記事: 日本は衰退先進国!?
参考記事: 安くなった日本人
3. 1人あたりGDPと平均給与の実質成長
名目値の成長率では、日本だけ停滞が続いてきたのは明らかですね。
名目値はお金の単位で表現した経済指標です。
経済学では、物価が変動するため、物価の影響を排した実質成長率で比較するのが一般的なようです。
実質値は、金額ではなく、数量的な変化を表した指標という事になります。
まずは1人あたりGDPの実質成長からみてみましょう。
図4 1人あたりGDP 実質値
(OECD統計データ より)
図4が1人あたりGDPの実質値について、1991年を基準(1.0)とした倍率を比較したグラフです。
他の主要国は1.3~1.6倍で成長しているようです。
名目成長率とは異なり、日本は1.2倍とそれなりに右肩上がりで成長しています。
金額ではなく数量的な経済規模が拡大している事を示しますね。
一方イタリアはリーマンショック以降横ばい傾向が続いています。
図5 平均給与 実質値
(OECD統計データ より)
図5が平均給与の1991年を基準(1.0)とした倍率です。
基本的に他国は右肩上がりで成長していますが、日本とイタリアは横ばいが続いています。
実質成長率で比較すると、日本は1人あたりGDPは成長していますが、平均給与は停滞しているという特徴があるようです。
他国は、両指標とも成長しています。
4. 1人あたりGDPと平均給与の実質成長率の国際比較
日本経済は、1人あたりGDPの実質成長率と、平均給与の実質成長率に乖離があります。
この特徴を明確にするために、バブルチャート(散布図)を作ってみました。
図6 1人あたりGDP-平均給与 実質 成長率 相関図
(OECD統計データ より)
図6が1人あたりGDPと平均給与の実質値について、1991年から2021年の倍率をまとめた散布図です。
1991年の数値を1.0として、2021年の数値の倍率として表現しています。
緩やかな相関関係があるようにも見えます。
青の破線が両指標の成長率が1:1で一致する線です。
ドイツ、フランス、カナダ、イギリス、アメリカの主要国は、両指標の成長率がほぼ一致していますね。
全体の相関係数を計算してみると、0.66でかなり相関があるようです。
日本、イタリア、メキシコ、スペインの4国は、1人あたりGDPは成長していますが、平均給与がほぼ成長なしの状態です。
5. 1人あたりGDPと平均給与の名目・実質成長の特徴
今回は1人あたりGDPと平均給与について、名目、実質それぞれの成長率を比較し、最後に実質値の散布図にまとめてみました。
名目成長で見ると、日本は両指標とも停滞している特殊な状況です。
実質成長で見ると、1人あたりGDPはそれなりに成長していますが、平均給与は停滞が続いています。
このような国は、日本を含め先進国で4国程度ですので、やはり特殊な状況と言えそうです。
1人あたりGDPは国民の平均的な生産性と言えますね。
実質値は数量的な変化を見る指標ですので、数量的な生産性は向上していても、労働者への分配は増えていないという事になります。
以前よりたくさん生産しているのに、働く人のお給料で買えるものが増えていないという状況ですね。
少なくとも実質GDPが成長している事だけをもって豊かになっているとは言い切れないように思います。
他国同様まずは名目値の成長があり、物価成長分だけ目減りして実質値が成長するという事が普通だと思います。
1人あたりGDPだけでなく、給与水準も上がっているかどうかも重要ですね。
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