026 実質成長・名目停滞の日本 - 経済成長の特徴が異なる国

1. 1人あたりGDPの実質成長率

前回までは、主要国の名目GDP実質GDP輸出対GDP比賃金対GDP比の推移を取り上げ、他の国と違って日本の経済状況が大分異なる様子を示しました。
今回はもう少し明確にこの差異を確認していきたいと思います。

前回までは各国それぞれの時系列データを示しましたが、より比較しやすい形に整理してみました。

1人あたりGDP 実質値 2018年

図1 1人あたりGDP(実質) 成長率
(OECD統計データ より)

図1は1人あたりの実質GDPについて、2005年から2018年までの成長率を2005年を100とした指数として表現したグラフです。
2005年はある程度バブル崩壊の影響も解消されているタイミングでもあります。

実質値は、物価変動を加味した(デフレータで補正した)数値です。
名目値の成長率が金額的な変化を表すのに対して、実質値の成長率は数量的な変化を表すものと考えるそうです。

日本は110.7でOECD36か国中24位で高い順位ではありませんが、カナダ(109.8)、フランス(108.5)、イギリス(108.0)、イタリア(94.9)などのG7各国よりも高い水準です。
OECD平均が121.7、G7平均が109.5です。

それほど悪い状況ではないように見えます。

2. 1人あたりGDPの名目成長率

図2 1人あたりGDP(名目) 成長率
(OECD統計データ より)

図2が1人あたり名目GDPの成長率です。
名目値とは物価変動を考慮しない、額面の金額です。

日本は106.1とOECD36か国中35番目で、ギリシャ(95.1)に次ぐ水準の低さです。

G7各国で見ると、イタリア(113.4)、フランス(125.4)は比較的低い成長と言えるかもしれませんが、ドイツ(147.0)、アメリカ(142.0)、イギリス(138.2)、カナダ(137.1)など40%前後の成長をしている国が多いようです。

OECD平均が168.5、G7平均が129.9です。

3. その他の指標も比べてみよう

1人あたり民間最終消費支出 名目値 2018年

図3 1人あたり民間最終消費(名目) 成長率
(OECD統計データ より)

1人あたり賃金 名目値 2018年

図4 1人あたり賃金(名目) 成長率
(OECD統計データ より)

その他の指標についても見てみましょう。
図3に1人あたりの民間最終消費、図4に1人あたりの賃金の成長率を示します。
いずれも名目値です。

賃金データについては、トルコ、チリ、アイスランド、ニュージーランド、メキシコ、ギリシャの6か国の統計値がなかったため割愛しています。

日本は名目成長率で見ると、いずれも比較的先進国と言われるOECD加盟国のなかで極めて低い位置になります。
民間最終消費については、106.1で下から2番目の水準です。
OECD平均が161.8、G7平均が129.9です。
賃金については107.6で、データのあるOECD加盟国の中では断トツの最下位です。

下から2番目のアイルランドでも約20%の賃金の伸びがあるのに対して、日本では7.6%と10%にも満たない状況です。
OECD平均は161.3、G7平均は132.1です。

上記をまとめて見てみますと、名目値での経済状況としては、2005年から2018年の13年間でOECD加盟国で平均6割程度、G7でも平均3割程度は成長しています。
GDPだけでなく、民間消費、賃金についても同じような傾向です。
それに対して日本は、いずれの指標でも6~7%程度と、1割に満たない水準です。

GDPだけでなく、賃金、消費ともに極めて低成長と言えます。
特に賃金の伸びは他の国よりも大きく後れを取っているようです。

4. 実質でも平均給与は停滞

実質GDPはプラス成長していますので、平均給与も同様に成長しているのでしょうか?

平均給与 実質値 2018年

図5 平均給与 実質 成長率
(OECD統計データ より)

図5を見ると、実質の平均給与は停滞しています。
参考記事: 給与が増えないのは日本だけ?

GDPでは実質成長、名目停滞の状況で、平均給与では実質、名目共に停滞している状況と言えそうです。

5. 日本の異質な状況

一般的な経済は、適度な物価の上昇があり、それを上回って名目値(GDPも消費も賃金も)が伸びて、その結果緩やかに実質値が伸びていく傾向のようです。
日本以外の国の名目GDPと実質GDPを比較していただければ、各国とも名目値の方が実質値よりも大きな成長率であることがわかると思います。
(ここでは示せていないのですが、消費、賃金も同じような傾向になります)
そもそも名目値すら成長していない日本の状況はかなり異質なようです。

ニュースなどで、イタリア、スペイン、ポルトガルなどが、経済的に不安定であるという指摘をされる事が多いですが、そのような国々よりも日本の成長が低いという事が示されています。
ギリシャ危機などと取り沙汰されるギリシャと、最下位争いをしているような状況ですね。

そして、名目値の伸びよりも実質値の伸びの方が大きいのは日本だけです。
つまり、日本だけが他の国と様相が異なる状況に置かれているようです。

名目値で成長していなくても、実質値では成長しています。
つまり、図1のように何となくそれほど悪くないレベルで経済成長しているように見えるわけです。

実質値 = 名目値 ÷ 物価指数

名目値では停滞していても、実質値で成長しているという事は、物価が下がっている(1よりも小さい)という事を意味しますね。
日本は物価が下がっているので名目で停滞していても実質成長しているという、他国とは異なる状況のようです。

皆さんはどのように考えますか?

関連記事:
実質と名目の違いとは?
GDPと給与の名目と実質

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