082 平成時代で失った日本の名目成長 - GDP・消費・平均給与の成長率
日本は失われた20年と言われるように、経済の停滞が長く続きました。GDPや家計最終消費支出、平均給与など代表的な経済指標で、各国との国際比較で確認してみます。
1. GDPの国際比較
前回は日本の企業活動の推移を確認する事で、企業活動が1990年のバブル崩壊、1997年の金融危機を機に変質してしまった状態を取り上げました。
売上や付加価値は停滞しているけれども、海外事業などでの営業外の収益が向上し、純利益が増大しています。
従業員の給与総額はほとんど変化していません。
増大した利益の多くは従業員に還元されず、社内留保と配当金に回っているとみて良さそうです。
本来給与は付加価値の分配ですので、付加価値が増えない以上給与も上がらないのは道理です。
そして、企業は空前の純利益を達成し、純資産を積み上げているという状況になっています。
企業の利益は増えているのに、労働者が低所得化しているというアンバランスさが日本経済の特徴といえそうです。
今回は先進国の中での日本経済の停滞具合を再確認していきたいと思います。
何回かに分けて取り上げていきますので、少しお付き合いいただければ幸いです。
日本はバブル期に様々な経済指標が急激に成長し、1990年のバブル崩壊で成長が鈍化して、1997年を機に本格的な停滞に入ります。
間違いなく1990年と1997年が日本経済の転換点と言えそうです。
特に1997年をピークにして、各種指標がいったん減少し、停滞が続くという推移が多いようです。
基本的にはリーマンショック時の過度な落ち込みもあり、2010年ころから少しずつ上昇傾向ですが、未だに1997年のピークを超えるかどうかといった状況ですね。
今回はそのピークとなった1997年からの各種指標の名目成長率について着目していきたいと思います。
図1 GDP成長率 G7
(OECDデータ より)
図1は、G7各国の名目GDPについて、各国通貨での数値を1997年を1.0としたときの倍率として表現しています。
日本(青)、アメリカ(赤)、ドイツ(緑)、イギリス(水色)、フランス(紫)、カナダ(ピンク)、イタリア(橙)です。
年率2%、破線が年率3%、点線が年率4%で成長した場合の成長曲線も示しています。
GDPはその国で生み出された付加価値の総計ですね。
企業活動とも密接に関係しています。
日本はずっと1.0近辺です。
ほぼゼロ成長が長年続いている事になります。
その他の先進国はどうでしょうか、アメリカ、イギリス、カナダはこの20年程でGDPが2倍以上になっています。
年率成長率では4%程度に相当します。
もともと経済大国であるG7各国でも、これだけ経済成長しているわけですね。
フランスで1.8倍、ドイツで1.7倍、イタリアでも1.6倍といった具合です。
ドイツ、イタリアはこの中でも水準は低い方ですが、それでも年率2%以上の割合で経済成長しています。
先進国の中でも特に経済レベルの高いG7ですので、他国よりも基本的に経済成長率は低いのですが、それでもこの成長率です。
他の国は、もっと高い水準です。
例えば韓国で3.5倍、オーストラリアで3.3倍となっています。
経済が大きく伸びている他のOECD加盟国では、メキシコで5.9倍、アイスランドで5.2倍、コロンビアで7.6倍です。
北欧諸国でもフィンランド2.1倍、スウェーデン2.4倍、ノルウェー3.1倍といた水準です。
日本だけが0%成長です。
1997年はまさに日本の転換点となった年です。
タラレバで経済を語っても仕方ありませんが、「もし仮に1997年から他の先進国並みに経済成長していたら」を参考までに見てみましょう。
図2 GDP 推定 日本
図2が、日本の名目GDPの推移です。
OECDの数値を使っています。
黒い実線が実際の推移です。
1990年から成長が鈍化し、1997年にピークをつけて、停滞している状況ですね。
青い線が1997年から年率2%の成長をした場合、緑の線が年率3%の成長、赤い線が年率4%の成長をした場合のグラフを付け足しています。
もし日本が停滞せずにそのまま他の先進国と同様の名目成長をしていたらこのようになっていたはずというグラフです。
経済的に課題が多いとされるイタリアでも年率2%以上の名目GDPの成長があります。
日本がもし2%の成長していたら、2018年の時点で810兆円に達していた可能性があります。
3%なら994兆円、4%なら1,217兆円です。
普通に成長していれば500兆円とか、600兆円とか、そういったレベルではなくて、1,000兆円を超えていた可能性があるわけです。
図2を見ていただければ、黒い線よりも青や緑、赤の線の方が自然な感じがします。
黒い線が現実です。
たしかに、日本はバブル期に他国よりも先行して高い水準に達していて、そこからの成長率なのでこういったグラフになるのは当然と言えば当然です。
しかし、その後の停滞があまりに長い事もよくわかるのではないでしょうか。
2. 家計最終消費支出の国際比較
日本の停滞が続いているのはGDPだけでしょうか。
他の数値についても、G7のグラフと比較していきましょう。
図3 家計最終消費 成長率 G7
(OECDデータ より)
図3は家計最終消費支出のグラフです。
アメリカ(赤)が2.3倍、カナダ(ピンク)が2.4倍の高水準で年率4%成長を超えます。
イギリスが2.1倍で年率4%弱、フランスが1.7倍で年率3%弱の成長率です。
イタリアは1.6倍、ドイツが1.5倍で低成長ですが、年率2%以上の成長がみられます。
日本だけゼロ成長ですね。
図4 家計最終消費支出 日本
1997年から日本の家計最終消費支出が成長していた場合のグラフが図4です。
直近でも300兆円を超えていない日本の家計消費ですが、最低限の2%成長でも400兆円を超えます。
つまり、現在よりも100兆円以上は家計消費が増えていてもおかしくないわけですね。
他の国が名目成長している中で、家計消費がこれだけ低迷しているという事は、経済停滞しているだけで相対的に国民の生活が貧しくなっている可能性が示唆されます。
数兆円とか、十数兆円というレベルではなくて、当時の水準からすれば百兆円以上も相対的な水準が下がっていると見て良いのではないでしょうか。
数値は名目値なので、物価との関連について疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが、物価の推移も次回ご紹介いたします。
3. 平均給与の国際比較
続いては平均給与です。
図5 平均給与 成長率 G7
(OECDデータ より)
図5が労働者の平均給与(Average annual wage)です。
日本だけいったん減少して停滞しています。
アメリカ、イギリス、カナダで1.8~1.9倍の3%成長です。
フランスで1.6倍、イタリア、ドイツで1.5倍となり、2%程度の成長があります。
ドイツは2009年頃まで伸びが悪かったのですが、それ以降は年率3%に近い傾きになっています。
近年になって賃金の伸びが良くなっているのですね。
逆にイタリアは右肩上がりではありますが、傾きは鈍化しています。
日本だけゼロ成長どころか、マイナスですね。
GDPや消費の停滞も大きな課題と思いますが、平均給与は更に深刻な状況です。
参考記事: サラリーマンの貧困化
図6 平均給与 日本
図6が日本の平均給与の推移です。
直近で450万円に届かない水準です。
OECDの平均給与(Average annual wage)は、パートタイム労働者がフルタイム相当働いたと見做した調整が行われています。
日本ではパートタイム労働者が増えているため、プラス補正されているような状況です。
1997年から最低限の1%成長で570万円、ドイツ・イタリア並みの低成長(2%成長)で700万円、北米並みの3%成長で870万円という水準です。
平均給与が100万円以上は上昇していてもおかしくないレベルなのに、むしろマイナスになってしまっています。
GDPや家計消費はゼロ成長と呼べる推移だと思いますが、賃金は明らかなマイナス成長ですね。
4. 日本の名目成長率の特徴
今回はGDP、家計消費、平均給与の名目成長率について、G7との比較をしてみました。
年率1~2%成長は「最低限の名目成長率」という事もわかりました。
2%成長ができていたと仮定した場合、年間でGDP250兆円、家計消費120兆円、平均給与250万円が現在よりも向上していたかもしれない事になります。
停滞が当たり前となってしまった私たちの感覚からすると、とんでもない数字のように感じますね。
確かに日本はバブル期に大きく経済水準が嵩上げされていて、その末の1997年を基準にすると成長率が他国と比べると低くなるのは仕方のない面もあります。
ただし、その停滞が長期間継続してきたため、国際的な立ち位置が大きく低下しているという事になります。
例えば、2019年の平均給与では、アメリカで66,000ドル、カナダで52,000ドルです。
日本は2%成長が続いた場合で65,000ドル程度(1ドル110円程度の場合)となりますので、アメリカ並みの水準を維持できていたはずです。
現実は、40,000ドル程度で、先進国36か国中20位とOECD36か国中すでに下位レベルにまで低下しています。
平均給与だけでなく、1人あたりGDPや労働生産性でも同じような傾向です。
図7 平均給与 (左:1997年、右:2019年)
図7が1997年と2019年の平均給与の比較です。
日本(青)は1997年に非常に高い水準でしたが、2019年には多くの国に抜かれている状況がよくわかります。
ちなみに為替レート(年平均値)は、1997年で121円/ドル、2019年で110円/ドルで2019年の方が円高となります。
今回は、GDP、家計消費、平均給与について取り上げましたが、次回は労働生産性や物価など他の経済指標についてもご紹介いたします。
皆さんはどのように考えますか?
参考: 経済指標の国際比較について
(2023年11月追記)
今回は、基準年として日本経済のピークとなった1997年を基準とした倍率をご紹介しました。
このような倍率(または指数)で見ると、日本は成長していないことが明確にわかります。
今回の例でも分かると思いますが、各国の基準年での水準やその後の推移がバラバラなので、倍率だけではなかなか各国の状況を把握できません。
もう一つの国際比較の方法としては、通貨単位をドル換算した数値での比較も良く行われますね。
一般的なのは、為替レートでドル換算した数値比較です。
図8 1人あたりGDP 名目 為替レート換算
(OECD統計データより)
図8が1人あたりGDPの名目値を為替レート換算した推移を比較したものです。
為替変動でジグザグして見難いですが、日本が停滞傾向が続いているのがわかります。
1990年代の高い水準から、停滞が続くうちに他国に追い抜かれている様子がわかりますね。
また、各国の物価をアメリカ並みに揃えた場合の数量的な経済水準(この意味で実質的)となる購買力平価換算も参考になると思います。
図9 1人あたりGDP 名目 購買力平価換算
(OECD統計データより)
購買力平価換算は、前提となる一物一価が厳密に成立しているか等の購買力平価の正確性や、換算が想定されている対象が限定されるという部分に注意が必要となりますね。
GDPベースの購買力平価でなんでも換算できるわけでもないようです。
GDP、1人あたりGDP等の場合はGDPベースの購買力平価、現実個別消費の場合は現実個別消費の購買力平価、平均給与の場合は民間最終消費支出の購買力平価を用いる事が推奨されているようです。
もちろん、自国通貨ベースでどのように推移しているかを踏まえている事も大切ですね。
図15 日本 1人あたりGDP 名目・実質
日本ではそもそも自国通貨建てで見ると名目値で30年間停滞が続いています。
実質値で見れば右肩上がりが続いています。
実質値は、物価の影響を排除した数量的な経済規模を見るための数値ですね。
名目値が停滞していて、実質値が成長しているという事は物価が下落している事になります。
この中には情報・通信技術の劇的な向上の寄与分も含まれます。
物価指数がバスケットを想定したモデルにより推定され、その物価指数で名目値を割った推定値として実質値が計算されています。
実質値 = 名目値 ÷ 物価指数
そもそもの自国通貨建てでの傾向(水準と成長率)、金額的な水準比較として名目の為替レート換算値、数量的な水準比較として名目の購買力平価換算値、数量的な成長率の比較として実質成長率のあたりを、実質化の意味を踏まえたうえで総合的に把握していくと良いのではないでしょうか。
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