149 意外と多い日本人の金融資産 - 家計の純金融資産の国際比較
日本の家計はバブル期までに蓄積した金融資産が多く、現在も先進国の中で高い水準です。国際比較してみる事で、可視化してみます。
1. 家計の1人あたり純金融資産の国際比較
前回は、主要国の企業の純金融負債(Financial net worth)を比較してみました。
日本の企業は、1995年頃には極めて高い水準の負債を負っていたことがわかりました。
その後は負債が減り、金融資産が増えている事で、差引の純金融負債が目減りしています。
他国は企業が徐々に純金融負債を増やしている国がほとんどです。
人口1人あたりの金額で見れば、以前は最も高い水準の負債額だったのが、現在は先進国の中で中くらいの水準まで低下しています。
主要国で企業の純金融負債が減っているのは日本にだけ見られる状況のようです。
参考記事: 純金融資産って何だろう?
企業が主として、場合により海外や政府が純金融負債を増やす反対側で、家計の純金融資産が増大していくというのが基本形と言えそうです。
日本の場合は企業が特殊な状況という事がわかりましたが、家計の方はどうでしょうか。
今回は、家計の純金融資産の水準を比較してみたいと思います。
図1 家計 純金融資産 1人あたり
(OECD 統計データ より)
図1が家計の純金融資産(1人あたり)のグラフです。
1995年(青)と2018年(赤)のデータ比較で、2018年の数値が大きい順に並べています。
この統計では、日本は1人あたり112,500ドルもの純金融資産を持っている事になります。
先進国のなかでも6番目と非常に水準が高い事もわかりますね。
直近ではアメリカが最も純金融資産を持っていて、1人あたり207,200ドル程度と日本の倍近くにもなります。
スイスやデンマークなども水準が高いですね
一方で資源大国でもある北欧のノルウェーが少ないのが興味深いです。
日本は、1995年の時点ではアメリカを抜き、データのある中では最も水準の高い国だったようです。
日本はお金持ちの国と言われるのはこの部分ですね。
家計の純金融資産が先進国の中でも多いわけです。
ただし、注意が必要な点がいくつかありますね。
既に見てきた通り、この中には年金受給権等、今は持っていないけど今後受け取る予定のお金が含まれているという点です。
そして、金融資産の多くは、高齢層に偏っているという点ですね。
貯蓄額の7割は60歳以上の高齢層が所持している状況で、世代間の資産ギャップが大きい状況です。
参考記事: 低所得化もで豊かな家計の実態
また、為替レートによるドル換算値ですので、為替の変動によって大きく金額が変わる点にも注意が必要です。
2. 家計の1人あたり純金融資産の推移
続いて、家計の純金融資産の推移も見てみましょう。
図2 家計 純金融資産 1人あたり 推移
(OECD 統計データ より)
図2は主要国の家計の純金融資産(1人あたり)の推移です。
特徴的なのは、日本の停滞感ですね。
1995年の時点ではアメリカを抜き最も高い水準で、なおかつその後も増加傾向ではありますが、他の国の増加ぶりと比較するとかなり緩やかである事がわかります。
アメリカやスイスには差を広げられて、スウェーデンには追い抜かれ、カナダにかなり差を詰められている状況ですね。
日本単体のグラフで見ると、家計の純金融資産は右肩上がりで増大していますが、国際比較してみるとその伸びはかなり緩やかであるという事がわかります。
3. 家計の純金融資産の成長度合い
図3 家計 純金融資産
(OECD 統計データ より)
図3が1995年を基準(1.0)とした、家計の純金融資産(各国通貨ベース)の倍率です。
元々の水準が高かった事もありますが、倍率に直すとこれだけの違いが出てきます。
アメリカやカナダはこの23年間で4倍にもなっていますし、ドイツ、フランス、イギリスは3~3.5倍、イタリアは2倍以上です。
日本は1.5倍くらいですね。
右肩上がりに見えていた家計資産も、かなり増加具合が緩やかであるという事になります。
4. 家計の純金融資産の特徴
今回は、家計の純金融資産についてご紹介しました。
日本は企業が純金融負債を減らしているので、その代わりに政府と海外が負債を増やし、家計が金融資産を増やしている状況です。
その家計の純金融資産は、1995年の段階では極めて高い水準だったのが、他国と比べると緩やかな成長となっていて、他国に抜かれている状況ですね。
現在はまだ先進国で6番目の高い水準を維持していますが、この傾向が続けば更に順位を落としていく事になりそうです。
日本は長引く経済停滞と共に労働者が低所得化していました。
一時は「お金持ち」と言われた日本ですが、そのような状態からも変化していきそうです。
図4 家計 金融資産・負債 詳細
図4は日本の家計の金融資産と負債の時系列データです。
現金・預金が右肩上がりですが、もう一つ保険・年金・定型保証も右肩上がりに増大していますね。
保険・年金・定型保証は、将来もらえる予定の年金や保険の受給権などになります。
金融資産(≒貯蓄額)については、高齢世帯と一部富裕層に偏在していて、特に世代間の資産格差の大きい部分ですね。
参考記事: 実は増えてる家計の資産
図5 貯蓄額のシェア
(国民生活基礎調査 より推定)
図5が、世帯主の年齢階級別の貯蓄額のシェアを示します。
高齢世帯が増えている事もあり、家計の貯蓄の7割以上が高齢世帯が占めます。
一方で、60歳未満のどの世帯でもシェアが減っている状況ですね。
参考記事: 低所得化でも豊かな家計!?
現在の現役世代の所得水準は、他国に比べると相対的に低くなっています。
既に先進国の中では低位の水準です。
現在はまだ日本は比較的家計の持つ金融資産の多い「お金持ちの国」と言えると思いますが、今後は「普通の国」になっていくという事が見えてくるのではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか?
参考: 最新データ
(2024年5月追記)
家計の純金融資産の水準(1人あたりドル換算値)の2022年のデータです。
図6 家計 金融資産・負債差額 1人あたり 2022年
(OECD統計データより)
図6が2022年の人口1人あたりで見た、家計の金融資産・負債残高(純金融資産)です。
日本は103,126ドルで、OECD33か国中10番目の水準となっています。
水準の近いイスラエルとニュージーランドのデータが出揃っていなかったので、もしかしたら35か国中12番目の可能性もあります。
2022年はドル高、自国通貨安となった国が多く、日本は円安がかなり進んだ年である事も留意が必要です。
2018年からの4年間の間に、カナダやベルギーなどに抜かれ、イギリスやドイツ、フランスとの差も縮まっているようです。
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