007 「日本は生産性が低い」は本当? - 労働生産性の国際比較
労働生産性の指標である労働者1人あたりGDPと労働時間あたりGDPの国際比較についてご紹介します。
1. 労働者1人あたりGDPの国際比較
前回はOECDの統計データを元に、OECD加盟35か国の中で、日本の平均給与の水準を見てみました。
35か国中19位という残念な結果でした。
かつては先進国トップ水準だったのが、現在は先進国平均値を下回ります。
よく「日本の労働者は、真面目で優秀だ」と言われます。
それなのに主に先進国で構成されるOECDの中での比較とはいえ、平均以下の順位の給与水準というのは、優秀で成果を出している割に給料が安いだけなのか、実は思っているほど稼げていないのか、どちらなのでしょうか。
今回は、同じくOECDの統計データのうち、労働生産性について見ていきたいと思います。
労働生産性は一般に、GDPを労働者数で割った労働者1人あたりGDPで比較されることが多いようです。
この労働者とは、企業に勤める雇用者に個人事業者を加えた人数となります。
労働者1人あたりGDP = GDP ÷ 労働者数
図1 労働者1人あたりGDPの推移
(OECD統計データ より)
図1は主要先進国の労働者一人あたりGDPの推移を、図1に示しました。
1970年から直近では2017年までのデータとなります。
購買力平価換算の実質値となります。
日本(28,035→71,520)、アメリカ(57,435→111,576)、ドイツ(43,606→82,278)、韓国(8,319→69,240)となっています。
2017年では、日本は35か国中20位に留まります。
スタートの数値が低かった事もありますが、韓国の伸びが著しいですね。
最新の2018年では、日本は韓国に抜かれてしまっているようです。
2. 平均労働時間の国際比較
図1で示したのは、労働者一人あたりの年間のGDP(付加価値の合計)です。
1年間という期間に生み出した付加価値額ですので、1年間に多く働けばそれだけ年間のGDPの数値も大きくなるはずです。
それでは、各国の労働者は一体どれくらい働いているのでしょうか。
まずは各国の労働時間の水準を見てみたいと思います。
図2 平均労働時間の推移
(OECD統計データ より)
図2に各国の労働者の1年間の平均労働時間の推移です。
傾向としてはどの国も右肩下がりで、労働時間を短縮している事がわかります。
昔は「日本人は働きすぎ」と言われた時代もあったそうですが、確かに1970年台は日本の労働者の平均労働時間は2000時間を超え、他の国よりも長い時間労働していたようです。
そこからは右肩下がりで、直近の2017年には1700時間を少し超えるくらい(35か国中19位)まで減少しています。
アメリカはほぼ横ばいの推移を示しており、2017年の時点では、なんと日本よりも多くの時間(同13位)働いているようです。
極端なのは、ドイツと韓国ですね。
ドイツは元々平均労働時間は中程度でしたが、他国よりも減少の割合が大きく、2017年には1360時間と主要先進国で最も平均労働時間の短い国です。
韓国は突出して大きい数値で推移しています。
2017年の時点では2019時間と、メキシコの2148時間についで2位となります。
もちろん、この平均労働時間にはパートタイム労働者も含まれますので、パートタイム労働者の割合が高いほど数値が低く計算されやすい事になります。
3. 労働時間あたりGDPの国際比較
労働者一人あたりGDPを平均労働時間で割ると、1時間あたりのGDPとなります。
OECDで公開されている労働生産性の尺度は、労働者1人あたりGDPと、労働時間あたりGDPの2種類となります。
労働時間あたりGDP = GDP ÷ 総労働時間 = GDP ÷ 労働者数 ÷ 平均労働時間
図3 労働時間あたりGDPの推移
(OECD統計データ より)
図3が労働時間あたりGDPの推移です。
各国とも右肩上がりとなり、労働生産性を高めていることがわかります。
興味深いのが、年間の一人あたりGDPでは大きく差の開いていたアメリカとドイツですが、労働時間あたりGDPではそれほど差がないという点です。
2017年の時点でアメリカが64.2ドル/時間に対して、ドイツは60.5ドル/時間です。
年間の一人あたりGDPでは韓国に肉薄されていた日本ですが、労働時間あたりGDPで見るとまだ少し差があるようです。
図4 労働生産性 2017年
(OECD統計データ)
図4は2017年の労働生産性についての各国比較です。
日本の労働生産性は、2017年の時点で42.1ドル/時間で35か国中20位でした。
一人あたりGDPの順位と同じ順位です。
観点を変えてみても、国際順位は変わりませんでした。
日本も含むG7の平均が56.5ドル/時間で、日本はG7の中では最下位です。
それどころか、日本の労働生産性はOECDの平均48.2ドル/時間にすら届いていません。
アメリカ、ドイツ、フランスや北欧諸国だけでなく、イタリアやスペインにも差を付けられています。
平均給与が35か国中19位でしたので、労働生産性の水準を鑑みると、日本の労働者の給与水準は実力相応と言えるのかもしれません。
4. 日本の労働生産性の特徴
日本の労働生産性は、主要先進国の中ではかなり低い水準が続いていた事になります。
パートタイム労働者の増加もあり、平均労働時間がかなり短縮されているなかで、時間あたりの生産性では既に先進国で下位の水準となっているようです。
以前は長時間働いて年間の付加価値を稼いでいたのが、労働時間の短縮と共に稼ぎも目減りしているような変化にも見えます。
各国の労働生産性を見ていく中で、日本の労働者の立ち位置がより明確に見えてきたのではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか?
参考: 最新状況
(2023年7月追記)
2023年時点での最新データ(2022年)について、名目の購買力平価換算値をご紹介します。
図5 労働時間あたりGDP 名目 購買力平価換算
(OECD統計データより)
図5は労働生産性(労働時間あたりGDP)を最新の2022年まで含めた推移です。
日本は2014年あたりから成長がかなり緩やかとなり、他国との差が開いています。
2022年にはアメリカの物価が上昇した影響もあって、購買力平価換算値が大きく増加しています。
(為替レート換算では急激に円安が進んだ影響でむしろ大きく減少しています)
韓国との差はかなり縮んで肉薄されている状況ですね。
図6 労働時間あたりGDP 名目 購買力平価換算 2022年
(OECD統計データより)
図6は労働生産性の2022年における水準の比較です。
日本は53.2ドル/時間で、OECD37か国中29番目、G7中最下位で、OECD平均値71.1ドル/時間を大きく下回ります。
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