088 工業の縮小する工業立国日本 - GDP生産面の各国推移
主要先進国の産業別GDP(GDP生産面)について、各国の推移をご紹介します。ドイツ、韓国は工業のGDPが大きい事がわかりますが、意外にも公共的産業が最大産業である国が多いようです。
目 次
1. GDP生産面とは
前回は、G7各国の支出面のGDP構成項目について名目成長率をご紹介しました。
家計最終消費支出が最大の項目ではありますが、総資本形成や政府最終消費支出なども、日本以外の主要国は概ね右肩上がりで成長しています。
いずれの項目も年率2%以上で増加している事が確認できました。
日本だけがほぼゼロ成長で、総資本形成にいたってはマイナス成長です。
今回は、GDPの生産面にフォーカスしてみます。
GDP生産面は、産業別(経済活動別)に集計したGDPという事になります。
OECDの統計データでは、国際標準産業分類(ISIC REV4)に基づいて産業が区分されています。
ただし、いくつかの区分をまとめたグループとして表現されていますので、当ブログでは下表のとおり日本語表記を割り当てています。
区分 | 日本語表記(本ブログ) | 英語表記 |
---|---|---|
A | 農林水産業 | Agriculture, forestry and fishing |
B-E | 工業 | Industry, including energy |
F | 建設業 | Construction |
G-I | 一般サービス業 | Distributive trade, repairs; transport; accommod., food serv. |
J | 情報通信業 | Information and communication |
K | 金融保険業 | Financial and insurance activities |
L | 不動産業 | Real estate activities |
M-N | 専門サービス業 | Prof., scientific, techn; admin., support serv. activities |
O-Q | 公務・教育・保健 | Public admin.; compulsory s.s.; education; human health |
R-U | その他サービス業 | Other service activities |
2. アメリカのGDP生産面
どのような産業が付加価値を稼いでいるのか、各国の成長産業に着目していきましょう。
まずはアメリカからです。
図1 アメリカ GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図1がアメリカのGDPの生産面のグラフです。
ちょっと項目が多いのですがご容赦ください。
区分はOECDの区分通りで、国際標準産業分類(ISIC) Rev4をまとめ直したものとなります。
① 農林水産業(濃緑): 農業、林業、水産業
② 工業(赤): 鉱業、製造業、電気・ガス・蒸気及び空調供給業、水供給業
③ 建設業(水色)
④ 一般サービス業(青): 卸売・小売り・自動車修理業、運輸・保管業、宿泊・飲食業
⑤ 情報通信業(ピンク)
⑥ 金融保険業(茶)
⑦ 不動産業(オレンジ)
⑧ 専門サービス業(紫): 法律・会計サービス、コンサルタント、広告市場調査、科学技術サービスなど
⑨ 公務・教育・保健(緑): 公務・国防・社会保険事業、教育、保健衛生事業など
⑩ その他サービス業(黄): スポーツ、芸術、娯楽など
アメリカは工業、一般サービス業が順調に伸びて大きな存在感がありますが、それ以上に公務・教育・保健が大きいですね。
国防が含まれますので、防衛産業が含まれるという事になると思います。
建設業は少し停滞気味ですが、近年増大傾向です。
それぞれの産業の大きさとシェアを確認しましょう。
アメリカ 2017年
GDP合計: 18.80 兆$
① 公務・教育・保健: 4.13兆$、 22.0%
② 一般サービス業: 3.07兆$、 16.3%
③ 工業: 2.77兆$、14.7%
④ 不動産業: 2.39兆$、12.7%
⑤ 専門サービス業: 2.22兆$、11.8%
⑥ 金融保険業: 1.44兆$、7.6%
⑦ 情報通信業: 1.33兆$、 7.1%
⑧ 建設業: 0.78兆$、 4.1%
⑨ その他サービス業: 0.50兆$、 2.6%
⑩ 農林水産業: 0.18兆$、0.9%
1997年時点では、工業のシェアは19.9%でしたので、工業以外の産業が増えています。
3. ドイツのGDP生産面
続いて、ドイツについて見てみましょう。
図2 ドイツ GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図2がドイツのグラフです。
工業が断トツの水準ですね。
リーマンショックで一度落ち込んでいますが、すぐに復活して高い水準で増大しています。
リーマンショックや2019年で少し落ち込んでいるのが気になりますが、基本的には増加傾向が続いています。
工業に続いて、公務・教育・保健、一般サービス業といった順番です。
建設業のシェアが低く、停滞しています。
近年で少し増加しているようです。
それぞれの産業の大きさとシェアは下記の通りです。
ドイツ 2019年
GDP合計 3.06兆ユーロ
① 工業: 0.75兆ユーロ、 24.2%
② 公務・教育・保健: 0.58兆ユーロ、 18.8%
③ 一般サービス業: 0.50兆ユーロ、 16.2%
④ 専門サービス業: 0.35兆ユーロ、 11.5%
⑤ 不動産業: 0.33兆ユーロ、 10.5%
⑥ 建設業: 0.17兆ユーロ、 5.5%
⑦ 情報通信業: 0.14兆ユーロ、 4.6%
⑧ 金融保険業: 0.12兆ユーロ、 3.9%
⑨ その他サービス業: 0.12兆ユーロ、 3.8%
⑩ 農林水産業: 0.03兆ユーロ、 0.9%
1997年時点では、工業は25.5%のシェアでしたので、ドイツと言えども工業の存在感はやや低下しているようです。
4. イギリスのGDP生産面
次はイギリス経済を見てみましょう。
図3 イギリス GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図3がイギリスのグラフです。
工業は大きなボリュームではありますが、成長が鈍化しています。
公務・教育・保健が最も大きく、一般サービス業も大きく成長しています。
不動産業が大きいのもイギリスの特徴ですが、それ以上に専門サービス業の伸びが著しいですね。
イギリス 2019年
GDP合計 1.98兆ポンド
① 公務・教育・保健: 0.36兆ポンド、 18.4%
② 一般サービス業: 0.35兆ポンド、 17.7%
③ 専門サービス業: 0.26兆ポンド、 13.3%
④ 工業: 0.26兆ポンド、 13.3.%
⑤ 不動産業: 0.26兆ポンド、 13.0%
⑥ 情報通信業: 0.14兆ポンド、 7.3%
⑦ 金融保険業: 0.13兆ポンド、 6.6%
⑧ 建設業: 0.12兆ポンド、6.2%
⑨ その他サービス業: 0.07兆ポンド、3.5%
⑩ 農林水産業: 0.01兆ポンド、 0.7%
1997年時点では、工業は21.5%のシェアがあったのですが近年では大きく存在感を低下させているようです。
5. カナダのGDP生産面
その他のカナダ、フランス、イタリアについても見てみましょう。
図4 カナダ GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図4がカナダのグラフです。
カナダは工業の動きが不安定ですが、それ以外のどの産業も右肩上がりに大きく成長しています。
やはり公務・教育・保健のボリュームが大きいですね。
建設業や不動産業の伸びが大きい事も特徴的ですね。
カナダ 2016年GDP
合計: 1.89 カナダドル
① 公務・教育・保健: 0.39兆カナダドル、 20.5%
② 一般サービス業: 0.34兆カナダドル、 18.2
③ 工業: 0.33兆カナダドル、 17.4%
④ 不動産業: 0.23兆カナダドル、 12.5%
⑤ 専門サービス業: 0.15兆カナダドル、 7.7%
以下略
6. フランスのGDP生産面
つづいてフランスのデータです。
図5 フランス GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図5はフランスのグラフです。
アメリカと同様に公務・教育・保健が大きいですが、工業は停滞気味(とはいえ20年程で1.4倍)です。
イギリスと同様に、専門サービス業や不動産業の伸びが大きいですね。
建設業の伸びは緩やかです。
フランス 2019年GDP
合計: 2.16兆ユーロ
① 公務・教育・保健: 0.47兆ユーロ、 21.9%
② 一般サービス業: 0.38兆ユーロ、 17.7%
③ 専門サービス業: 0.31兆ユーロ、 14.2%
④ 工業: 0.29兆ユーロ、 13.5%
⑤ 不動産業: 0.28兆ユーロ、 12.9%
以下略
7. イタリアのGDP生産面
つづいてイタリアです。
図6 イタリア GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図6はイタリアのグラフです。
他の主要国と比べると、全体的に停滞気味です。
産業規模が大きい順に、一般サービス業、工業、公務・教育・保健の順番ですね。
一般サービス業、工業はリーマンショックで落ち込んだ後に、やや停滞した後成長軌道に戻っていることが分かります。
一方で、公務・教育・保健は停滞したまま、建設業はマイナスです。
不動産業は比較的伸びが大きいようです。
イタリア 2019年GDP
合計: 1.60兆ユーロ
① 一般サービス業: 0.35兆ユーロ、 21.6%
② 工業: 0.31兆ユーロ、 19.6%
③ 公務・教育・保健: 0.26兆ユーロ、16.4%
④ 不動産業: 0.22兆ユーロ、 13.7%
⑤ 専門サービス業: 0.15兆ユーロ、9.6%
以下略
8. 韓国のGDP生産面
工業国として知られる韓国のGDP生産面も見てみましょう。
図7 韓国 GDP 生産面
(OECD統計データ より)
図7は韓国のグラフです。
韓国は工業の存在感が圧倒的ですね。
しかも大きく成長しています。
2番目に規模の大きな産業が一般サービス業から公務・教育・保健に移っています。
9. 日本のGDP生産面
それでは、最後に日本のグラフを見てみましょう。
図8 日本 GDP 生産面
(OECD 統計データ より)
図8が日本のグラフです。
他の国と比べて、よく見ないと変化がわからないくらいどの産業も横一直線で停滞していますね。
まず特徴的なのは、最大の産業である工業がマイナス成長という事です。
ピークの1997年から一度停滞し、近年では増えてきていますがそれでもピークに比べて約20兆円のマイナスです。
そして、建設業も約10兆円のマイナスですね。
一般サービス業は停滞しています。
緩やかながら伸びているのが、公務・教育・保健(プラス16兆円)、不動産業(プラス10兆円)、専門サービス業(プラス10兆円)といったあたりです。
日本 2018年GDP 合計 545.1兆円
① 工業: 128.0兆円、23.5%
② 一般サービス業: 116.9兆円、 21.5%
③ 公務・教育・保健: 86.2兆円、 15.8%
④ 不動産業: 62.0兆円、 11.4%
⑤ 専門サービス業: 41.2兆円、 7.6%
⑥ 建設業: 31.1兆円、 5.7%
⑦ 情報通信業: 27.0兆円、 5.0%
⑧ その他サービス業: 23.0兆円、 4.2%
⑨ 金融保険業: 22.8兆円、 4.2%
⑩ 農林水産業: 6.8兆円、 1.2%
日本はドイツとともに、今も工業が強い国ではありますが、その工業が成長どころか最も縮小している産業です。
他の国とくらべて、それほど大きく伸びている産業も見当たりません。
10. 主要先進国のGDP生産面の特徴
今回は、主要国のGDPの生産面に注目してみました。
イギリスやフランスは工業は停滞気味ですが専門サービス業の増加が著しいですし、ドイツは今も工業が大きく成長しています、アメリカは工業もサービス業も伸びていますが公務・教育・保健が大きく成長しています。
日本も成長している分野はありますが、全体を押し上げるほどの力強さに欠けているように見えます。
先進国では工業(製造業)からサービス業への転換が進むという話もよく聞きますが、他の先進国では工業もしっかりと成長しているようです。
工業が縮小しているのは、唯一、工業立国の日本だけです。
製造業に身を置く一人としては、由々しき事態だと思います。
同じ工業国で、人口も停滞気味という比較的状況が似ているはずのドイツとの差も明確ですね。
工業が縮小している原因は、国内消費が停滞している事もあると思いますが、製造業の海外進出が進んでいる事も大きいのではないかと思います。
輸出が思うより伸びず海外進出の進んだ背景には、当時日本の物価水準が高まりすぎた事などもありそうですね。
参考記事: 物価比率って何だろう?
また、日本もそうですが、他の主要国では公共性の高い公務・教育・保健が大きく成長しているのが特徴的です。
製造業からサービス業へ、というよりも、製造業から公共的産業への転換が進んでいるのが実態のようです。
皆さんはどのように考えますか?
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