023 支出面で見る日本の経済 - GDPと消費・投資・純輸出
1.日本のGDP支出面
前回は、非正規という働き方についてフォーカスしてみました。
今回は改めて日本のGDPや輸出について統計データをご紹介したいと思います。
日本は輸出依存度が高いのだから、グローバルにビジネスを展開しないと取り残される、と考える経営者さんも多いようです。
日本は実際のところ輸出依存国と言えるのでしょうか。
最近の統計データを見ながら、GDPや輸出について日本の状況を確認してみたいと思います。
まずは用語の意味から確認しましょう。
GDP(国内総生産:Gross Domestic Product)とは、一定期間(たとえば1年間)に国内で生み出された付加価値の総額です。
付加価値とは、産出額(企業でいえば売上高)から、中間投入(企業でいえば仕入れ)を差し引いたものですね。
私たち企業で働く人からすれば、付加価値とは粗利(売上総利益)に近いものと考えればよいと思います。
また、その企業で加えられた金額的価値を表すものですので、まさに私たちの仕事の価値そのものとも言えます。
GDPには、生産面、支出面、分配面から見ても総額は同じになるという三面等価の原則が成り立ちます。
生産面とは、企業などで生産された付加価値の合計という側面で、通常産業別のGDPとして集計されます。
分配面とは、労働者への雇用者報酬や企業に残る営業余剰など、生み出された付加価値を分配した金額の合計という側面です。
支出面とは、分配された国内総生産が消費や投資など最終的にどのように使われるのかという側面です。
企業経営者からすると、支出面=需要と捉えられますので、今回は支出面のGDPについて着目してみましょう。
図1 国内総生産の推移 支出側・名目
(国民経済計算 より)
図1は内閣府統計データである国民経済計算の支出側の国内総生産をグラフ化したものです。
金額は物価の変動を考慮しない名目値です。
年度での計算値となります。
支出面の国内総生産は、大きく次のような項目に分かれます。
民間最終消費支出: 主に家計最終消費支出など、民間での消費支出の総額
政府最終消費支出: 公共事業等の政府による消費支出の総額
総固定資本形成(民間): 住宅や企業設備などの民間での固定資本形成に要した支出の総額
総固定資本形成(公的): 住宅や企業設備などの公的な固定資本形成に要した支出の総額
財貨・サービスの純輸出: 海外との輸出から輸入を差し引いた正味の輸出額(輸出額が多い方がプラス)
折れ線グラフで示しているのが、財貨・サービスの輸出額です。
(純輸出がマイナスでもグラフ上で表現されており、わかりにくいグラフとなってしまいましたがご容赦ください。)
1994年度から2017年度のデータを示していますが、GDPは合計500兆円前後でほぼ横ばいです。
直近の2017年度で見ますと、その内訳は下記のとおりです。
303兆円 (55.4%) 民間最終消費支出
108兆円 (19.6%) 政府最終消費支出
104兆円 (19.0%) 総資本形成(民間)
28兆円 ( 5.1%) 総資本形成(公的)
5兆円 ( 0.9%) 財貨・サービスの純輸出
内訳の推移を見ると、民間最終消費支出は2007年度までわずかずつですが増加し、2008年度からほぼ横ばいです。
政府最終消費支出は一貫して徐々に増加し続けています。
総固定資本形成(民間)は2007年度までほぼ横ばいでしたが、2009年度に一気に下がり、その後徐々に元の水準に戻っています。
総固定資本形成(公的)は2008年度まで一貫して下がっていますが、その後はほぼ横ばいで推移しています。
財貨・サービスの輸出額は、2007年度まで増加していますが、2008年度に落ち込みその後徐々に元の水準に戻っています。
2007~2008年度を境にでそれぞれの項目の推移が変化しているのは、もちろんリーマンショックの影響と考えられますね。
輸出については、GDPの17.9%程度で政府最終消費支出と同程度、民間最終消費支出の3分の1といった水準です。
輸出額の対GDP比を輸出依存度と呼ぶそうです。
はたしてこの割合が、輸出依存と言えるほど大きいかというと、私はそうでもない印象を持ちました。
日本では内需の方が圧倒的に大きい(輸出の約5倍)ためです。
ただし、この内需が伸び悩んでいるという事が問題ではないかとと思います。
関連記事:
貿易でも存在感が薄れる日本
貿易の少ない日本
2. GDP支出面の実質値
図2 国内総生産の推移 支出側・実質
(国民経済計算 より)
せっかくですので物価の影響も考慮した実質値のGDPについても見てみましょう。
図2にグラフを示します。
このグラフの実質値は、2011年の物価を100とした場合に、各年のGDPを各年の物価水準で補正したものになります。
この補正する係数が、いわゆるデフレータですね。
グラフをみると、名目値よりもなんだか右肩上がりに推移しているようです。
実質値でみると、順調に経済成長しているように見えますね。
何故でしょうか?
名目のグラフと実質のグラフをよく見比べてみると、不思議な事に気づくのではないでしょうか。
過去にさかのぼると、名目値よりも実質値の方が低いことがわかると思います。
1994年には、名目値でちょうど500兆円くらいなのですが、実質値では450兆円以下に目減りしています。
過去の数値を補正すると、実際の金額よりも低く評価されているようです。
3. 名目値と実質値の特徴
図3 名目GDPと実質GDPの推移比較
(国民経済計算)
わかりやすくするために、GDPの合計値のみを重ね合わせてみましょう。
図3に名目GDPと実質GDPの推移の比較を示します。
やはり過去にさかのぼるほど、名目値よりも実質値の方が低くなっています。
何故でしょうか??
それは、日本がデフレ(デフレータがマイナス)だったからですね。
日本の物価指数(GDPデフレータ)は、一度減少してから停滞が続き、近年やや上昇傾向です。
インフレとは、モノの価値(物価)が持続的に上昇していく状況、デフレは逆で物価が持続的に減少していく状況ですね。
物価が下がると、その分お金の価値は高まります。
物価が下がると同じ名目上のお金を持っていても、モノの価値が下がりますので、買えるモノが増えるわけですね。
その「今」から考えると、相対的にモノの価値が高かった「一昔前」では、同じお金を持っていても買えるモノが少なかったわけです
つまりお金の実質的な価値が今よりも低く評価される事になるわけですね。
適度なインフレ状態で物価が徐々に上がりながらも、それを上回る名目GDPの増加があり、その結果実質GDPが緩やかに上昇するのが、健全な経済成長だと言われています。
それが、名目GDPが横ばいなのに、デフレ状態で物価が下がっているものだから、実質では経済成長しているといういびつな状況が、今の日本の経済状況だという事がわかります。
確かに、同じお金で買えるモノが増えるのだから、実質的には豊かになったとも言えるかもしれません。
でもそれは、「お給料が同じであれば」の話だと思います。
お給料自体も減っている状況では、必ずしも物価が下がって豊かになれているとは言い切れないわけです。
デフレ型経済成長は、結局このような国民の貧困化を招くという影響が出ると言われています。
特に日本の場合は、実質GDPは成長していても、実質賃金は停滞していますね。
この辺りは、いずれもう少し勉強して詳しくご紹介できればと思います。
4. 日本のGDPの特徴
今回は日本のGDPと、支出目の各項目についてご紹介しました。
日本のGDPは名目値で見ると、長期間停滞しています。
その中でも、家計最終消費支出が停滞し、政府最終消費支出が増え、投資である総資本形成が減っています。
一方で、実質値を見ると、緩やかではありますが増加傾向が続いています。
名目値が停滞していて実質値が成長しているという、少し変わった変化をしているようです。
また、貿易面を見ると現在の日本では輸出よりも内需が5倍ほどあるという事実も印象的です。
これは、日本だけの傾向なのでしょうか?
次回からは他国との比較もしていきたいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
関連記事:
実質と名目の違いとは?
GDPと給与の名目と実質
参考:家計消費の変化
(2023年7月追記)
GDP支出面の最大項目は55%程を占める、私たち家計の最終消費支出です。
この家計最終消費支出が、ピークとなった1997年から見るとどのように変化したのか、その様子を可視化してみましょう。
図4 家計最終消費支出 名目・実質 変化量
(家計調査より)
図4が日本の家計最終消費支出について、1997年から2019年の変化量をまとめたものです。
横軸が名目変化量、縦軸が実質変化量となります。
名目でも実質でも増えているのが、住宅・電気・ガス・水道、情報・通信、個別ケア・社会保護・その他、食料・非アルコール、保健・医療です。
生活に必須な消費支出が増えている事になります。
一方、減少している項目も多い事がわかりますね。
名目も実質も減少しているのが、娯楽・スポーツ・文化、被服・履物、アルコール飲料・たばこ、外食・宿泊サービスなどです。
どちらかと言えば生活に必須というよりも、より豊かな生活を楽しむための消費支出が減っているような変化です。
生活に必須な支出は増え、ぜいたく品は抑えるという消費行動になっているように見受けられます。
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