029 私たちはどれだけ貧困化したか? - 家計の貧困と所得格差
日本の家計は貧困化が進んだと言われますが、具体的にどのように変化したのかを統計データで確認してみます。
1. 世帯所得の減少
前回は、消費者物価指数(CPI)やGDPデフレータを取り上げ、日本では長期的に見れば物価停滞が続いている状況がわかりました。
日本の労働者は賃金水準が低下し低所得化が進んでいます。
また、貧困世帯が増えているといった話も良く聞くようになりました。
最近ではアンダークラスと言われる階層も出現し、日本の中で新しい階級社会が出来上がっているとの指摘もされてきました。
(「新・日本の階級社会」、橋本健二著、講談社現代新書)
それでは、私達日本国民は、どれだけ貧困化が進んだのでしょうか?
とても深刻な問題ですし、いち企業経営者としてもこの問題は真摯に受け止めていきたいと思います。
少しボリュームがありますが、一つひとつのグラフをじっくり見ていただければと思います。
まず所得の問題から見てみましょう。
図1 所得5分位の推移
(国民生活基礎調査より)
図1は世帯所得5分位の推移を示しています。
所得5分位とは所得の分布を5等分する分割線(第I~第IV)の事です。
中央値の線(緑)も追加してあります。
1993~1997年頃をピークに世帯所得が少しずつ減少している事がわかります。
中央値で見れば1995年の550万円がピークで、直近の2017年で423万円となります。
1世帯当たり130万円以上下がっている事になります。
世帯主の収入が減少している事が主な要因と思われます。
もちろんこの期間に、高齢世帯や単身世帯が増加していますので、その影響もあると思います。
家計の収入・支出の変化や可処分所得については、下記の記事でも詳細を取り上げておりますので、宜しければご一読ください。
参考記事: 家計収入・支出の減少
参考記事:可処分所得って何?
2. 低所得世帯の増加
図2 所得分布の推移
(国民生活基礎調査)
図2は世帯所得分布の推移を示します。
1993年あたりを底にして、200万円未満、200~400万円の低所得層が増大していることがわかります。
400~600万円、600~800万円の中所得層は横ばい、800万円以上の高所得層が減少しています。
2009年あたりからは横ばい傾向が続いているようにも見えますが、1990年代と比較すると低所得世帯の割合が増えた事になります。
3. 生活が苦しい人の増加
図3 生活意識の推移
(国民生活基礎調査)
図3は生活意識の推移を示します。
やはり1993年頃から、大変苦しい、やや苦しいと答える割合が増えていき、普通、ややゆとりがあると答える割合が減っていっています。
6割近くが生活が苦しいと回答する世の中になっています。
1990年頃と比較すれば、私たちの生活は苦しくなってきている事がわかります。
このような貧困化について、もう少し専門的な指標を使って定量的に見てみましょう。
4. 日本の所得格差と貧困
図3 格差と貧困に関する指標推移
図3は貧困を表す指標として生活保護割合、低所得者率、格差を示す指標としてジニ係数の推移を示しています。
前述の橋本健二氏による「新・日本の階級社会」にて同様のグラフが掲載されていますが、2010年までのグラフでしたので私の方で2017年まで補完的に作成してみました。
(ジニ係数は3年ごとの統計となりますので、グラフ作成の都合上間は前回数値と同じ数値を用いています)
本来は貧困率を記載したかったのですが、ちょうど良い統計データが無かったので、男性のアンダークラスと同程度(200万円未満)の所得者割合を低所得者率として記載しました。
ジニ係数とは社会における所得の不平等さを示す指標で、0~1の間の数値で表されます。
ジニ係数が0だと各人の所得が均一で格差が全くない状態です。
ジニ係数が1だとたった一人が全ての人間の所得を独占している状態を示します。
0.4を超えると、社会的な騒乱が起こりやすくなり、警戒しなければいけないラインとなるそうです。
日本においては、当初所得のジニ係数と再分配所得によるジニ係数の2つの指標が用いられます。
当初所得は当初の額面そのままの所得です。
日本においては、所得税などの税金や、社会保障などによって所得の再分配が行われますので、それらの再分配による調整を加味した係数が再分配所得によるジニ係数となります。
図3を見ると、当初所得のジニ係数は上昇し続け直近では0.55程度となっています。
所得格差は広がり続けている状況がわかります。
再分配所得によるジニ係数は1997年頃まで上昇傾向ですが、その後は0.35~0.40の間で推移しているようです。
低所得者率は1991~1998年にかけて底を打ち、上昇に転じた後10~11%程度で高止まりしています。
現在では所得200万円未満の低所得世帯が10世帯に1世帯程度は存在するという事です。
生活保護割合は全世帯数に対する生活保護受給世帯数の割合を示します。
(ジニ係数とレベルを合わせるために割合を10倍してあります。さらに10倍にすれば全世帯数に対する割合[%]になります)
生活保護割合は、2000年からのデータしか取得できませんでしたが、一貫して上がり続けていますが、2010年頃から増加率が鈍化しています。
現在では、全世帯中3%程度が生活保護世帯という状況です。
上記の結果から言える事は、日本では税金や社会保障による再分配により、実質的な格差はある一定範囲に抑えられているようですが、特に1990年代後半あたりから貧困化が進んでいると見てよいのではないでしょうか。
5. 所得格差と貧困の国際比較
また、上記のジニ係数や貧困率などの指標の水準は、他の国と比較してどうでしょうか。
図4 ジニ係数の国際比較
(OECD統計データより)
図5 相対的貧困率の国際比較
(OECD統計データより)
図4に2016年時点のジニ係数、図5に相対的貧困率の国際比較のグラフを示します。
両方とも現役世代についての再分配後の数値です。
ジニ係数はメキシコ、トルコ、チリが高い数値を示し0.4以上です。
次いでアメリカが0.39で4番目の水準です。
日本は0.33でOECD36か国中13番目でした。
OECDの平均が0.315ですので、平均よりも所得格差が大きいという結果です。
相対的貧困率については、アメリカが最も大きく15.5%です。
日本は13.6%と9番目に高い水準です。
OECDの平均が10.7%ですので、やはり平均値よりも貧困率が高いという結果となります。
先進国と見ても良いOECD36カ国の内で、格差も貧困率も高い方に位置するわけですね。
より詳しい貧困率やジニ係数については、以下の記事もご参照ください。
参考記事: 所得格差(ジニ係数)って何?
参考記事: 貧困率の高い日本
参考記事: 高齢世代の格差と貧困
参考記事: 日本の社会支出は不十分か?
6. 日本の貧困化の特徴
今回は日本の貧困化についての統計データをご紹介しました。
従来の資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級という4つの階層に加えて、アンダークラスと呼ばれる5番目の階層が生まれ、日本社会に無くてはならない存在として定着しているという指摘がなされています。
このアンダークラスの労働者は主に非正規雇用(主婦のパートタイムは除く)であり、低賃金の単純労働に就かざるを得ず、平均所得は186万円程度、未婚率は男性で66%以上と言われます。
このような労働者が日本には930万人ほど、全就業者に占める割合は15%程度にまでなるそうです。
そして、主に人手不足と言われる分野で、低賃金で労働を余儀なくされています。
雇用者側も、このような労働者抜きではビジネスが回らない状況に甘んじてしまっているように見えます。
また、格差や貧困は世代を超えて受け継がれていくという指摘もなされているようです。
貧困世帯からは中々抜けられないばかりか、解雇や病気、あるいは介護などで突然貧困世帯に転落する人も増えてきているようです。
既に大企業の大規模なリストラも当たり前になってきており、解雇されてもまた同規模の企業への再就職は難しくなりますね。
今後は大企業で働いていた労働者程、アンダークラスに転じるリスクも高まるのかもしれません。
既にこのような問題は一部の貧困層の限定的な話ではなく、日本人全員が自分事として向き合わなければならない時期に来ているようにも思えますね。
経済的な停滞から脱し、格差や貧困を減らしていくために、私達企業経営者やビジネスに関わる人間は何ができるでしょうか。
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