049 製缶:製缶加工って何?

製缶加工

多品種少量の部品製作の中でも、大きな要素となる製缶加工についての概要をご紹介します。

1. 製缶加工とは

生産設備や製造装置、産業機械などの多品種少量の機械・装置の製造において、製缶加工は主要な加工工程の1つと言えます。

多品種少量の製造工程は、大きく製缶加工、板金加工、機械加工に分かれます。

機械加工はフライス盤・マシニングセンタや旋盤などの工作機械を用いて、角材や丸材を削る加工です。
機械・装置の機構部分など精密部品の製作に用いられます。

板金加工は板材をレーザー加工機・タレットパンチで抜いたり、ベンダー(プレスブレーキ)で曲げたりする加工です。
機械・装置のカバーなど補助的な部品の製作に用いられます。

製缶加工は主に溶接加工による部材を接合して構造体を製作する加工です。
機械・装置の場合は躯体や、架台、水槽・タンクなどを製作するために用いられます。

製缶加工は英語でCanningと表現される通り、容器を製作するイメージが強いですが、構造体全般を製作する幅広い用語となります。

2. 製缶加工によるフレーム構造

機械・装置で用いられる製缶加工は、主にアングル材や角パイプ材などを用いた躯体・筐体が多いですね。

このようなフレーム構造に、ブラケットなどを取付け、様々な機構部品を配置できるような製缶加工部品が多いです。

架台
製缶加工によるフレーム構造の例2
躯体
製缶加工によるフレーム構造の例2

例えば上図のような角パイプやプレートを溶接で組み上げたようなフレーム構造が一般的です。
それぞれのプレートにネジ穴などを開けておき、機構部品などを配置し全体として機能する機械・装置となるわけです。

このような躯体などのフレーム構造は、機構部品の相対位置を保持して一体として機能するための剛性や強度が求められます。
このため、フレーム用の材料として、都合の良い断面を持ち、軽量かつ剛性の高いフレーム構造を実現できるよう、形材と呼ばれる断面形状がL型やパイプ状に決められた長尺材が用いられます。

このようなアングル材、チャンネル材、角パイプ材などの形材は、材料ごとに規格寸法や表面状態が決まっており、一般に流通しています。
形材を製缶加工工場で切断し、溶接によってフレーム状に組み上げていくのが一般的です。

材質ごとの形材の規格は、是非下記記事も参照してみてください。

鉄系材料:角パイプ材の規格
鉄系材料 角パイプ材の規格
鉄系材料
鉄系材料 アングル材の規格
鉄系材料:チャンネル材の規格
鉄系材料 チャンネル材の規格
ステンレス:角パイプ材の規格
ステンレス 角パイプの規格
ステンレス:アングル材の規格
ステンレス アングル材の規格
ステンレス:チャンネル材の規格
ステンレス チャンネル材の規格

3. 製缶加工の加工精度

一般的なサイズの部品製作であれば、精密機械加工の加工精度は概ね0.1mm以下のオーダー、精密板金加工の加工精度は0.2mm程度のオーダーが一般的です。
これらの加工は、工作機械によって加工精度の向上が進み、非常に精度の高い加工が実現できます。

一方で、製缶加工の加工精度は、1m以内の加工であれば±1~2mm程度が一般的です。
職人の手作業が多く、加工精度は精密機械加工や精密板金加工と比べて1桁はオーダーが異なります。
大型の製缶部品になれば、その大きさに応じて生じる加工精度も粗くなっていきます。

製缶加工によって加工精度が悪化する主な理由は以下の通りです。

・材料自体の加工精度(形材の場合は反り、変形などがある)
・切断による誤差
・組み上げ時の誤差
・溶接による歪み、変形

特に形材は一般的にはメタルソーや帯鋸盤などを使って切断されますが、職人が手作業で扱う機会となりますので、精度よく切断長さを決めること自体が難しいです。
近年では、形材を切断できるレーザー加工機なども登場していますが、工期やコストが嵩みやすく、製缶加工のスピード感を生かせない場合があります。

また、製缶加工は部材を溶接で組み合わせていく事が基本となりますので、部材同士の位置合わせ誤差や、溶接による歪み・変形の影響も大きな加工となります。

これらの変形は、組立後に矯正作業を行う事である程度低減できますが、それでやっと1m以内の製缶部品で±1mmの精度が確保できるかどうかといった水準となります。

特に全周溶接の指示があると歪みが大きくなりやすく、加工精度の確保が困難となる場合がありますので注意が必要です。

4. 製缶加工のコスト

製缶加工は職人によるアナログ的な加工工程が大半を占めます。

製造費用は材料費に加えて、加工工数に対する人件費が加わる事になります。
かつては製缶職人の時間単価は1時間2,500円程度でしたが、職人の急減により4,000~6,000円程度の製造業者が多くなっているようです。

また、フレーム構造の製作などは、1個1個定盤の上で組み上げていく加工となりますので、量産効果はほとんどありません。
量産品であれば組立用の治具などを用いる事である程度は工程短縮も可能ですが、かなり限定的となります。

5. 製缶加工の特徴

製缶加工は機械・装置の製造にはなくてはならない加工です。

自動化の進んだ製造業の中でも、多品種少量の製缶加工によるフレーム構造の製造はなかなか自動化が難しいのが実情です。
ベテラン職人による作業が最も必要な分野の1つですが、その職人も年々減少しています。

歪みや変形を意識して溶接の順番を考えたり、治工具を駆使して精度よく仕上げるには、長年の経験や勘が重要となります。
部材の切断や製作には自動化技術の進展もありますが、最終的に組み立てるのは職人が行います。
特にステンレスは溶接による変形も大きく、製缶加工の難易度も上がります。

製缶加工の知見を持っているベテラン設計者さんも急激に減少しており、製造の段階でトラブルとなる事例も増えています。
設計においても製造現場の実績や得意分野を踏まえた製作方法を選択いただけると良いのではないでしょうか。

気になる事があれば、是非積極的に製造現場とコミュニケーションをとってみてください。

機械部品の設計や製作に関するお問い合わせは、お気軽に下記お問い合わせ先よりご連絡ください。

小川真由プロフィール画像

< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。

<主なWEBメディア掲載実績>
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