051 製缶:溶接による変形の傾向と対処例

製缶 溶接による変形の傾向と対処例

製缶加工にありがちな溶接による変形の特徴と対処例についてご紹介します。

1. 開いた形状の典型例

角パイプやアングル材などを溶接で接合して構造体を製作する製缶加工は、機械・装置の製造において非常に重要な加工方法です。

形材などを用いる事で、軽量かつ高強度・高剛性な構造体が実現できますが、溶接を用いる都合上注意すべき点も多いですね。

今回は製缶加工でありがちな溶接による変形例とその対処方法についてご紹介します。

開口部のあるフレーム構造例
開口部のあるフレーム構造例

最もシンプルな事例として、上図のような開口部のあるフレーム構造をイメージしてみましょう。

両サイドに突き出た形状があり、その内側付け根部分も溶接する想定とします。
特に食品加工機械や理化学装置で、ステンレスで製作する場合は、このような付け根部分も全周溶接とする場合が多いです。

溶接による変形
溶接による変形

このような形状では、上図左のように、開口部の付け根部分と先端部分が平行である事が理想ですね。

ただし、現実には上図右のようにつき出た部分が内側にお辞儀をするように曲がります。
これは上図はかなり誇張していますが、特に付け根内側の溶接によってこのような内側に曲がるような変形が生じます。

もちろん、製造現場ではこのような変形が起こらないように、次のような対処を行います。

①溶接時に開口部に突っ張り棒を挟んで変形しないようにする
②溶接後、変形部と裏側を炎で炙り矯正する
③ハンマーで叩いたり、圧力を加える事で矯正する

上記のような手法が、製缶加工現場において取られる変形の回避・矯正方法です。

しかし、製造現場でいくら頑張っても、変形をゼロにすることはできません。

このように、開口部のある形状は、溶接による変形を生じやすく、トラブルとなりやすい典型例です。

2. 形状変更の例

設計側としても、製缶加工ではこのような変形を生じやすい事を前提にして設計していただけると、製造時のトラブルも回避できますね。

設計としてまず意識していただきたいのが、開口部が必ずしも必要かという事です。
単に部材の節約のために開口部を設けているのであれば、是非その部分を閉じる事をご検討ください。

今回の場合は、例えば以下のような設計に変更する事になります。

形状変更例 開口部を閉じる
形状変更例 開口部を閉じる

上図は開口部を枠状に閉じる設計変更例です。

確かに部材は1本追加となりますが、製造現場からすると変形を抑えるための工数が削減され、結果的にコストダウンや品質の安定に繋がる事も多いです。

まずはこのような変更ができないかを第一に考えていただけると良いと思います。

3. リブの追加

どうしても開口形状が必要な場合は、突出し形状の付け根に三角リブを追加する事を検討してみてください。

今回の例だと、次のようなイメージです。

形状変更例 リブの追加
形状変更例 リブの追加

上図のようにリブを追加する事で、溶接による変形をかなり低減する事ができます。

変形が抑えられるだけでなく、片持ち状態の部位の強度も上がりますので、製品としての品質も向上するのではないでしょうか。

4. 製缶加工の変形の特徴

製缶加工は溶接を用いる事から、変形が付き物の加工です。
構造体を形成するために必須の手法と言えますが、変形の発生を考慮せずに設計すると思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。

特に今回のような片持ち状態の部材に対して、片側のみ溶接するようなケースは必ず溶接側に曲がりが生じます。
製造現場である程度の矯正は可能ですが、それでも限界があります。

やはり、まずは設計側として、変形を考慮しておく必要がありますね。

今回ご紹介したような、片持ち状態を閉じて解消する、リブを追加するというのが最も基本的な設計側での対処方法となります。

もちろん、突出し部分の長さを短くする、部材の断面形状を大きくする、肉厚を厚くするなどという変更も溶接による変形を減らす方向となります。

また、製缶加工は精密機械加工や精密板金加工と異なり、加工精度は1桁粗くなります。
ある程度の変形や加工誤差が生じる前提で設計するとトラブルを未然に防ぐ事に繋がります。

総合的に判断して、現実的な設計を心掛けてみてください。

機械部品の設計や製作に関するお問い合わせは、お気軽に下記お問い合わせ先よりご連絡ください。

小川真由プロフィール画像

< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。

<主なWEBメディア掲載実績>
ミスミmeviy: 製造現場から褒められる部品設計の秘訣
ミスミmeviy: 中小企業経営から学ぶ生産性向上の秘訣
ITmedia MONOist: ファクトから考える中小製造業の生きる道
ITmedia MONOist: イチから分かる 楽しく学ぶ経済の話
ITmedia MONOist: 小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ
News Picks: 中小企業の付加価値経営
note: 日本の経済統計と転換点

<SNS>
X(Twitter): https://x.com/OgawaSeisakusho
News Picks: https://newspicks.com/user/9405124/
Facebook: https://www.facebook.com/ogawatech2015
LinkedIn: https://www.linkedin.com/company/90400411

機械部品の設計・調達に役立つ製造まめ知識
機械部品の設計・調達に役立つ製造まめ知識
記事一覧

にほんブログ村のランキングに参加しています。
記事の内容がご参考になりましたら、是非以下のバナーをクリックして応援していただけますと嬉しいです。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村