052 製缶:張り合わせの板はベコベコする!
製缶加工で薄板を用いる際に生じる変形の傾向と抑制方法についてご紹介します。
1. 面貼り構造の変形例
製缶加工は、角パイプやアングル材などでフレーム構造を構成するのが基本となります。
そのフレーム構造に、機器の取り付け用ブラケットや、板金部品などを取り付けて製缶部品として完成させていきます。
この際に、比較的面積の広い薄板を溶接で貼るような場合も多いです
あるいは、板材だけで張り合わせて容器や立壁形状を構成する事もあります。
搭載物を受けるための面を作る、水分や油分の受けとして使う(オイルパン)など用途は様々です。
このような面の広い薄板を溶接で張り合わせると、必ずどこかの面が歪みます。
溶接の際の熱による変形の逃げ場がなく、表面の凹凸として表出するためです。
ステンレスの場合や全周溶接をする場合は歪みの具合も大きく、「べこべこ」とうねったり、膨らんだり(へこんだり)します。
板厚が1~2mm程度の薄板は特にこの傾向が顕著となります。
例えば上図のような、角パイプでフレームを組み、上面に薄板で面を貼るような構造例を考えてみましょう。
台車、架台などの上面などは、このような構造とすることが多いですね。
薄板部分をフレームに溶接で取付け、上面に積載物を置くようなイメージです。
本来このようなときは、上図の上のように上面の薄板が平らで変形の無い状態が理想です。
ただし、現実には溶接による歪みが生じ、上図の下のような「べこべこ」とした変更が生じます。
例えば最初の状態で膨らんでいるとすると、その部分を押し込むと「べこっ」とへこみ、平らにはなりません。
溶接の順番を変えたりして、製造現場レベルでは変形を抑える事はある程度可能ですが、それでも変形はつきものとなります。
このような時に、上面の板を肉厚にする、全周溶接ではなくタップ溶接とするなど、設計の工夫で変形を抑える配慮も必要となります。
2. 補強の追加による変形の抑制例
このような場合、次のように裏面のフレームを追加し、薄板との溶接個所を増やすと変形を大きく低減する事が可能です。
例えば、今回のケースでは上図のような工夫です。
裏面で角パイプのフレーム構造を追加し、薄板との溶接個所を増やします。
もちろん、フレーム構造の追加により強度が向上する面もありますが、中心部分まで溶接個所を増やす事で、薄板の変形も抑制できます。
ただし、薄板だと表側に溶接痕の膨らみが出ますので、予め認識しておくことが必要です。
3. 立壁構造の変形例
薄板を立ち上げて容器や水槽として利用する場合も良くありますね。
例えば、上図のようにフレーム構造の上に薄板を4面立ち上げたような形状をイメージしてみましょう。
このような場合、例えば1辺を取り出して極端に表現してみると、上図のような変形を生じます。
立壁が薄ければ薄いほど、サイズが大きいほど歪みは大きくなります。
例えば1辺が1mくらいあったとすれば、数十mm程度は変形が生じる可能性があります。
製造側で変形を減らすよう工夫する事も可能ですが、それでも限度があります。
4. 補強の追加による変形の抑制例
このような場合、開口部分に折り返しを付ける、外側から補強を追加するなどの工夫をすることで、変形を抑制する事が可能です。
補強を追加する例をご紹介します。
上図が良く見られる立壁の補強例です。
薄板の立壁の周りに、角パイプなどを巻き付けるように溶接で接合し、壁が膨らんだり、へこんだりすることを抑制します。
もちろん、水槽などの用途で使う場合が多いと思いますので、中に液体を満たした場合の圧力による変形を抑制する効果もありますね。
変形が問題となる場合は、このような構造追加も是非検討してみてください。
5. 溶接による薄板の変形
今回は薄板を製缶加工で用いる際の注意ポイントについてご紹介しました。
特に面の広い薄板をお用いる場合は、溶接による歪みが蓄積し、必ずどこかが「べこべこ」と変形します。
補強を入れて溶接個所を増やすことで、この変形も抑制可能です。
ただし、変形がゼロになる事はありません。
製缶部品に薄板を使う設計の場合は、歪みが生じる可能性について意識しておくと良いと思います。
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株式会社小川製作所
取締役 小川真由
< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。
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