059 調達:見積もり依頼を成功させるコツ
受託製造業への見積依頼のポイントをご紹介します。

1. 受託製造業への見積依頼とは
この記事では、受託製造業へ外注する際の、見積依頼のコツについてご紹介します。
多くの場合、メーカー(発注企業)は外注したい製品・部品の図面を受託製造業に提示し見積もりを依頼します。
見積もり金額や工期が自社の要望と合致していれば、発注するという流れになります。
発注企業=調達側からすれば、品質の良いものが、なるべく安く、早く手に入るに越したことはありません。
一方で、受託製造業=供給側からすれば、品質に応じた適正な対価が必要となります。
見積依頼の仕方によっては、本来は不要なやり取りが発生したり、認識の不一致によって要望とは異なるものができてしまったりといったトラブルも発生しがちです。
また、見積依頼のやり取りだけで何往復もコミュニケーションに時間が割かれるのももったいないですね。
お互いに時間がない中で、できるだけ短いやり取りで過不足の無い依頼を済ませたいものです。
双方にとって無理、無駄のない取引となるために、この見積依頼をスムーズに進めるのに必要な事とは何でしょうか。
受託製造業側として、見積依頼をいただく際に必要な情報をまとめてみましたので、是非ご参考にしていただければ幸いです。
2. 見積依頼のポイント
具体的に受託製造業に見積依頼をするときのポイントをご紹介していきます。
2.1 依頼内容・仕様
最も重要なのは、受託製造業側への依頼内容を明確に提示する事です。
依頼内容が具体的に何で、依頼範囲はどこからどこまでなのかを、明確に伝えるようにしましょう。
多くの場合は、図面を支給して、図面通りの部品や製品を製作する依頼となると思います。
ただし、図面の一部分や、工程の一部を依頼する事もあると思います。
材料や附属品は支給するのか、表面処理は含むのかといった依頼範囲も案件によって異なります。
依頼したい内容やその範囲がどこからどこまでなのかを、最初に明示するのが重要となります。
また、溶接や表面仕上げについては、出来栄えなども曖昧になりがちです。
図面に表現しきれない部分にお互いにとってのリスクが隠れている事が少なくありません。
希望する仕上がり具合など図面だけでは伝わりにくい要望があれば、写真や見本などを提示する事で、見積もりの精度も向上しますし、後々トラブルになりにくくなります。
開示できる情報や希望があれば、積極的に共有していただくとお互いのリスクを減らす事に繋がります。
特に溶接が含まれる依頼だと、溶接の仕様や、溶接による変形の許容値、仕上げ具合等は業界によっても一般通念が大きく異なりますので注意が必要なポイントです。
また、見積依頼の時点で3Dデータがあれば、積極的に開示してください。
複雑な製品ほど2D図面からの検討が困難となり、見積もりの精度もばらつきます。
機密保持のために見積時には3Dデータ支給不可の業界もあるようですが、その場合には受注後にトラブルになる可能性が高まります。
2.2 数量・依頼頻度
次に重要なのが、製作数量(ロット数)と発注頻度です。
製作数量とは、1回の発注で依頼する数量です。
当然ですが、ロット数が多いほど量産効果が働き単価は低くなります。
ロット数と単価の関係については、以下の記事もご参照ください。
どの程度のロット数が妥当なのかを知りたい場合は、ロット数ごとに見積もりをすることも可能です。
例えば、10個/ロット、20個/ロット、50個/ロットで見積依頼し、販売計画などと照らし合わせて、発注ロット数を決定するケースも多いです。
ただし、ロット数のパターンを増やすほど見積もる側の手間は増えますし、見積もり時点でそれほど正確な金額が出るわけではない点は踏まえておくと良いでしょう。
発注頻度は、同じ発注を定期的に繰り返す場合のリピート頻度の目安です。
1か月に1回程度なのか、1年に1回程度なのかで、供給側の受け取り方も大きく異なります。
受託製造業の納期や工程の考え方については、以下の記事も是非ご参照ください。
単発案件なのか、リピート案件なのかというのも非常に重要な情報です。
単発案件の場合は、そもそも受け付けてくれない受託製造業者もありますし、逆にそのような単発案件ばかりを扱っている受託製造業者もあります。
単発かどうかというのは非常に重要な情報となり、一般的にリピート案件よりも割高となります。
リピート案件であれば、それに応じた治具・工具や工程の考え方が前提となります。
初期費用が必要となる分、1回の発注当たりのコストを抑えるご提案も可能となります。
リピートの可能性があれば、積極的に開示をした方が、発注側、受注側双方にとってメリットが大きい事になります。
また、リピートする場合は、初期製作の時点で1ロット余分に製作して在庫としておき、リピート発注の都度在庫から納入する事で、双方ともに納期に追われなくて済むという方法も考えられます。
大量生産品の場合は在庫のコストは膨大となりますが、多品種少量生産の場合は有効なオプションとなります。
どちらが在庫を持つか、改定・廃盤となったときの取り扱いをどのようにするかという取り決めは必要ですが、このような措置は供給側にとってもメリットは大きいので、積極的に相談すると良いと思います。
リピートする場合は、見積もりを依頼した時点で生産の継続年数がわかっていれば、是非共有してください。
今後期間を定めずに注文が続くのか、継続期間が予め決まっているのかで、供給側の対応も変わってきます。
2.3 納期・発注タイミング
発注する製品の納期は取引条件の中でも特に重要な要素となります。
発注するタイミングも大切です。
基本的には、見積依頼をする際に次のスケジュール感を共有すると良いでしょう。
・見積もり期日
・発注予定日
・納期
特に発注予定日は忘れられがちですが、供給側からすると納期と同じくらい重要な情報となります。
納期だけ先に決まっていて、なかなか発注されず、供給側が手配を進められずに困り果てるというケースも多いためです。
社内的な手続きなどで時間がかかる場合は、メールなどで発注を内示し、材料手配などの製作準備を先行して進めるなどの対処もありますので、積極的に相談してみると良いと思います。
2.4 希望単価
希望単価や実績単価を伝えるのも非常に重要です。
もちろん費用を知りたいから見積依頼するわけですが、既に製作実績があったり、予算の決まっている依頼品であれば、希望単価を積極的に開示した方が、双方にとってメリットが大きい事になります。
希望単価があるのに見積だけさせて、希望単価に合わないので発注しないというのは双方にとって無駄な労力を使う事になります。
特に、見積もり作業は、供給側にとっても大きな負担です。
見積依頼ばかりしてきて発注の無い顧客は、信頼関係を毀損するばかりか、いずれは見積自体に応じてもらえなくなる可能性もあります。
また、他者との相見積もりをしていたり、自社が相見積もりをされているのであれば、それも供給側に伝えた方が良いでしょう。
相見積もりの場合は見積もりを辞退する供給業者も非常に増えています。
見積りを提出した後に相見積もりであった事が発覚した場合、大きく信頼関係を毀損します。
コストを抑えたいのであれば、しっかりと相手に誠意をもって伝え、一緒にコストダウンの方法を考えてもらう方が双方にとって生産的な姿勢と言えます。
また、見積もりを有償化する事業者も増えてきました。
「見積はタダ」ではなくなりつつあり、少なくとも受託製造業者側の工数は発生している事は踏まえておくと良いと思います。
2.5 諸条件
依頼にあたって、次のような内容も明確にすると、トラブルを避けやすくなります。
・初期費用の取り扱い
・洗浄、梱包などの取り扱い
・運送方法、送料の取り扱い
・NG発生時の対処
・検収期日
・支払い条件
リピート品の場合は、治工具の製作費、NCプログラムの作成費、CADデータの作成費、金型の製作費用などの初期費用をどのように処理するかを提示する事が重要です。
製品・部品の材料費や製作・加工費が重視されがちですが、洗浄や梱包、配送費用なども取引条件としては重要です。
特に大物の場合は、梱包、配送費用も大きな金額となります。
場合によっては保管にも費用がかかる場合もありますね。
NG発生時の対処については、トラブルになりやすいポイントです。
再製作となった場合の費用、納期をどのように設定するかは大きな問題となりますので、見積もり時にあらかじめ明確にしておいた方が良いでしょう。
品質管理が厳しすぎ、一般公差でも公差外が出れば再製作を指示するというメーカーも一定数存在するようです。
確かに、取引契約通りではあるかもしれませんが、残念ながら優良な受託製造業ほどそのような過剰品質を求める顧客からは離れていきます。
支払条件については、近年では約束手形の廃止が進んでいます。
代わりに電子記録債権(でんさい)での支払いも増えています。
約束手形やでんさい、買掛金は、発注者の受注者への負債である点は忘れられがちなポイントです。
かつては約束手形を受け取らせに、遠方からわざわざ受託製造業者を呼びつけている企業も存在したようです。
双方にとって無理のない取引条件かは、取引開始前に確認しておく必要があります。
3. 見積依頼を成功させるポイント
受託製造業者に見積依頼を成功させるポイントをまとめると、次の通りとなります。
①依頼内容・仕様を明確にする
②依頼数量・発注頻度を伝える
③納期・発注タイミングを伝える
④希望単価を伝える
⑤梱包、運送方法、支払い条件などの諸条件を伝える
上記を意識していただけると、スムーズな見積もり依頼となり、お互いに無理・無駄のない取引に繋がると思います。
注意すべきポイントとしては、電話などでの口頭の発注や条件の提示は避けた方が良いでしょう。
口頭での伝達は、後々「言った」「言わない」といったトラブルに繋がる原因となりがちです。
可能な限り、文章に残る形で、条件の提示を行うと良いと思います。
また、近年では小規模事業者の廃業などが相次ぎ、受託製造業者の絶対数が減っています。
価格競争を繰り返してきたような受託製造業者ほど淘汰が進み、高付加価値化を目指す企業が増えてきたのも特徴的です。
発注側としても、従来のように見積依頼をすれば、それが相見積もりだったとしても受託製造業が応じてくれるという時代ではありません。
見積依頼を受けた受託製造業者は、社内工程だけではなく、材料費や外注加工費を更に仕入先に見積依頼をすることになります。
受注確度の低い見積依頼は、発注者と供給業者の信頼関係を毀損するだけでなく、供給業者とその更に仕入先との信頼関係を毀損する事にも繋がります。
このため、供給業者側も受注確度の低い見積依頼は辞退する傾向が強まっています。
既に多くの領域で発注者優位の状況ではなくなっており、供給側も発注側をよく観察し選んでいる事を踏まえた方が良いでしょう。
1社ずつ丁寧に信頼関係を築いていかなければ、仕入自体がままならなくなる可能性すらあります。
今後長期的に付き合っていくビジネスパートナーとして、対等な目線で仕入先と向き合っていくのが基本姿勢である事は言うまでもありませんね。
本記事がご参考になりましたら幸いです。
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株式会社小川製作所
取締役 小川真由
< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。
<主なWEBメディア掲載実績>
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