013 切削:3次元加工と表面粗さ
切削加工における3次元加工は、一般にボールエンドミルを用います。ボールエンドミルの加工による3次元加工特有の表面粗さの考え方などをご紹介します。
1. 3次元加工の典型例
今回は、切削加工の醍醐味とも言える3次元加工について、実際にはどのように行われているのかをご紹介します。
仕上がり状態は独特な凹凸が形成されますが、その表面粗さについても解説します。
まずは典型的な3次元形状の加工について具体的に考えてみましょう。
上図のような、土台に半球状の凸形状のある部品を考えてみます。
付け根にはアールが必要です。
切削加工によるこのような3次元形状の加工には、通常のスクエアエンドミルではなく、ボールエンドミルが使用されます。
スクエアエンドミルは、先端が平坦(フラット)な刃物です。
フラットエンドミルとも呼ばれ、底面、段差など汎用的に利用されるエンドミルと言えます。
3次元加工の粗加工にも用いられます。
一方、ボールエンドミルは、先端が半球状の刃物です。
実際に素材を削るのは接触する点の近傍のみで、細かく位置をずらしていく事であたかも滑らかな曲面を形成する事が可能です。
金型や、航空機部品など自由曲面の多い部品を加工する際に用いられます。
切削加工業者の中にも、ボールエンドミルによる3次元加工に対応していないところも多いですね。
2. 3次元加工の流れ
具体的に、ボールエンドミルを使用してどのような流れで加工が進むのかをご紹介します。
基本的に切削加工とは、大きめのエンドミルで仕上がりに概ね近い形状を作り出す粗加工と、仕上がり形状をなぞるように精度よく削る仕上加工に分かれます。
粗加工は体積(ボリューム)を除去するのが目的で、仕上加工は最終的な出来栄え、精度を実現するのが目的と言えます。
上図が粗加工の様子ですが、ブロック状の素材に対してスクエアエンドミルなどの粗加工用エンドミルで大まかな形を削ります。
スクエアエンドミルを用いると、階段状のギザギザとした状態になるのが特徴的です。
粗加工は効率的に不要な体積を除去する事が目的となります。
次の仕上加工で大きな負荷とならない程度にできるだけ大きな刃物で、高速に加工する方法が選ばれます。
場合によっては、粗加工を大きい刃物、小さめの刃物と何段階かで行う事もあります。
粗加工が完了したら、次に行うのがボールエンドミルを用いての仕上加工です。
仕上加工は、最終的な形状の表面に沿って細かくボールエンドミルで削ります。
粗加工が体積を除去する加工であるのに対して、仕上加工は表面をなぞる加工となります。
仕上加工の終わった状態の表面状態を表したのが上の図です。
拡大してみると、ボールエンドミルの円弧が細かいピッチで並んでいるのがわかりますね。
3次元形状と言っても、滑らかなツルっとした仕上がりになるわけではなく、円弧状の微細な凹凸で覆われている状態となります。
3次元加工とはこのようにボールエンドミルを使用して、滑らかな曲面を疑似的に実現する方法と言えます。
3. 3次元加工の表面粗さ
それでは、ボールエンドミルによる曲面加工の表面粗さとはどのように計算されるのでしょうか?
ボールエンドミルによる加工面を拡大すると、上の図のようになります。
円弧状の凹凸があるピッチで並んでいる事になり、円弧の底と表面とで高さが異なることになります。
この凹凸の高さをカスプハイト(理論加工面粗さ:h)と呼びます。
円弧の連なりのピッチ(P)と、円弧(ボールエンドミル)の半径(R)との間には次のような関係が成立します。
h = P2 / ( 8 x R )
つまり、ピッチが小さいほど、半径が大きいほどカスプハイトが小さくなり、より滑らかな表面になる事を表しています。
当然ピッチが細かいとその分エンドミルの動く距離が長くなりますので、加工時間が増大します。
エンドミルの半径が大きいほど、細かい部分まで削ることができなくなります。
このような制約を考えながら、職人は適正なエンドミルや加工の条件を決定していく事になります。
エンドミルは、必要な範囲でできるだけ大きいものを利用するのが良いことになります。
実際には、その加工で必要となる最小のアールに制約を受けることになりますね。
この最小アールに合わせて、エンドミルの半径を決めることになります。
さらに、L/D≦5という基本制約がありますので、細く深い形状はそもそも削れない可能性もあります。
そのあたりを加工前に確認する事も、職人の大きな仕事の1つとなります。
逆に、曲面部分の表面粗さが指定されていれば、上図からピッチやエンドミルの半径を計算して決めることになります。
あまりに表面粗さを細かく設定すると、思わぬ加工時間の増大を招きますので、設計時にご注意いただければと思います。
4. 3次元加工の実際
今回は3次元加工の工程と、特有の表面粗さの考え方についてご紹介しました。
切削加工はボリュームを除去する粗加工と、表面をなぞって精度の良い形状を実現する仕上加工に分けて行われるのが一般的です。
その分工程も増えますが、結果的に効率よく最短工期で加工を実現できます。
粗加工、仕上加工にどのような工具と加工条件を用いるかは職人の経験と、図面指示によって決まります。
特に、3次元曲面の仕上がり表面粗さから逆算して、仕上加工の工具や加工条件が決まる事になります。
更に、その仕上加工の条件に合わせて粗加工の工具や加工条件も選ばれることになります。
3次元曲面の面粗さ指示が粗いほど工程は短縮されますが、仕上がりもざらざらした段差のある表面となります。
製造現場と相談しながら設計サイドで現実的な表面粗さ指示とするのが理想ですね。
表面粗さの設定などでお困りのことがあれば、是非当社にもお問い合わせ下さい。
機械部品の設計や製作に関するお問い合わせは、お気軽に下記お問い合わせ先よりご連絡ください。
株式会社小川製作所
取締役 小川真由
< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。
<主なWEBメディア掲載実績>
ミスミmeviy: 製造現場から褒められる部品設計の秘訣
ミスミmeviy: 中小企業経営から学ぶ生産性向上の秘訣
ITmedia MONOist: ファクトから考える中小製造業の生きる道
ITmedia MONOist: イチから分かる 楽しく学ぶ経済の話
ITmedia MONOist: 小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ
News Picks: 中小企業の付加価値経営
note: 日本の経済統計と転換点
<SNS>
X(Twitter): https://x.com/OgawaSeisakusho
News Picks: https://newspicks.com/user/9405124/
Facebook: https://www.facebook.com/ogawatech2015
LinkedIn: https://www.linkedin.com/company/90400411