003 切削:隅アールとL/D

切削加工は精密部品を加工する際に用いられる汎用的な加工方法ですが、回転工具を用いる事で隅アールが形成されます。隅アールについての考え方と対処方法についてご紹介します。

切削:隅アールとL/D

1. 切削加工に付き物の隅アール

フライス盤などによる切削加工は、精密機械加工の花形ですね。
ブロック状の材料(ワークとも呼ばれます)を機械に固定し、エンドミルと呼ばれる刃物を回転させ削ります。

±0.02mmなどの寸法精度が要求されるような精密部品は、主にこの切削加工が施されます。

ただし、回転工具を使うが故に、様々な制約を受けるのも事実です。
この制約を予め知っているのと、そうでないのとでは図面の質が大きく変わってきます。

今回は、切削加工の特徴のうち、隅アールL/D(エルバイディー)について解説します。

切削加工イメージ
切削加工 イメージ

切削加工では、回転するエンドミルをNCプログラムによる自動運転や、職人がハンドル操作で動かし材料にぶつかった部分が削り取られるという仕組みです。
エンドミルが通った部分が削り取られ、その削り取られなかった部分が部品形状として残るという事になります。

エンドミルには一般的なスクエアエンドミル(上図のような底がフラットな刃物)や、先端が半球状のボールエンドミル、従切削に向いたラフィングエンドミルなど様々な種類とサイズがあります。

いずれも工具が回転して材料を削りますので、切削加工特有の制約が生じます。

溝コーナー部の切削加工
溝コーナー部の切削加工

例えば、上図のようにエンドミルをL字型に動かして溝を掘ったとしましょう。

そうすると、当然その折れ曲がり部分は、左側のようなピン角にはなりません。
現実には、最低でもエンドミルの半径分だけ外側にアール形状が残るわけです。

回転工具を利用するが故に、このようなアール形状が形成されるのが切削加工の特徴であり、設計上も大きな制約となります。

2. ポケット形状と隅アール

切削加工は、航空機部品やレース部品など、軽量化が必要な部品にも多用されますね。
精密でかつできる限り軽くするために、不要な部分はできる限り肉抜きするのが一般的です。

このような形状をポケット形状、ポケット形状の加工をポケット加工とも呼びます。

ポケット形状の加工
ポケット形状の隅アール

前節で述べた通り、ポケット形状を切削加工で実現する場合、ポケット形状の4隅は、上図左側のようなピン角にはなりません。
やはり、図中央のように4隅にアール形状がつきます。

どうしてもピン角が必要な場合は、形彫放電加工などで可能な限りピン角を狙う事もできますが、加工コストは増大し、工期もその分増えます。
形彫放電加工は、加工に必要な電極そのものを設計し、製作するところからスタートするためです。
形彫放電加工でも厳密にピン角かと言えば、原理上R0.1~0.2mm程度の微小な隅アールがつくともいわれています。

無理やりピン角を設計するのはあまり合理的とは言えませんね。

そんなときのアイディアが、ニガシと呼ばれる形状です。
ポケットに相手方の凸形状が精度よく嵌る場合などに用いられます。
4隅を内側のアールではなく、外側に半径分だけ食い込ませたアールとします。

このようにすることで、切削加工でポケット形状を精度よく仕上げることができ、相手方との嵌めあいは残ったストレート部分を使う事になります。

3. 切欠き形状の隅アール

ポケット形状とともに切削加工で多用されるのが、切欠き形状です。
切欠き形状は、ポケット形状のように上面以外壁で囲まれた形状ではなく、2面ないし3面解放された形状です。

切欠き形状の隅アール
切欠き形状の隅アール

上図は典型的な3面壁部分を持つ切欠き形状の例です。

ポケット形状と同様に、左側のようなピン角は切削加工では実現できません。
やはり中央部のような内側のアールか、右側のようなニガシ形状となります。

切欠き形状の隅アール 側面からのアプローチ
切欠き形状の隅アール 側面からのアプローチ

切欠き形状は、解放されている側面からエンドミルをアプローチして、上図のような方向にもアール形状をつけるような加工も可能です。

あまり一般的ではありませんが、こういった加工もできると知っていれば設計の自由度も上がるのではないでしょうか。

4. L/Dって何だろう?

切削加工にはアール形状がつきものだという事はご理解いただけたと思います。

このアールはどれくらいが一般的なのでしょうか?
設計者からすれば、半径の小さなエンドミルを使って、アールを極力小さくすれば良いと考えるかもしれませんね。

実は隅アールの大きさと、形状の深さには重要な制約が存在します。

エンドミルは高速で回転しますし、回転したまま材料に衝突します。
その際に、あまりに細長く突き出したエンドミルだと、加工の負荷で先端が暴れてしまいます。
ビビりと呼ばれる粗い切削面が形成されてしまったり、最悪の場合は加工中にエンドミルが折損してしまいます。

基本的に、刃物の直径(D)と、刃物の突出し長さ(L)には下式のような制約がつくわけです。

L / D ≦ 5

つまり、刃物の突出し長さは、エンドミル直径の5倍までという事になります。
削り深さ≒突出し長さですし、エンドミルの直径は隅アールの2倍です。

設計者目線で見れば、削り深さは隅アールの10倍まで、という制約があるとご理解ください。

ただし、材質や形状、加工条件などで必ずしもこの通りではないので、あくまでも目安となります。

また、切削加工はエンドミルを小さく、細かく加工するほど加工時間が増加します。
小さな隅アールの指示をすると、それだけ加工コストに跳ね返ってくる可能性がありますので、ご注意ください。

隅アールの大きさ、深さや方向については、製造現場で使用している機械や治具、加工方法・ノウハウなどでも得意・不得意が異なります。

切削加工の設計で困ったときなどは、是非製造現場に気軽にご相談ください。

当社でも、製造現場での具体的な加工方法の知見を基に、設計の段階から合理的な形状、製造方法をご提案しています。

機械部品の設計や製作に関するお問い合わせは、お気軽に下記お問い合わせ先よりご連絡ください。

小川真由プロフィール画像

< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。

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