018 切削:設計によるアンダーカットの回避
切削加工で実現困難なアンダーカット形状についての対処方法と回避方法についてご紹介します。
1. アンダーカットの課題
切削加工において、どの方向からもエンドミルをアプローチできないアンダーカット部の形状加工は、実現困難な形状の一つです。
形彫放電加工や、アングルヘッドの活用、溶接との組み合わせなど、製造側の工夫で何とか加工できる場合もあります。
あるいは、3Dプリンタや鋳造で素材を作り、必要部分を切削加工で仕上げるという選択肢もあります。
ただし、これらの方法はいずれもコストや工期が大きく増大する可能性がありますね。
やはり製造現場で無理なく加工できる形に設計側で工夫するのが最も合理的です。
今回は設計変更によってアンダーカット形状の回避をする方法をご紹介します。
2. アンダーカットを作らない
そもそもアンダーカット部の形状は必要でしょうか?
次のように、類似形状でアンダーカットとならないような設計とすることをまずは考えてみると良いと思います。
上図は、上下方向にアンダーカット部の掘り込みを貫通させる変更例です。
切削加工であれば、内側にアール形状を付加する事が必要ですね。
アールが許容できない場合は、切削加工ではなくワイヤー放電加工で実現可能です。
貫通さえしていれば、加工手段の選択肢が増える例です。
上図は、アンダーカット部の窪みを背面まで貫通させる変更例です。
そもそも止まりである必要が無ければ、貫通させるのが切削加工における合理的な設計の基本となります。
このようにすれば、背面側から加工する事も可能です。
加工して貫通させた後、後ろ側から塞いで溶接で埋めてしまうという手も考えられますね。
3. 加工できるアンダーカット形状
例えば、サイドカッターやTスロットカッターと呼ばれる刃物が存在します。
例えばTスロットカッターは、上図のように刃が横を向いていて、直径の大きい刃物です。
主にTスロットと呼ばれるT字の溝を削る場合や、このようなアンダーカット部の形成に用いることができます。
アンダーカット部の形状を、Tスロットカッターなどの刃物形状に合わせて変更できれば、切削加工でも加工できる可能性があります。
例えば、上図のようにアンダーカット部の形状を、Tスロットカッターの半径に合わせた円弧状にする事で加工できますね。
このような設計上の工夫が可能であれば、是非検討してみてください。
4. 加工用形状の追加
アンダーカット部は、エンドミルがアプローチできないため、加工不可となってしまいます。
そこで、部品の用途としては不要だけど、加工用にあえて形状を付加する事も一つの選択肢となります。
例えば、上図のように手前の壁に敢えて加工用の穴を開けたらどうでしょうか?
その穴を通じて、エンドミルをアプローチでき、アンダーカット部の掘り込みを加工できますね。
もちろん、刃物の突出し量と直径との関係L / D ≦ 5を踏まえた設定が必要です。
このような加工用形状を追加する事で、加工が容易になるという事は是非覚えておいていただきたいです。
5. 分割
どうしてもアンダーカット部の形状が必要な場合は、部品を分割してしまうのも一つの手段と言えます。
上図のように、部品を分割して、ボルト締結する事で、アンダーカット部の加工も容易となります。
部品点数は増えますが、トータルの費用が下がる可能性もありますね。
無理に1つの部品に形状を詰め込まず、シンプルに分割してしまうというのも1つの合理化手段と言えます。
製造現場での工夫も色々とありますが、やはり設計側で加工しやすいように工夫するのが最も効果的です。
6. アンダーカットの回避方法の実際
アンダーカット部の形状は、実際にはあまり遭遇しません。
多くの設計者さんが既にアンダーカットを回避する工夫を凝らされているようです。
一方で、アンダーカット部のある設計図面に遭遇した場合に実現困難である事をお伝えすると、早急に代替案で設計変更いただける場合も多いです。
まずは設計者様がアンダーカットの是非と、製作可能の可否を認識して比較検討していただく事が、合理的設計の近道と思います。
是非、今回ご紹介した方法を参考にしてみてください。
不明な点などは、是非お気軽にご相談いただければ幸いです。
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株式会社小川製作所
取締役 小川真由
< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。
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