061 調達:大量生産と少量生産のコストの違い

1. 大量生産と少量生産とは
この記事では、機械部品製作において大量生産と少量生産が、製造工程や単価にどのように影響するのかをご説明します。
今後多品種少量生産のものづくりの重要性が増していく中で、少量生産のコストイメージを持っておくとより合理的な調達活動に繋がると思います。
大量生産とは
製造業における大量生産の機械部品は、一般的に「型」を用いて製造されます。
ここで、大量生産とは1ロットあたりで数千~数万個程度の生産規模を想像してみてください。
合計の生産数としては数万~数百万個の規模です。
例えば、私たちの身の回りで言えば家電や自動車などが大量生産のプロダクトであり、そこに用いられる部品が大量生産部品に該当します。
このような大量生産の機械部品については、樹脂であれば射出成型、金属であればダイカストやプレスなどの製造工程が用いられます。
いずれも金型により、大量に同じ形状の部品を作る製造工程です。
いったん製造が始まれば大量の部品を短時間で製作でき、製造単価も非常に安くなります。
また、組立工程なども、専用のラインを構築し、大量に組立を行う事になります。
自動車の生産ラインが典型例です。
大量生産品の物流面も、専用の梱包・配送手段でまとめて運びますので、1個あたりの物流コストも非常に安価となります。
「規模の経済」と言われるように、大量に作れば作るほど、安価に安定して製造・流通する事が可能となるわけです。
このような大量生産では、1回で大量に同じものを生産する事が可能ですが、それだけ初期コストがかかる事になります。
当然設計不良が発覚した際のリスクも非常に大きい領域です。
金型は一般的に非常に高価ですし、ちょっとした形状変更も難しくなります。
また、生産の際にも金型のセッティングなど段取工数もかかります。
安く、大量に同じものを生産できる分、初期コストがかかり、融通が利きにくい製造工程となります。
少量生産とは
大量生産に対して、少量生産とは1ロットあたり1~数十個程度の生産規模です。
合計の製作数も1個~数百個程度の領域です。
このような領域では、大量生産と同じ手法で生産しても割に合いません。
金型の初期費用を償却できるだけの生産数量が無いためです。
このため、多くの場合少量生産に向いた異なる製造工程が用いられます。
例えば、板金部品であればプレス加工ではなく、レーザーカット・タレットパンチやNCベンダーでの曲げ加工などです。
複雑な機構部品もダイカストなどではなく、切削加工やロストワックスなどが主として使われることになります。
これらの手法は確かに1個あたりの製造コストは大量生産用の製造工程と比べれば割高です。
一方で、初期コストが余りかからないで済むという利点もあります。
途中での設計変更にも柔軟に対応しやすいのも特徴です。
2. 大量生産と少量生産のコストイメージ
大量生産と少量生産では、そもそも使われる製造工程そのものが異なります。
もちろん、製造工程によって材料や形状などにも影響がでますが、ここでは大まかなコストの違いをイメージしてみましょう。
大まかに言えば、部品製造のコストは初期費用と単価で分かれます。
製造における単価の考え方は以下の記事をご参照ください。

大量生産の場合、金型などの初期費用が大きく、ロット数、総生産数も多い分、単価は安くなります。
少量生産の場合、初期費用が少なく、ロット数、総生産数も少ないですが、単価は高くなります。
単純に最初から大量生産か少量生産のどちらかを選んで生産開始したとすると、合計の生産コストは次のようなイメージとなります。

上図は、同じ部品を大量生産工程と少量生産工程で製造した時の、合計生産数(横軸)に対する合計費用(縦軸)を模式図に表したものです。
大量生産工程(赤)は初期費用(投資)が大きくなりますが、1ロットあたりの生産費用は安く抑えられます。
初期費用が大きいという事は、合計生産数ゼロの時点での合計費用(Y切片)が大きい事で表現されています。
1個あたりの単価が安い事は、生産数に対する費用の傾きが緩やかである事で表されています。
少量生産工程(青)は初期費用が安く済みますが、1個あたりの単価が高く、ロット数を重ねるごとに合計費用が嵩んでいきます。
ある生産数量Nにて、少量生産工程の合計生産費用は大量生産工程を上回り、割高な部品となる事になります。
つまり、合計生産数がNを超えなければ少量生産工程の方が安く済み、Nを超えると大量生産工程の方が割安になるわけです。
このように、一般的には合計生産数によって、適切な生産工程が決まってくることになります。
3. スモールスタートの生産工程
大量生産前提のプロダクトであれば、自ずと大量生産工程による生産が選ばれます。
主に大企業によるコンシューマー向け製品は一般的にこのような生産が当たり前ですが、それには大きなリスクと開発資金が必要となります。
もちろん、作ったものを売れるだけの営業力や、販売網が備わっている事も前提条件となりますね。
一方で、スタートアップなどの小資本企業が、プロダクト開発を行う際に、最初から大量生産を行おうとすると非常に大きなリスクを抱える事になります。
もちろん、それだけの資金調達が必要となり、ハードルは極めて高いですね。
資金を集めて生産したところで、作った分を全て売れる保証もありません。
このような場合、少量生産工程と大量生産工程を組み合わせたハイブリッドによるスモールスタートの生産計画が有効な場合があります。
つまり、始めは少量生産で様子を見て、拡販できる確信が得られれば投資をして大量生産に切り替えるという考え方です。

具体的には上図の緑線のような生産計画となります。
上図の場合は初めの2ロット分は少量生産工程で様子を見て、3ロット目以降は投資をして大量生産工程へと切り替えています。
合計費用は最初から大量生産工程で生産した場合よりも嵩みますが、初期生産時のリスクを考えた場合により現実的な生産計画となるのではないでしょうか。
場合によっては、初期生産の売れ行きを見た上で、拡販が難しいと判断すれば傷の浅いうちに撤退する事も可能となります。
早い開発サイクルでリスクを低減しながら、様々なプロダクトを世に出していくうえでも理にかなった考え方となります。
少量生産工程は、このように大量生産の初期段階としても重要な役割を持つことになります。
4. 大量生産で考慮すべきコスト
大量生産工程と少量生産工程は、上述のように初期費用、単価の考え方で大きく異なります。
また、大量生産工程は、全ての工程が自動化されているわけではありません。
いずれは自動化されるとしても、次のような工程は少なからず人の手仕事が介在する事になります。
・機械の段取り、メンテナンス
・二次加工、バリ取りなどの手仕上げ
・組立
・検品、梱包
・配送
自動で機械が動く工数だけでなく、上記のような作業の工数も含めて単価を考える必要があります。
このような作業者の介在する作業は忘れられがちですが、単価にしっかりと反映されなければ持続可能な製造体制の構築はできません。
作業者と機械の工賃の考え方は、以下の記事も是非ご参照ください。

5. 少量生産で考慮すべきコスト
少量生産では、大量生産工程では考慮されないような費用が計上されることが多くなります。
例えば、送料・梱包費用、設計費用、試作費用、治工具費用、打合せ・見積もり費用、検査費用などです。
少量生産では、製造工程以外の工数の割合が高まります。
大量生産では大きな金額となるため、慣習的に無償で対応するような工数も少量生産では明示的に請求されることになります。
大量生産品の調達を専らとしてきた人からすると、少量生産工程の値付けは割高に映るかもしれません。
顧客の代わりに価値を生む作業自体が付加価値と考えれば、上記の費用が計上されるのも道理となります。
上記のような違いを考慮しつつ、発注側と受注側で双方に納得できる取引条件となるよう積極的に情報交換していただけると良いのではないでしょうか。
機械部品の設計や製作に関するお問い合わせは、お気軽に下記お問い合わせ先よりご連絡ください。

株式会社小川製作所
取締役 小川真由
< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。
<主なWEBメディア掲載実績>
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