058 調達:受託製造の納期の決まり方

受託製造業の仕事の流れと、発注者が受託製造業へ外注した場合の納期の決まり方についてご紹介します。

納期の決まり方

1. 受託製造業の仕事の流れ

この記事では、受託製造業へ外注した場合の受託製造業側での仕事の流れを解説します。

また、受託製造の納期がどのように決まるか、実際のビジネスをイメージしながらご紹介していきます。

一般的に、メーカーからある部品の製造・加工を外注した際に、受託製造業側では次のような流れで仕事が進みます。

受託製造業の仕事の流れ
受託製造業の仕事の流れ

上図は、受託製造業の仕事の流れと、その仕事に関わる部門を表現したものです。

もちろん、企業の規模や業種などによって、違いはありますが概ねこのような流れとだとご理解ください。
小規模な事業者ほど、各部門の役割を兼任する割合が大きくなります。

仕事の流れは、次のように進みます。

営業部門
①営業部門が顧客から仕事を受注し、各部門に展開する
 多くの場合注文書と製作用の図面を受け取る

生産管理・調達部門
②製造工程を調整し、下記の通り購入品を手配する
②-1 既製品、消耗品等の購入品を発注、手配する
②-2 材料を発注、手配する
②-3 外注加工などについて発注、手配する

生産技術部門
③図面内容を確認し、下記の通り製造に必要な準備を整える
③-1 製造用の治具を設計・製作する(製作は製造部門が行う)
③-2 加工用のデータ(3Dモデル、NCプログラムなど)を作成する

製造部門
④部品の加工、製造を行う
⑤部品の仕上げ、組立を行う

品質保証部門
⑥品質保証体制を維持・管理し、下記の通り検査を行う
⑥-1 外注品などの受入検査を行う
⑥-2 自社工程の工程内検査を行う
⑥-3 製品の出荷前検査を行う

営業部門
⑦梱包し、顧客に納品する

受託製造業は、図面を受け取る事から仕事がスタートしますので、注文と同時に製造に向けた準備がスタートします。

基本的に最も時間がかかるのが、製造部門における製造・加工工程です。

2. 製造スケジュールの考え方

多くの場合、受託製造業者はリピート品の製作と、単発案件を織り交ぜます。

全ての仕事が定期的に受注となるリピート品だけであれば、それに合わせた人員と体制を整えれば良いのですが、ほとんどの場合は変種変量の受注生産で、受注タイミングも顧客次第の場合が多いためです。

リピート品の受注を基本としながらも、単発案件を織り交ぜる事で稼働率を調整し、出来るだけ工程を埋めるような事業運営をしている事業者が多いです。

具体的に工程管理表の典型例を見ながら、受託製造業の仕事の入れ方と納期の考え方をイメージしていきましょう。

まずリピート品の製作だけの場合、受託製造業者の加工スケジュールは次のようになります。

工程表 リピート品のみ
工程管理表(リピート品のみ)

上の表は、一般的には工程管理表と呼ばれる典型的な例です。

横方向に日程を、縦方向に工程をとり、製品(この場合V~Z)の製造予定を入れて、各工程の操業度合を可視化し、加工スケジュールを管理します。
シフト表のようなものをイメージしていただければ良いと思います。

製品Vの製造であれば、まずは工程Aで2週間、その後工程Bで1週間、最後に工程Gで3週間かかります。
このサイクルで常に製造が回っている事になります。

ボトルネック工程が、工程Gなので3週間で1サイクルという事になりますね。

製品Wは工程Cで1週間、工程Fで2週間かかっていますが、受注に空きがある場合がありそうです。

製品Xは工程Dのみですが、一度受注すると5週間占有工程を占有します。

製品Yは工程Eのみで3週間の工程ですが、一度受注すると結構な期間空きそうです。

このように様々な製品が変種変量で、受注タイミングもバラバラなので、各工程が歯抜け状態となります。
工程Iに至っては、リピート品では全く使われていないようです。

このような状態で事業が継続できれば問題ありませんが、多くの場合これでは十分ではありません。

基本的には、この空いた工程にどんどん単発の仕事などを入れていく事になります。

工程表
工程管理表

実際には上図のように、出来る限り隙間を埋めるような工程となります。

a~vが追加された仕事です。

基本的に直近の予定から仕事が埋まっていき、特に直近2週間程度は完全に工程を埋めるような営業活動をする事業者が多いです。

3. 受託製造業の納期の決まり方

このように受託製造業者では、多くの場合できるだけ工程を埋めて手空きの工程を作らないようにします。

発注者が新しく単発の仕事を依頼しようとする場合、恐らく納期回答としては受注後2~4週間程度と回答されることが多いのではないでしょうか。

つまり、当面1~2週間は既に工程が埋まっているので、製造の着手が1~2週間後からになるという事になります。

複数工程を跨ぐ場合には、更に他の仕事とのスケジュール調整が必要となりますので、納期回答の幅が広がる事になります。

逆に、予期せぬトラブルがあった場合などは、突然スケジュールが空く事もあります。

このような時は、短納期でも対応できる場合があるのです。

受託製造業者は、多くの場合受注タイミングは発注者次第でコントロールできません。
リピート品の場合は、受注していなくても在庫を製造しておくこともあります。

発注側が依頼しようとしている製品がどのようなものになるかで、受託製造業側の工程や納期の考え方が異なります。

<単発の場合>
できる限り規定のリピート品のスケジュールを崩さず、うまく隙間を縫って工程を計画するのが基本となります。
したがって、受注したタイミングによって、納期が異なります。

受注タイミングが数分ずれただけで、数日納期がずれ込むことも多いのでご注意ください。

特急対応の場合は、リピート品のスケジュールをずらして、工程を確保する場合もあります。
このずらしたリピート品の生産は、後々リカバリーしないといけません。

場合によっては、既に段取りの終わった工程をキャンセルしする事もあります。
工程計画が大きく乱れ、想像以上に余計な工数を計上する場合もあります。

特急対応の受託金額が通常の数倍になる事もありますが、背景にはこのような事情があります。

<リピート品の場合>
新規のリピート品を受注する場合は、既定のリピート品の工程と共存できるかを計画します。
うまくスケジュールがかみ合わない場合は、受注時にその都度納期調整が必要になります。

例えば、1ロット分在庫を作っておく事に両者で合意できれば、工程計画は大きく柔軟性を持つことができます。
受注後速やかに納品でき、次の注文までに隙間を縫って生産すれば良いため、双方にとってメリットの大きな手法です。

大量生産品では在庫は悪者にされがちですが、多品種少量生産では工程に余裕を持たせる有効な手段にもなりえます。
大きな規模の企業ほど在庫管理に厳しくなりますが、中小規模では在庫を積極的に確保する場合もあります。

受注タイミングが一定していて、なおかつ継続受注が見込めれば新たに投資を行って工程や作業者を増やす事も選択肢になります。
受託製造業者では、安定した仕事を確保する事は非常に喜ばしい事ですので、細かな要求にも積極的に応じてくれるかもしれません。

受託製造業者側の事情や、ビジネス環境をよく理解していれば、双方にとってメリットのある取引条件を構築しやすいと思います。

製造ハブとして機能するハブ企業は、受注タイミングごとに対応可能なパートナーとのマッチングが取りやすく、特急時などでも柔軟な対応が可能です。

多品種少量生産が重要性を増す今後は、ハブ企業の役割も増していく事になります。

是非積極的に情報交換を行って、お互いにとって無理、無駄のない取引に繋げていただければ幸いです。

機械部品の設計や製作に関するお問い合わせは、お気軽に下記お問い合わせ先よりご連絡ください。

小川真由プロフィール画像

< 筆者紹介 >
2004年慶應義塾大学大学院修了後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)の航空宇宙カンパニーに入社し新規航空機の開発に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、株式会社小川製作所に合流。
製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。WEBメディアを中心に、情報発信も積極的に行う。2024年よりNews Picksのプロピッカーとしても活動。

<主なWEBメディア掲載実績>
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note: 日本の経済統計と転換点

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